裏モノ日記

裏モノ採集は一見平凡で怠惰なる日常の積み重ねの成果である。

3日

月曜日

夕焼け小焼けのバガボンド

 宮本武蔵が夕焼けにそまる枯れ野を歩いておりますと……(“どんぴ”さんからの投稿)。朝7時半起床。朝食、サツマイモと黄ニラのスープ。このイモ、とにかく甘い。テレビ見ながら、女房と鬼畜な話題。“前は加茂さくらだったというけど、今度は誰かしら”“また加茂さくらだったりして”など。

 日記、入浴、歯磨きなど例如。SFマガジン原稿にかかる。いろいろと雑用で中断する。小野伯父から電話、50周年記念の会のこと。8日に会って話すと言っているのだが、年寄りの気短かで待てないらしい。私が演出を引き受けるとなれば、この会は極めてシンプルに、小野栄一ただ独りにスポットライトを当てるものとしたい。場面のつなぎ役として忠サンたちは必要だろうが、あくまで主役は小野栄一だ。もし談志はじめ来賓があれば、真ん中にそのコーナーを作って、あくまで小野のステージとは別、という形を取りたい。伯父はひとみちゃんに歌わせたいと言っているが、それも別コーナーがよかろう。オレも出てちょっとデュエットする、とか言っているが却下。親子共演がサマになるのは、娘がデビューしたてのときだけだ。すでにステージ歌手としてベテランの域に達している彼女には、独立して歌っていただくというのが親子とはいえ礼儀。ボードビリアンというのは基本的にピンの芸である。人形以外の共演者はいらない。ほとんど繰り返しになるが、サジェスチョンいろいろ。サッチモ人形の服装について改良案を伝える。

 御歳暮の季節で、いろいろと来る。昨日の原稿で御歳暮でもらう困った品、というのを書いたら、某社からまさにソウイウのが届き、大笑いする。K子はこれを図版にして掲載したら、と言っている。

 昼はパルコブックセンターに寄ったついでに、改装新開店されたレストラン街へ。8階の、創作回転寿司というところに行く。まあ、高級回転寿司である。しゃれた内装の広い店内を流れるコンベアがやたら長く、置かれたネタが一周するあいだに干からびそう。お椀と香の物(蓋付き)が運ばれ、お茶も店員が運んでくる。それはいいが、注文とかを受けると、店員全員が大声で“イエス!”と答える。イエスってのはなあ。醤油は土佐醤油で、ネタの方につけてくれということだろう、小皿にハケがついてきて、これでネタの上に塗れと指示される。鯛、エンガワ、ズワイガニ、スモークトサーモンとイクラ、フォアグラなどを食べた。味はまあまあだが、どうも落ち着かない。野菜寿司のネタが多いので、佐々木うどん氏のようなピュアベジタリアンを連れて入るにはいいかもしれない。

 幻冬舎の打ち合わせ、仕事々々で時間が取れない。メールして来週に延ばしてもらう。扶桑社の打ち合わせも同様。何か売れっ子みたいな感じである。しかし金はないのだが。まったく、なぜこう貯まらないだろうなあ。使うからだろうなあ。ソレハわかっているのだが。そろそろ自転車操業からは脱したいものである。

 2時、時間割にて学研のWebマガジンインタビュー。有名人のブックマーク紹介とかいうコーナーである。若手ビジネスマン向きというので、軽いサイトを用意していったが、それでもこの雑誌ではかなりユニークな方に属したらしい。やはり今回もインタビュアーより脇のカメラマンさんの方が笑って、ノッてくれていた。家でモニターの前で画面のぞいているところ写真に撮ったが、カメラマンさん“こんな仕事場 が欲しいなあ”と繰り返す。彼も本マニアらしい。

 4時半、新宿から山手線で日暮里。立川流落語会の前に、同人誌用座談会をやってしまおうという算段。行くと、キウイや志加吾がなにやら緊張した面持ちでロビーにいる。ちょっとこの日暮里寄席について、出演者たちで込み入ったやりとりが行われているらしい。個性の強い立川の面子だけに、いろいろ意見の対立となると長引くと見える。快楽亭の弟子たちにキウイがいろいろ指図をして、家元のスケジュールに誰がついて、あっちの落語会には誰が出て、とテキパキまとめている。高座に上がればともかく、こういう指図をさせれば、さすがベテランである。そう言ったら、“なにしろ立前座(たてぜんざ。前座で一番古いものが務める楽屋の総責任者。出演順の決定など、全ての権限を持つ)歴5年ですから”と、ちょっと鼻を高くする。志加吾が“じゃ、兄サン追い抜いていった人たちは立前座経験ナシで二つ目になっちゃったんですか”と呆れていた。二人相手にコミケの何たるか、同人誌の何たるかを話して、いろいろ驚かれたり呆れたりする。私はてっきり、志加吾あたりはコミケの常連だと思っていたのだが、初体験とは意外だった。

 談合長引いているようで、これは今日の座談会はダメか? と思われたころ、やっと談之助、快楽亭、談生が出てくる。中ではまだ続いているようだ。志加吾を加え、快楽亭の発案で谷中の例のもんじゃ焼き屋『おおき屋』。レバ炒めとカツオのたたきを食べながら、一応司会役を務めて座談会。快楽亭に“噺家になってもう何年になります?”と訊いたら、“何年だっけ、昭和44年の入門だから、もう32年だネ”と言う。志加吾が“ボクの生まれる2年前にもう、立川名乗ってたんですねえ”と感心したように言う。それからもう、座談会どころかここにも書けない話になり、ブラック一代記になるか、と心配していたのだが、次の談之助さんが談志議員の秘書時代の話、談生さんがプロレスラー志望から落語家へと転向したそのあたりの話と、もう今日のメンツはさすがにみんな濃い々々。さて、どうまとめるかが非常に大変&楽しみではある。それにしても落語家という人たちの、世間万象から同門のカミサンにいたるまで、すべてをシャレとして毒舌のまな板にあげるその凄まじさよ。こないだ談之助さんに払ってもらったので、今日は私が持つ。

 出の時間が次々に回ってきて、談之助、談生の順にいなくなる。快楽亭は日本酒をクイクイやっていて、志加吾が“大丈夫ですか”と心配すると、“あ、ソウカ、オレ今日トリで『文違い』なんだよな。なあに、伊達に32年落語家していないから”と言う。歩いてサニーホールまで戻り、談之助の『五目講釈』の後半、ブラックの『文違い』を聞く。ノスケさん、講釈の中にもっとハメコミをするかと思ったらかなりのオーソドキシカルな作り。こないだの古典回帰の表明はホンモノか? 豪語するだけあって快楽亭、酔いの片鱗も見せない堂々たる文違い。圓生や談志のソレが、本当に虚々実々のだましあいという感じが強くて、面白いけれどヤな噺になっているのに比べ、どこか陽気なところがうかがえて軽く聞けるのが大変結構。

 それから出演者全員で例の酔の助で打ち上げ。私は別席で談之助さんともう一回、同人誌の部数などの打ち合わせして、下がらせてもらう。家に帰ると11時だが、K子はまだ帰宅しておらず。風呂入り、寝ていたら12時過ぎに帰ってきた。くりくりの二人と、佐々木うどんさんと飲んでいたらしい。

Copyright 2006 Shunichi Karasawa