裏モノ日記

裏モノ採集は一見平凡で怠惰なる日常の積み重ねの成果である。

13日

金曜日

自暴自棄爺さん掘ったれば

 ああ、可愛がっていたポチが隣の爺さんに殺されて、わしゃもうどうなってもいいんじゃ! 朝、7時起床。夢はゆうべのグリーン食堂の情景そのままだが、話題が何か変で、いろんな知人友人のうわさ話をするのだが、“あの人は実は沖縄人なんだ”“えっ、あの女も沖縄生まれだって話だが”と、みんながみんな沖縄人であることが判明して、どういうことだこれは、と不気味な気持ちになる、というものであった。朝食は貝柱粥に紀州五代梅。果物はサクランボ。牛乳を買い損ねたのでブラックコー ヒー。

 朝刊には載っていなかったがワイドショーでグレゴリー・ペック死去の報。87歳だからまあ、年齢に不足はない。聖職者になるつもりが俳優になった、という“アメリカの良心”“信念の人”の体現で、『白鯨』のエイハブ船長ですら彼が演じると、怪物的どころか、神の怒りをかった非業の人、という感じになってしまった。この役はオーソン・ウェルズが是非にと希望していて、体重がありすぎてあきらめた(そのかわりにマップル神父役で特出。後の再映画化時にはペックがこの神父役で特出)のだが、ウェルズがやったら凄まじいエイハブ像が現出したことだろう。そんなペックだから悪役はほとんど演じてないが、例外が78年の『ブラジルから来た少年』でのナチの軍医、メンゲレ役。この映画はクライマックスが71歳のローレンス・オリビエと62歳のペックの、往年の二枚目同士の死闘という、女斗美ならぬ爺斗美映画で あった。

 朝からじとじとと雨。テンション下がらぬよう麻黄附子細辛湯のむが、副作用で口の中がカラカラに乾く。今日もまたと学会アドミンMLでは会場関係書き込みが陸続と。1時間ほど見ないでいるといきなり(未読・11件)などと出るから油断できない。某大学の某研究所が、例会会場を機材と共にロハで貸してくれる、という夢みたいな話があり、すぐ追っかけでスマソ、やっぱり金はいるみたいとか、とにかく、送 られてくる情報自体がテンションの高いものなのである。

 湿気がひどいせいか、冷蔵庫の中の豆モヤシ、おとつい買ったばかりで、今日見たらもう、糸を引いて納豆のようになっていた。この時期はみな、足が速い。そうだ、納豆も買ってたんだっけと思い出して、見てみるがこっちは全く変化なし。ここでペニシリンを発見、とかに世界偉人伝ならなるのかも知れない。別に偉人ではないので食欲が優先、早いうちに片付けてしまおう、と三カップいっぺんに食べる。あと、豆 腐汁とツボヅケタクアン。

 インタビュー原稿、雑談を“論”にまで高める切り口がなかなか見つからず、苦心する。途中で気張らしにと同人誌用の翻訳などやるが、こっちに夢中になってしまった。アメリカ馬鹿ホラーマンガ特集で、本のタイトルが『あなたの血が欲しイーイーイー!』。そういうセリフが本編中にあるのですよ。馬鹿はいい。ホラーなんてジャ ンルは、馬鹿でなくてはいかんです。

 児島都さんから新刊恵贈。ついでに老猫用のエサも送ってくれた。猫というのは十五年以上生きると、獣医会から表彰されるそうで、彼女の猫も表彰されたそうだ。ウチのも私とK子の結婚した年に拾ったのだから、もうそろそろ表彰される権利はあるということか。さっそくエサをやってみるが、食べ慣れないせいか、あまり喜ばず。若い嫁が“お義父さまには老人だから低カロリー食を”とか勧めて、ツムジを曲げるようなものか。あと、能登のこうでんさんから地酒が送らてくる。明日はサザエが送られてきて、友人たちと壺焼きパーティが開かれることになっている。先に酒が来た わけ。

 結局懸案のと学会例会場、まずその研究所のK教授の好意に甘えてみようじゃアリマセンカ、と言うことでまとまりそう。それとは別個に、明日、来年の大会会場候補の下見に植木氏、IPPAN氏と出向くことにする。何かウキウキ。やはり私もハイになっているな。ベギラマにメール。すぐ返事。銀座みゆき館での公演、まだ席に余裕があるそうである。観てみたいという方、こちらへ。
http://www.uwanosora.com/ichiza/info/mono_pen03miyuki.htm

 9時、神山町『華暦』。着替えて出かけるが、首筋がシャツの襟に触れるとヒリヒリして痛い。一日中汗ばんでいて、汗の中の塩分や尿素で皮膚が荒れたのであろう。おしぼりを首筋にあててしばらくじっとしていたら、だいぶ和らいだ。K子と仕事関係の話、ネットの話。刺身はまぐろ、イサキ、サワラ、蛸。砂肝の唐揚げ、稚アユの塩焼きなど。K子はそうめんをたのむ。冷やし中華みたいな皿盛りそうめんで、桜海老の揚げたのが乗っているが、これが、昔『丸ちゃんの天ぷらそば』に入っていた桜海老の天ぷらの味を思い出させる。『丸ちゃんのてんぷらそば』は、当時ポピュラーだったインスタント日本そばの新製品で、何と具に本物のエビを使っている! と広告で謳っていたが、確かに本物のエビには違いないものの、形もエビとはよくわから ない、大きめのミジンコというくらいの桜エビの掻き揚げであった。
「♪おいしいで、丸ちゃんの天ぷらそばや〜、お蕎麦屋さんかてびっくりや、ほんまのエビかて入ってるねん」
 というCMソングはいまだに覚えているが、ふと、三十数年ぶりにこの歌を口づさんでみて、三十数年ぶりにして、“はて、このCMソング、うどんじゃなくて蕎麦なのに、なんで大阪弁なんだろう?”という疑問がわいた。

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