裏モノ日記

裏モノ採集は一見平凡で怠惰なる日常の積み重ねの成果である。

5日

水曜日

ヴァン・ダイン長兵衛

 湯殿殺人事件。朝7時半起床。朝食、サツマイモとニラスープ。今日は官能倶楽部の熱海旅行。忘年会及び熱海の新名所(?)『不思議な街一丁目』の取材である。日記つけ、雑事をこなす。花緑・きく姫の結婚報道のニュースが。とり・みきが以前、ユニット『あかね雲ちゃん』で“SFはSFと結婚する、SFの血はだんだん濃くなる”と歌っていたが、落語の血もどんどん濃くなる。まあ、すでにどちらも国際天然記念物並になっているのかも。まあ、花緑も天然記念物だけにヨソの国の血を(以下略)。11時に掃除のおばさん来て、風呂場や台所を片付ける。K子、ナンビョーさんのサイトとリンクを貼る作業を平塚くんと電話で例の如きやりとりをしながら行っているが、その最中も、マンションの窓ガラス掃除で、ロープをつたって掃除屋さんが一生懸命やっていた。大掃除の季節になったのだなあ。

 SFマガジン原稿、ざっざと書き進む。以前の日記に、エッセイは書き上げたときの方が、小説は書いているときの方が面白い、と記したが、今回も書いていて自分ひとりがニヤニヤする。ペースもかなり進んだが、出発時間が早まったこともあって、完成には至らず。S編集長にメールして、また延ばしてもらう。昼は書いている途中で、ネギと豚バラの炒めもの。それと菜っ葉、ミョウガの味噌汁。食べるはしからお腹が空いてくる感じ。あ、エッセイは書き上がるまで食欲がわかないが、小説は書いている最中から猛烈に腹が減るな。

 3時、K子と家を出て、東京駅まで。銀の鈴のところで開田夫妻、談之助さんと待ち合わせ。睦月さん、安達Oさん、串間努さんは直接熱海での待ち合わせとなる。新幹線、三人がけの席の片方を回転させて向かい合わせにする。談之助さんが離れた席なのだが、勝手に一緒の席に座る。キップを調べに来た係員さんに、“ここの席のお客さんが見えたら譲ってくださいね”と言われたが、幸い、目的地の熱海まで、誰もやって来なかった。その駅員さんが、小さい体に大きめの制服を、新学期の小学生みたいに着込んでいるのを見て、“塚原くん思い出すねえ”と、塚原尚人ばなし。朝のワイドショーで本日中にも逮捕か、と出ていた野村沙知代、車内の電光ニュースで逮 捕の報。

 熱海着。すでに冬の陽はすっかり落ちて、真っ暗。談之助さんが今夜の宿のウオミサキホテルに電話して、マイクロで迎えに来てくれるダンドリを打ち合わせたが、指定場所のMOA名産品店の前で待っているのに、なかなか来ない。20分以上待たせられた。見ると、われわれの他にも団体さんが乗り込む。彼らを待っていたのか?

 ウオミサキホテル、マンションのようなビルを二棟つなぎあわせた感じの建物で、廊下の雰囲気や部屋のドアなど、まるきり旅館らしくない。それでも団体客でかなりにぎわっている。通りのホテルの中には夜逃げしたり倒産したりで、閉切になっている宿もたくさんある。まあ、平日にこれだけにぎわうホテルのみが生き残っているのだろう。部屋は私たちのところは洋室でベッド。睦月さんのところは和室二部屋続きの、いずれもきれいなもの。待つうちに安達Oさん、串間さんも到着。モバイルを持参の安達さんと、少し同人誌(堪能倶楽部、立川流)制作の件。立川流同人誌の型見本として、と学会の会誌と、『トゥーン大好き!』を一冊ずつ、安達さんに進呈。

 6時半食事ということで、その前に全員で風呂に入る。このホテルは大浴場が二つあって、屋上の露天風呂と、8階の古代檜風呂。露天風呂にまず入る。屋上から眺める海辺の温泉町の灯、最盛期にくらべれば寂しいものなのだろうが、風情あり。私は何故か昔から、海岸添いに並ぶ温泉街の灯りというものにヨワい人間であった。記憶をウンとさかのぼらせると、最初に海辺の温泉街をイイモノと意識したのは、幼稚園に入るか入らないかの頃、『鉄人28号』の漫画の、大塚署長や正太郎くんたちが温泉旅館に泊り込んで、十字結社の武器密輸を探るクダリからだったのではなかったかと思う。テーマには全然関係ないが、このシーンで刑事たちが夜の海にボートを浮かべ、潮流を利用して武器の入った木箱を運ぶ十字結社を探っているシーンの、はるか岸辺に描かれている温泉街の灯がすばらしく幻想的で魅力的だったのだ。

 この露天風呂の湯はどこやらの深層海水を運んできて、沸かしてあるとのこと。なるほど、舐めてみるとかなり塩っぱい。湯舟はプールみたいな大きいのと、円形をしたジャグジーのもの。ジャグジーの槽にオトコ6人が、グルリと取り囲むようにして入る。談之助さんが“これで出たら、どれだけお湯が減っているかな”と言い、“アルキメデスだね”などと笑っていたが、いざ出たら、本当にお湯が三分の一くらいも減ってしまっていたには大笑い。後から入ったお爺さんが入りにくそうにしていた。

 宴会場で晩飯。席が二つに分けられたのはちょっと残念だが、部屋にはわれわれだけであるから、遠慮なく大声で話を交わせる。船盛りが二つ(コースに入っているのと、特注したの)が出て、コンロの鍋がやはり二つ(ホタテのバタ焼きと、カニ鍋)もある。ちょっと高い宿だけのことはある。イセエビの造りが美味。例により、話題横溢、ありとあらゆることをサカナに食い、かつ飲む。安達さんと串間さんの会話、漫才の如し。

 それから歌おう歌おうとカラオケルームに行くが、なんとカラオケルームにカラオケのセットがない。どこか他の部屋に運んでいるらしい。連絡したらあわてて持ってきて、二時間の予約中、一時間を無料にしてくれた。レトロ曲しばりで、三田明だの黛ジュンだの。私は市丸『三味線ブギ』にトニー谷『さいざんすマンボ』。少しレト ロ過ぎるか?

 これで11時、なにしろメシ食いはじめたのが6時半だから、なかなか時間が立たぬ。また風呂へ行く。今度は檜風呂、こちらは重厚な作りで、湯の温度も熱く、非常に気持よく入浴。原稿書きかけのものをいくつも残してこんないい目を見て悪いとは思うが、執筆が全部済んでから、などと考えていたのでは永久にこういうトコロには来れまいと思われる。開田さん夫妻はすぐ部屋に帰って寝たようだが、残りのメンツは睦月さんたち(睦月、安達、串間、談之助の男4人所帯)の部屋で、1時半までまた、何やかやとダベる。K子に叱られて部屋に戻り、エヤエヤエヤ、などと意味不明の発声(満足の意を表明するときに発する)をしながら、ベッドにもぐりこみ、眠り につく。

Copyright 2006 Shunichi Karasawa