裏モノ日記

裏モノ採集は一見平凡で怠惰なる日常の積み重ねの成果である。

15日

木曜日

だけどナムアミダが出ちゃう、浄土宗だもん

 涙も汗も若い念仏であの空に遠く唱えたい。朝7時45分起床。朝食ソバ粉焼き、デコポン半個。今日のソバ粉焼きはうまく出来た。スーパーモーニングのオープニングをみたら、北海道庁が映り、大雪の光景。昨日は飛行機全便が欠航したとのこと、こりゃ母は来るのダメかな、と思う。クリーニング屋さんが来たので、暮れからずっ と着っぱなしだったレインコートを出す。

 遅くとも水曜まで、と言われたSFマガジン原稿ザクザクやって、11時チョイ前に10枚、書き上げて編集部あてメール。書いている最中に母から電話、9時半に東京着のはずが大幅に遅れて12時半になるとのこと。飛ぶだけ凄い。モノマガにバイク便で図版用ブツ送付。しかし最近の原稿渡しのスリリングなこと。これを切り抜けることには凄まじい快感があるのだが、スリリングが日常になってはいかんよな。

 昼は去年のキムチと豚バラ薄切りを炒めてキムチブタ豆腐丼、ミョウガのみそ汁。食べてからワニマガジンネタ原稿、ガリガリと。もっとスラスラ進むと見越していたのだが、思いの外時間がかかり、母との待ち合わせ時間(2時半中野駅)に間に合わなくなりそうになり、あわてる。なんとか規定のネタ本数まとめてメール、2時チョイ過ぎ、タクシーつかまえて新宿、そこから中野へ中央線快速で。実は行く前に、連絡用の携帯を持って行こうとしたが、これがない。どうも、コートのポケットに入れておいたものを、そのままクリーニングに出してしまったらしいと気がつき、青くなる。携帯そのものはクリーニング店が気づけば返ってくるだろうが、出が遅くなり、母とK子を待たすことになるかも、と思うと胃が痛くなった。幸い、道も空いて、中央線も待たずに飛び乗れ、なんとか5分遅れ、K子が改札を出ようとしたところで、 追いついた。

 母は豪雪の中、タクシーが呼び出しても来ないので、地下鉄で行こうと朝6時に家を出て、幸いすぐタクシー来て追いついたからよかったようなものの、今度は履いていた雪靴が邪魔になり、空港でゴミ箱に捨ててきたとか。と、いうような話を聞きつつ、すでにおなじみとなった駅前のライオンズステージ(大型マンションなので、マンションでなくステージという)分譲事務所へ。係りのNさんと、さっそくバンに乗りこみ、現地へ。相変わらず母はめんどくさいことが嫌いで、スイッチ類の説明などいいかげんに聞き流し、“私、そういうの苦手なの”と言っている。部屋の隅を見て
「あら、ここに札幌のうちの書き物テーブルを置くわ」
 と言うが、高さも何も計っていない。“一センチ高いともう入らないんだから”と言うが、“大丈夫大丈夫、ゼッタイはいる”と極めて楽観的というか、能天気。こういうとき、全てをチェックし、てきぱきと物事をすすめるK子の存在は実に貴重である。もともと買い物が好きで、めんどくさければめんどくさいほど燃える性格の彼女にとって、マンションなどという大きい買い物の手続きを進める作業は、ディズニー ランドに行ったようなものなのだろう。

 この部屋は隣の部屋と入り口が向かい合わせになっており、そっちの部屋も、まだ空いているというので参考までに見せてもらった。鏡像的な部屋は一だが、和室がなく、ややコンパクトな印象。お値段は和室一部屋分でウン百万程度安くなっている。“まあ、やっぱり和室があった方がいいよねえ”で私と母は済ませてしまったが、K 子の目が、何かランランと輝き出した。

 そこからちょっと付近の様子を見て、という予定であったが、やはり東京も寒風がキツく、バス停とスーパーの位置を確認したのみで事務所に戻る。最初の日に出てきた係の人に交替して、正式契約の“儀式”。契約書の文言を一応、口頭で説明しなくてはならぬらしく、こちらはただ聞いているだけ。なかなかツラい。ローンの説明のところで、“お客様は即金でのお支払いですので、これは省略させていただきます”と言ったのに対し、K子が“ちなみに、ローン支払いだと毎月おいくらくらいなんで すか? と訊いた。その額を聞いて、さらにK子、表情を輝かせる。

 ハンコをいくつもいくつも押し、鍵のことや住所表記やなんかのことを全部説明してもらい終わり、やっと手続きが終わる。とりあえず、タクシーで西新宿の母の予約している宿に行き、そこから地下鉄で新宿三丁目へ。伊勢丹会館地下の広島料理屋へ行こうとしたが、まだ6時過ぎなのに満員。仕方なく、鳥源に向かうが、そこも満杯である。じゃア、と伊勢丹に戻り、天一で天ぷら。旬のコースというのを頼む。母もK子も、大仕事終えたという感じで何かテンション高い。私がトイレに立った隙に密 談もしたらしく、顔を見合わせてウフフ、などと笑っている。

 日本酒ちょっと入り、も少し飲もうというので『いれーぬ』へ。タケちゃんに母を紹介。すでにご機嫌状態の母が、いきなりカウンターのノッポさんに料理の講釈を始めたのに驚く。ニューヨークばなしにしばし、花が咲く。そこを1時間ほどで出て、何か食い足りないので、“ソバ食おう、ソバ!”と、へぎそば『昆』へ。炙りイカで酒をちょっと、さらにへぎそば。ここのおばちゃんと母が何か意気投合、“お互い亭主を愛しているのよ”などと、わけがわからんことに。へぎそば、今日のはやけにシコシコしていたが、母は気に入った様子。11時過ぎ、タクシーで母を送り、そのまま渋谷へ。新中野という街が今後、私たちの行動の中に新しく入る。渋谷からのアクセスがちと、不便なのが気になるところではあるが。携帯電話、もう一度探すが、やはり見つからない。

http://www.hegisobakon.co.jp/contents1.html
↑『昆』のホームページがあったのだな。場所がらによる、店主の二丁目よもやま話が面白い。

Copyright 2006 Shunichi Karasawa