裏モノ日記

裏モノ採集は一見平凡で怠惰なる日常の積み重ねの成果である。

4日

水曜日

断食おけさ

♪知らぬ同士が、空皿叩いて断食おけさ〜。朝、7時半起床。天気がいまいち優れない。朝食、貝柱粥。梅干の代わりに副食物をスグキの漬け物にしてみる。梅干より合う。発酵の酸味も私好み。新聞に銀髪鬼フレッド・ブラッシー死去の報。ブラッCはしばらくこれでネタが出来るな。さっそく、ネットで私がいつも最も長居をしてしまうサイトである『ミック博士の昭和プロレス研究室』に行ってみるが、ちゃんと新聞よりずっと早く、訃報を掲載していた。さすが。
http://members.tripod.co.jp/drmick/proresu/hansoku/brasse.htm

 以前別のところにも書いたが、某出版関係のパーティで会った人が、“僕のお爺さんは、あのブラッシーの噛みつきをテレビで見て心臓発作で死んだ被害者なんです”と自己紹介して、聞いたときは大変にうらやましく思えたものである。昭和史とか戦後史とかに必ず紹介されるエピソード、いわば歴史の生き証人ならぬ“死に証人”である。ブラッシーの凄かったところは、素顔が実に整った紳士顔であったところだ。ギャング紳士ではあったが。インテリの面影もあり、実際引退後は名マネージャーとして、スタン・ハンセンやハルク・ホーガンを名レスラーに育てあげている。ブルート・バーナードやブル・カリーといった異様な面相のレスラーが噛みつくのはこれはまあ、アタリマエといった感じであまりインパクトはないのだが、ルー・テーズの弟弟子という正統派のテクニシャンが、形勢不利と見るやガラリ一転、反則技、いや技とも言えない噛みつき攻撃で相手を血達磨にするという展開が、モデルとなったドラキュラのイメージにも相通じ、テレビの前の日本人を、心臓が止まるほど大興奮させたのでありました。

 昨日はべろべろに酔って帰宅、ほとんど記憶がない状態だったのだが、確か植木氏をアニドウの上映会に誘ったのだったな、と思い出し、メールの送信記録を確認してみたら、ちゃんと帰宅後、開演時間などを送っていたのであった。律儀な酔っぱらいである。しかも、パイチュウで痺れた頭ながら、植木氏にメールする際の慣習でタイトルを駄洒落にしている。まったく記憶にないのであるが、その駄洒落が“スルホン酸アニドウ”。ずいぶんとマイナーな薬品名を駄洒落にしたものだ。それに対し、帰宅が私よりやや遅れた植木氏から返信が来ていたが、これも駄洒落タイトルで“♪アニドウだけが生き甲斐なの”と。翌朝またメールしあったが、植木氏も返事を出した記憶があやふやで、確認してみておお、ちゃんと駄洒落を作っている、と感動したそうな。改めてお誘い。今日は『太りっこ競争』なんてナイスな作品もありますし。

 鶴岡から電話、と学会東京大会出演のことについて話す。例により、電話での会話がそのまま壇上でのトークになりそうなこといくつか。太田出版のHさんからは“必ず唐沢さんの隣りに座って、二人で突っ込むなりボケるなりして、全体の進行を乱してください”と頼まれたそうだ。Hさんの言うところによると、ディスカッションのとき、そのテーマとなる事項に詳しい、しかも顔見知りの人ばかりだと、トークがきれいにまとまりすぎて、聴いている方の予想した通りのポイントに収斂してしまい、全体のイメージが小さくなる。討論が聴衆の予想を裏切る方向にどんどん発展していかないと……とのこと。こういう考え方が出来るのはプロである。いや、プロのプロデューサーでも最近は、荒れるのを怖れてそういうキャスティングが出来ない。あえて場の調和を乱すフールはどの分野においても絶対に必要だし、また希有な才能を必要とするのである。ちなみに、企画会議の席などにおいては、このフールという言葉を“キチガイ”と訳すことが多い。外に出ない会議用語だからいいのかも知れないが“ここ、キチガイを一人入れたいね”“あ、それなら知り合いにいいキチガイが”などという会話が飛び交うのを以前聞いて、どういう世界だ、と呆れたことがあった。

