裏モノ日記

裏モノ採集は一見平凡で怠惰なる日常の積み重ねの成果である。

23日

木曜日

いちばんわいせつな人

あ、これは草じゃなく香取慎吾だったか。

※ルナティック演劇祭審査

朝7時起床、咳はほとんど出ず。
ただ、その後起きてからが少々呼吸困難気味で
昼過ぎまでその状態が続く。
豪貴に伝えたら、麻杏甘石湯の症だろうと。
調剤を頼んでおく。

ベッド読書『酒呑童子の誕生』、著者は酒呑童子像の日本での
成立に関して推理を展開する自分を“にわかホームズ”と呼び、
フランスのことをわざわざ“メグレ警視の故郷”と書くなど、
名探偵づくしで文章を書いているが、
「耳もとで盲目の老シェークスピア俳優と、口ひげを生やした
“灰色の小さな脳細胞”と、まんまる顔の童顔の神父がかわるがわる
バンザイを叫ぶ」
という一節があった。老シェークスピア俳優というのはドルリー・
レーンだろうが、あれは聾者であって盲目じゃないぞ、などと、
碩学の名著にささいなケアレスで突っ込めるのは素人読者の秘かな
楽しみである。

9時半朝食、ジュース、スープ。
朝、携帯でニュース確認をしていなかったので、
テレビでいきなり“草なぎ容疑者 公然猥褻罪で逮捕”と
言い出して驚く。痴漢でもしたかとよく聞いてみれば、
酔って公園で全裸になったとのこと。
なぁんだ、と思ったが、その後このニュースで今日は持ち切り。
おかげでジャック・カーディフ死去という報を見逃すところだった。

ジャック・カーディフ、英国の誇る映画カメラマンにして映画監督。
22日死去。94才。

『天国の階段』とか『赤い靴』とか『黒水仙』とか、もう
クラシック中のクラシック、みたいな映画を撮影している
伝説のカメラマンなので、七〇年代に入って『悪魔の植物人間』
なんてゲテ映画の監督の名前で見て、同一人物とは思えなかった
くらいであった。

まあ、さすがにケチョンケチョンな評価を受け、その後監督が
出来なくなってしまったのは、『黒水仙』『赤い靴』で名コンビ
だったマイケル・パウエルが『血を吸うカメラ』でサイコホラー
を撮ってやはりケチョンケチョンに叩かれ、キャリアを台無しに
してしまったのとシンクロしている。どっちも大好きな作品
なんですけどねえ、私は。

その後、カメラマンに戻ってからは『ナイル殺人事件』
『コナン・ザ・グレート』『ランボー/怒りの脱出』など、
エンターテインメント作品オンリーで仕事を続けるが、
やはり何か心にわだかまるところがあったのだろうか。
自伝にそこらのことが書いてあるなら買って読むのだが。

私の中のカーディフのベストは、監督と撮影を兼任した
マリアンヌ・フェイスフル主演の『あの胸にもういちど』。
素肌を革ジャンに包みバイクを飛ばすマリアンヌ・フェイスフル
はまことにカッコよく、峰不二子のモデルとも言われたっけ。
映画のほとんどをバイクで走っている彼女の回想で構成したこの作品は、
まさに撮影と演出の両方を務められる監督でなければ作れなかった
映画だろう。なんでこんな凄い映画を撮った人が『悪魔の植物人間』
を……と(繰り返すが大好きな映画である。なんではあるけれど)
思ってしまうのである。

ついでに言うと、石上三登志氏がこの映画を分析し、
「ダニエル(アラン・ドロン)との情事の回想全てがレベッカ
(マリアンヌ・フェイスフル)の妄想なのである」
と推理した評論を読んで(確か『映画評論』誌)、私は衝撃を
受け、映画というのはかように多様な見方が出来るものなのだ、
と深い尊敬の念を抱いたものだった。抱きすぎて、それ依頼
どの映画もハスに観る癖がついてしまい、とうとう映画評論家には
なれなかったけど。

それにしても『あの胸にもういちど』と『悪魔の植物人間』、
ポスター見ても(写真参照)、同じ監督の作品とはとても
思えん……。

弁当のスタイルが今日から変わり、ご飯を小分けパックにして
自室で冷凍しておき、おかずのみ貰うシステムに。
自室に帰って仕事しなくてはと思うが、ネットがもう、
草事件で大騒ぎ、どうなるのか、とチェックしていたら
原稿など書けたものに非ず。
ニュース、時々刻々とその後の経過を報じているが、
やれ家宅捜査だ、やれ鳩山総務省が“最低の人間”と罵倒しただ、
やれCM全て降板だと、この時点で初めてニュースを見た人なら、
いったいどれほどの重大犯罪を犯したのかと驚くことだろう。
しかし、警察での尿検査はシロだったというのに、なんで家宅捜査令状
がとれたのか?

弁当は焼肉がお菜。
肉が菜ってのは一件変だが、もともと菜(さい)は副食物の意味で、
葉や茎を副食物にできる植物のことを菜と書いて(な)と
呼ぶようになった、という理解でいいのかな。

角川書店H氏から電話、原稿、安彦先生のチェックも無事
OKだったとのこと、ホッとする。
「やはり頼んでよかった、全く問題ない、これほどの出来の原稿に
とても赤など入れられません」
とまで言ってくださったのは、自分で省みてイヤハヤな部分も
ある原稿なので、過分すぎることと赤面。

6時半、家を出て下北沢。ルナティック演劇祭、H・I・Aの
『権狐芝居』。60歳以上の役者さんたちで芝居をやろうという
趣旨の演劇ユニット、だったはずがいろいろあって60歳以上の
役者さんはお一人のみ、それで特別ゲストで野上正義さんが
出ていた。こんなところでお会いできるとは。
感想は例によって詳しくは書けぬが、セミ・ドキュメント芝居と
いう感じで(わかるのはハッシー含め数人だろうが)面白かった。
元・校長先生という豊嶋任世氏の挨拶がさすがというか。

終ったあと、ハッシーは別の用事でいなくなってしまう。
仕方ないので、菊ちゃんと、観に来てくれた大和さん誘って、
安居でビール。後から三宅くんと岡っちも来た。
ワイワイと今日の芝居の話、草剛の話など。
岡っちを指さしてみんな
「酔っぱらって全裸になるくらい。こいつなんか素面でいつも全裸に
なってるのに」
と。12時半、タクシー分乗で帰宅。
ニュースをさらに見たりしながら2時まで起きていた。

Copyright 2006 Shunichi Karasawa