裏モノ日記

裏モノ採集は一見平凡で怠惰なる日常の積み重ねの成果である。

21日

金曜日

若狭ゆえ

 若狭ゆえ〜原発〜若狭ゆえ〜笹ガレイ〜。朝7時半起床。寒々しい空模様。案の定雪になるとかや。朝食、ソーセージとキャベツのコンソメスープ缶煮。コンソメスープは煮詰まるので、少し水を足すのがコツ。果物はイチゴ。ワイドショーで渡辺謙の自宅差し押さえ騒動。邪推などは裏モノ会議室の金成さんたちにまかせるが、私は彼の頭髪のかなりの後退ぶりを見て、ああ、やはり心痛はかなりのものなのだろうなあと思ったり、時代劇に出ているとカツラずれでこうなるよなあと思ったり、よく抗癌剤で一旦髪の毛が全部抜けたあとに生えてくると、毛根が再生された状態になるから二度とハゲないというが、あれはウソなんだなあと思ったりとか、いろいろなことを思う。

 お仕事、海拓舎のもの(H社長と打ち合わせした、2月刊行のもの)をガリガリとやる。他の出版社の方には悪いが、さまざまな義理でここを優先しないといかんのです。芝崎くんに電話、コミケの雑事打ち合わせ。講談社Yくんから、原稿をもっと早く出せとお叱りの電話。もっとも、これは“きちんと叱れ”とK子から尻を叩かれているらしい。

 天気どんどん悪くなり、12時ころミゾレとなる。どどいつ文庫伊藤氏、今年最後の来宅。尼さんが出てくるB級映画を驚くべき執念で集めた本とか、鼻くそのほじり方とまるめ方、とばし方を詳細に書いたパロディ本だとか、有名死刑囚の最後の食事のメニューを並べた本だとかいろいろ。

 昼は今日も金沢のみそかラーメン。熟成させた麺も滋味あってうまいが、スープがまた抜群で、最後まで飲んでしまう。ユデタマゴを入れようと、ユデタマゴ作り器に入れてレンジにかけたら、ポン、と音がして、出来たユデタマゴが、容器から飛び出した。

 書庫からいろいろと本を引っぱりだしてきて仕事。大変は大変として、こういうものを書いているとわれながらノリがいい。まるきり世の中のためにならない仕事であるが、楽しみというのは本来、そういうものの中に存在する。意義ある仕事ばかりを追い求めるやつもいるが、そういう連中というのはえてして、自分自身の存在に意義がないのが多い。代償作用として仕事に意義をもたせたがるのであろう。

 3時、時間割へ。雪はもうほとんどやんでいる。積りそうにはない。学陽書房Hくん打ち合わせ。例によって開口一番、“しかし今、本、売れませんねえ”と仕事の意欲をそぐようなことを言うので笑ってしまう。不景気、と顔に書いてあるような人物なのである。しかし、こういう人が仕事をきちんと持ってきてくれるのが不思議である。新作本はとにかく、企画が上に通りやすいようなものを、と言う。通俗本を出すことに異存はない。雑談で、『戦争論』のことになり、あの本がなぜ今の若者をあれだけ魅了するのか、という話をしばし。束縛論になり、アイデンティティ依託論となり、何か講義のようになる。Hくん、“テープレコーダー持ってくればよかったですね”という。しかし、こういう大層な議論をしても、出すのはタウンガイドまがいの本。それでよろしい。

 帰宅してずっと仕事。井上デザインから電話、忘年会のこと。ここの忘年会は、紫煙モウモウで、K子が嫌がるんだけど。一度、平塚くん独立記念の会をこちらで持たないといけない。電話類ナシ、メールも普段の三分の一。

 夜8時、神山町花暦でK子と待ち合わせ、メシ。さすが金曜日で客、引きもきらずに入ってくる。美人女将の娘さんが店員で働いているが、さすが親子でそっくり。鯵刺身、里芋煮、おでんなど数品取るが、感心したのは350円の薄あげ焼き。焼き方といい味つけといい、絶品である。ここの板前、以前の人は浅黒い好男子だったが、今の人は爺むさい、テアトル・エコーにいた二見忠男に似た感じのショボくれたおじさんである。しかし、腕はこちらの方が格段に上と思う。生一杯、あと熱燗。

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