 メールいくつか。こないだのS興業に続き、今度は債権データネット(略称しにくい名称なのでそのまま書く)なるところから請求メールが届いた。どこかに私のメールアドレスの載った名簿でも流出したか。
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《大至急御連絡致します》
 この度は過去にあなた様が使用された電話回線から接続されたアダルトサイト利用料金について運営業者様より未納利用料金に関する債権譲渡を受け私共が未納利用料金の回収作業を代行させて頂く事になりましたので御連絡させて頂きます。

 現在、下記のとおり記載の利用料金が未納となっております。本件の遅延損害金および回収代行手数料も含めまして本日を含める3銀行営業日以内、6月6日(金)を御支払い期限として下記に記載の指定口座まで御入金して頂けます様お願い申し上げます。

 ご請求金額合計:25702円
 運営業者:パラダイスネット
 未納利用料金:15500円
 遅延損害金: 5202円
 回収代行手数料: 5000円

【振込先口座】
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 鳥取銀行:鳥取駅南支店
 口座番号:普)0014076
 口座名義:ヨコタ マサミ
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※振り込みの際には必ず回収整理番号を名前の前に御入力して下さい。
なお、速やかに御入金して頂けない場合は各地域の債権関連業者および関連事務所へ登録情報および個人情報を登録させて頂く事となります。
結果、最終的に集金専門担当員が御自宅等を訪問、集金をさせて頂く事となります。その際には上記記載のご請求額に加え交通費、人件費等の集金に際して掛かる諸費用も上乗せ加算させて頂き現状の数倍のご請求をさせて頂く場合が御座いますので
お忘れなく必ず御入金して下さいます様お願い申し上げます。xxxxxxxxxxxxxxxxxxxxxxxxxxxxxxxxxxxxxxxxxxxxxxxxxxxxxxx
(株)債権データネット
   代表:横田 雅美
   システム情報管理部
   TEL:03-3544-6222
   FAX:03-3544-6218
   担当:佐藤英樹
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 回収整理番号なんてものをつけて、それを名前の前に御入力ください、とあるのはランダムに出しているので、誰から入金があったかが名前だけだとわからずに、重ねて督促状を出してしまうミスを防ごうという意図か。こないだのやつよりはいくぶん知能犯的なところが見えるのが微笑ましい。そもそも、こないだの境田興業(こっちの名もさらしてしまおう)は振込日の曜日すら“6月5日(金)”と間違えていると いうまぬけさであった。

 昼は冷凍庫に残っていた羊のクズ肉とモヤシ、セロリを炒めて、冷や飯で。それから渋谷駅前まで出て、いくつか買い物。新しい靴など。渋谷古書センターに行き、棚を冷やかす。そしたら、大部の本を抱えた米沢嘉博さんにバッタリと。コミケ当選通知をもらった昨日の今日、そのコミケの主に出会うというのも西手新九郎源何故高。“こんなところまで回っているんですか!”と驚かれたが、それはこっちも同じ感想 である。エロ本コーナーにいないときでよかった、と思う。

 帰宅、仕事雨で進まず。6時、タクシーで新宿まで、そこから中央線で中野。芸能小劇場までブロードウェイの中を歩いていたら、志加吾夫妻とバッタリ。まんだらけに行った帰りだという。それは相変わらずオタクな、と言うと、そちらは? と訊か れたので、こちらもオタクにアニメの上映会です、と。

 ちょうど開場には植木氏や加藤礼次朗氏も入ったところであった。礼ちゃんと、最近のDVDボックスの乱発的状況ばなし。『ガ・キーン』ボックス、買わないといけないのかなあ! と頭を抱えていた。『お兄さまへ……』は奥さんをだまして買わせたそうだ。なみきたかし、例によりこの日記のヘビー・リーダーで、私の顔を見るなり“あ、メガネ変えた?”とかまされる。“あの「オレは大したものビーム」ってのは、オレが周囲のみんなに発しているんだよ!”とか。アニドウ時代、“きゃぴきゃぴムスメ”と陰でこっそり呼んでいたNちゃんは、今や結婚して割烹居酒屋のおかみさんであり、Gさんと名字が変わっていた。私もなみきも歳をとるわけだ。このGという名字について、ちとここには書けないギャグをGさん、つらりとかます。思わず“惜しいッ”と口に出た。こんな面白いことを書けないなんて。

