裏モノ日記

裏モノ採集は一見平凡で怠惰なる日常の積み重ねの成果である。

7日

木曜日

体験者のろくろくびの声が多数寄せられております

「こんなにのびるなんて信じられません」(千葉・18歳家事手伝い・女性)。朝までドロ寝。6時頃、ふと目を覚ます。右手を枕の下に入れたまま寝ており、あ、これでは血行が、とあわてて枕の下から引き出してみると、驚いたことに、だらん、と手首が垂れ下がったまま。動かそうとしても動かないし、さわってみても感覚がない。そこだけ死んでしまったかのごとく。

 仰天して、寝ている間に神経が切断されたのか、あるいは筋無力症にでもなったかと、いろいろいじっているうち、なんとか動きだし、それから徐々にしびれたような感覚になり、やがて元に復した。ホーッと息をつく。長時間圧迫していて、神経が遮断されたような感じになっていたらしい。しびれもすでに感じなくなっていたのだから、かなり長い間、圧迫していたんだろう。

 一瞬、片腕になって義手でパソコンを打つ自分の姿が連想された。それにしても、普通に寝ていたら、手のしびれで目が覚めるはず。昨日の疲れ(と風邪薬)で、麻酔にかかったみたいな睡眠だったのだろうと思う。朝からちょっとホラーだった。

 8時まで本など読んでベッドの中。朝食、甘夏とバナナ、タマネギのポタ。京都で信者の幼女に手を出したエロ牧師の名前が金保。
「キンタモツ容疑者が……」
 とテレビで連呼されるたびに脳の片隅で
「いやいや、キンタマではない」
 と訂正しなくてはいけない。そうえいばイラクのタラバニ大統領というのもカニ缶にされてしまいそうな名前である。実際、“タラバニ”でGoogleのイメージ検索をすると、一緒にタラバガニ水揚げの画像が並んで出てくるのがマヌケである。

 食べたあともまだ本調子でなく、1時間ほどベッドで横になる。12時、出勤。春爛漫といった気候。マンションの前の桜はすでに散り尽くした。ついてすぐ電話、快楽亭から。『クレヨンしんちゃん』新作試写の件。こっちも、例の新書の件あり。

 昼食、ご飯に黒豆納豆、しじみ汁。『井上陽水ベスト・コレクション』でひさびさに声のカン高い時代の井上陽水を聞き直してみた。最近はコミケで『夢の中へ』を聞くのがせいぜいだったからなあ。私たちフォーク世代には陽水は神サマ、なのだが改めてこの時代の曲を聞いてみると『断絶』とか『人生が二度あれば』など、かなり青臭い歌も作っていたことに気づく。

 おまえのオヤジには わかってもらえない
 どこかへ逃げようと 相談していたら
 またまたあらわれた おまえのオヤジが
「かけおち 家出は絶対いけない
 なぜなら 娘はまだまだ子供だ」と言った
 なんだか 俺達がとっても悪いこと
 している様に見た つめたい顔で見た
                  (断絶)

 ……いや、駆け落ちの相談はとっても悪いことだと思う。まあ、それを承知の歌詞 で

 どうして悪いのだ 愛している事が
 いつでもそばに居て 愛している事が

 と開き直るのがこの歌のミソなのだろうが、まだそれが芸になっていない、単なる頭の悪い高校生のダダという感じで。やはり『傘がない』あたりの、若者の自殺の増加も国の将来の問題どうでもいい、彼女の家にいかなくてはならないのに雨が降っていて傘がない、

 つめたい雨が僕の目の中に降る
 君の事以外は何も見えなくなる
 それは いいだろ?

 くらいにまで突き抜けさせないと独りよがりはユーモアに昇華しない。やるなら徹底、である。ツチダマさんから昨日の件でメール、あそこで千葉に帰ったのは自分の判断ミスでせっかくの好意を無にしてしまい申し訳ありませんでしたとのこと。公演の稽古もあり、演出補として責任感強い彼女は両方への義理で板挟みみたいになってたんだろう。食事に誘ったのも、一日くらい酒とバカ話でそういう責任感から解放させてやろうという気持ちだったんだが、私もそう思ったのなら、も少しゴーインに食事に付き合わせるべきだった。気を使いすぎるのも善し悪し、と反省。

 みずしなさんから次回名もニューの原稿送ってくる。おぐりの顔がだんだん可愛くなってきているのがご愛敬。私の顔がだんだん不気味になってきている気も……。お ぐりと言えばミク日記のコメント欄の
「……です!」
 という語尾を無意識のうちに
「……でございますっ!」
 に直そうとチェックしたりしていて、これは『名もニュー』対談原稿いつもやっている習いが性になったもの。

 東京ウォーカーから電話でインタビュー依頼。神保町特集ということで、ちょっとデジャブ。春は新入大学生目当ての特集で、どうしても企画がダブる。『Memo・ 男の部屋』原稿二日遅れ。書き上げてメール。

 肩が凝るというのでなく、全身に力入らず、座るときなどストンと腰が落っこちる形になる。タントンで一時間揉んでもらって多少元気に。帰りにパルコのブックセン ターに寄り、あれこれと買っていったら数万になった。人文系の本は高い。

 9時まで、書評用の読書したり。10時、幡ヶ谷チャイナハウス。『天動説』Kさ んが、桂平治さんと来ていた。おとついの中野で、
「平治さんとチャイナへ行きたいのだが、予約なしで行けるだろうか」
 と植木さんに質問していたのである。植木さん、しら〜さん、それと母、K子。談志が自分のサイトで“こぶ平は三平の子じゃない”とバラしている件などいろいろ雑 談。
「“自分のお腹を炒めた子”てのはどうでしょう」
 と植木さん。

 酒、紹興酒と蟻酒。体調不良のときは蟻酒が殊にうまい。料理は炙り鶏、干しエビと豆苗炒め、のれそれの卵とじ、シューマイ、小エビと空豆の炒め物。それにリーメン、あと、ご飯が今日は少し残っていたのでチャーハン。隣の席のサラリーマン一党がすでにかなりアルコール回っており大ごきげん。歌ってみたり、立ち上がるとき足 元がよろけてひっくり返ったりという、昔ながらの正当な酔っぱらい方。
「ウチの社が航空写真撮ってみたら……」
 とか言っていたから、植木さんなどと同業種ではと思うのだが。夜遅く来たので皿数少なかったため、植木さんとしら〜さんはこれから三号店(朝五時まで営業)にハ シゴするとのこと。元気な人たちはいいなあ。

Copyright 2006 Shunichi Karasawa