 植木氏と席を隣り会って座る。例のネットの蓮の実画像の話など。安達Oさんと植木さんと、友人の日記二つに出てきた、と話す。さて、上映会。最初にB級ホラーやSFものの予告編をやって、一度そこで客電を上げ、遅れてきた人を座らせるとか、さすが上映会慣れしている団体のプログラム作りは参考になる。なみきによると“テレビアニメなんかやらなければもっといいのに”という意見があるそうだが、確か二十年前に、私も“『フィルム1/24』で『ドラえもん』なんか取り上げる必要はない”と投書したことがあった。苦笑する。今日のそのテレビアニメ上映は『アストロガンガー』。72年の本放送のとき見て以来31年間、思い出したこともなかったアニメで、見終わったあと、加藤礼次朗が“そうそう、こんな番組だった!”と感に堪えたように言った。『マジンガーZ』より放映が2ヶ月早かったせいで、あの作品に“『鉄人28号』以来の巨大ロボットアニメ”という称号を名乗らせなかった作品であるが、同じ年にすでにデビルマンやガッチャマン、海のトリトンなどが放映されていて衝撃を受けていたこちらにとっては、リアルタイムで既に、キャラクターなどの古さが感じられた。とはいえ、改めて確認すると、作画監督・原動画が、『みなしごハッチ』のコンビの田中英二と西城隆詞、美術監督が『母をたずねて三千里』の椋尾篁と、いやに豪華。劇中に登場するブラスター星人のスパイが、新聞記者に化けてガンガーの秘密を探りにくる、その名刺に“西城隆”とある楽屋オチが笑えた。田中英二の描く主人公星カンタロー(星野勘太郎からか?)と早川リエの顔は、今の、いやその当時のアニメの主流からも大きくへだたっていて、なかなか印象的。それにしても、惑星上の植物を食い尽くし、滅ぼしながら銀河を渡り歩くブラスター星人の設定というのはまるきり『インディペンデンス・デイ』である。エメリッヒはガンガー見てるのか、と礼ちゃんと笑う。

 こないだ手違いで上映できなかった『ベティの白雪姫』だが、今日はちゃんと上映する。ただし、そこはなみきのことで、素直にはやらない。アッと驚くいたずらをやらかしたが、日記には書けない。と、いうより、みんな笑っていいものかどうか、やや呆然としていた。しかし、こういうところがまさにアニドウ式だよなあ。『ベティの白雪姫』はとにかく、キャブ・キャロウェイのくねくね・ウォークと歌をアニメで再現して見せよう、という、それだけのポイントにフライシャー兄弟の目論見は集中しており、他の部分はもうどうでもいい、という凄まじい一点集中主義の意味のなさが魅力なのである。他にスタレビッチの『田舎ねずみと町ねずみ』、スタレビッチ趣 味全開の悪夢的造型の人形。

 終わって出て、いつものいつもの焼肉『とらじ』。K子も来る。入ったとたんに、あれ、カラサワさん、と声をかけられる。ミリオンのHさんだった。ちょうど連絡したいと思っていたところ。企画をひとつ持ち込みたいと話すと、“いや、それはいつでもOKですよ”と有り難いお返事。実にいいタイミングで出会えた。それにしても今日は米沢さんに始まって志加吾夫婦、Hさんと、妙に偶然バッタリが多い一日だった。焼き物がいつに増してうまく感じられ、塩カルビにミノ、豚とろ、レバ刺し、ホルモンとやたら食ってしまう。植木さんはなんと昨日、あれだけチャイナハウスで食ったあと、家に帰ってソバとバーガーサンドイッチを作って食ったとのこと。もっとも、酔っていて“食ったらしい”くらいしか覚えていないようであるが。

Copyright 2006 Shunichi Karasawa