裏モノ日記

裏モノ採集は一見平凡で怠惰なる日常の積み重ねの成果である。

28日

日曜日

ドッジっ娘

「ほら、補助金を打ち切ったりするから、インフレはおさまったけどデフレに
なっちゃったじゃない! ほんと、ドッジなんだから!」

※ダーリン先生お見舞い 部屋整理

朝9時半起床。
寒いがそれほどのものでもなし。
日曜なのでマンション掃除のおじさんもおらず、
ひっそり。

9時半、母の室で朝食。
バナナリンゴジュース、アオマメスープ。
イスラエル、ガザを空爆のニュース。
ハマスのミサイル攻撃に対し、なぜ報復せぬかとの国民の声に
イスラエル政府も答えねばならなかった、と報じている。
現代日本に住んでいると、こういう国がファンタジックに思えるが、
実際は日本の方がファンタジーな国なのである。

自室の片づけ。
やっと筋肉痛も緩和したのでサクサク。
とはいえ、片づけても片づけてもモノがある。

片づけながら、三波春夫の浪曲歌謡『元禄名槍譜 俵星玄蕃』
を聞く。なんべん聞いても名曲である。
……ところで、三波春夫には赤穂浪士外伝ものでもう一つ、
『元禄男の友情 立花左近』という歌がある。
私は、俵星玄蕃が架空の人物(大石内蔵助の親戚、大石無人がモデル)
であることは知っていたが、なぜか、玄蕃よりもっと
実在のあやしい立花左近(大石が江戸に向かうとき、九条家御用人
立花左近を名乗るが、ある宿で本物の立花左近と鉢合わせを
してしまう。左近は大石を難詰するが、その紋から彼が赤穂の
大石内蔵助と知り、自分の方こそ偽物だった、と言って道中手形を
渡し去っていく)を、長いこと実在の人物だと思っていた。
いや、もちろん芝居のようなドラマチックなことはなかったろうが、
同時代にいた立花左近という人物の名を拝借して、勧進帳もどきの
芝居を組み立てたのだ、と何となく思っていたのである。

ところが、書評の仕事でマキノ省三のことを調べていたとき、
この左近と大石の体面シーンはマキノ省三が作ったオリジナルで、
立花左近も戦国時代の大名から名をとった架空の人物、と
知って(元ネタは講釈にあるらしいが、あそこまで完成した
シーンに仕立てたのはマキノ)仰天したものである。
大映の長谷川一夫版『忠臣蔵』では垣見五郎兵衛という名で
中村鴈治郎が演じ、垣見という名は実際に大石が東下りの時に
使った名で、史実に忠実とか書いてあるパンフがあったが、
忠実も何も、このシーン自体がまったくのフィクションなのだ。
じゃ、三波春夫が『元禄男の友情』で、その後左近が、道中手形を
紛失した罪に問われ落ちぶれて長屋住まいとなり、
その長屋で討ち入りの陣太鼓を聞く、などという後日談を
歌っているのは、フィクションの上に重ねたフィクションか。
あなどれないなあ。

昼は鯨ダシが冷蔵庫に残っていたので、これを8番ラーメンの
塩風味タレで。食べて、資料本の第一巻をトイレで読み、トイレから
持ち出してまた読む。とにかく巻を措く能わざる面白さで、
資料がこんなに面白くてはこれを元に本を書くこっちが困るでは
ないか、と思うくらい。

3時、家を出ようとしたら談笑さんから電話で、20分ほど
遅れるとのことで、また読書続き。
3時20分に家を出て、地下鉄乗り継ぎで田原町まで。
ダーリン先生のお見舞いである。

田原町は学生時代、六区の映画街へ行くためによく利用した。
駅をあがったところの甘味屋でソース焼きそばを売っており、
これを弁当代わりに買って行くこともあった。
この甘味屋はなんといまだに当時と同じたたずまいで存在する。
ちょっとタイムスリップしたような雰囲気である。

談笑さんと落ち合って、ノリローさん(奥様)に連絡。
指示された方角に、雑談しながら歩く。談笑さんは何と大晦日に
ホームレス取材の仕事が入ってしまったそうである。
暮れと正月は芸人は仕事が当たり前だが、この仕事は正月らしく
ないなあ。

やがて向うからノリローさんが。
「お二人の笑い声は200メートル先からでも聞こえますね」
と。そこからノリローさんも加わって、さらに笑いながら、
ダーリン先生入院の病院へ。浅草は路上喫煙率、高いですねえと
いうような話。談笑さんが昼間出ていた某寄席の張り紙に
「タバコを床、椅子などで消さないでください」
とあるのだとか。

ついた病院、こじんまりした病院だが入院設備やドクターの緊急
呼び出し体制など非常に整っており、ここらの住人がみんなお世話に
なっているのだとか。
ダーリン先生、今朝熱が出たということで解熱剤を入れており、
ちょっと朦朧という感じだがお元気。不思議なのは、首のコブが
ほとんど消えてなくなっていること。医者に訊いても理由はわからない
とのことである。
「ラクダのこぶみたいに、いざというときにはそこから栄養を
吸収するようになってたんじゃないかしら」
とはノリローさん。

とはいえ、栄養は先生十二分に足りているらしく、元気なときには
車椅子押してもらって近くのお気に入りの喫茶店に入り、
自分でコーヒー飲むのだという。

バンペイユをおすそ分けでお見舞いに。香りがいいので、病室に
置いておくだけで消臭剤のかわりになる。それと、と、こないだの
忘年会で貰ったオナニー用のジェル(中にツブツブが入っていて
刺激になる)を二つ、“見舞に来る若い芸人さんたちに”と
進呈。これにはノリローさん“ああ、喜ぶような独身がいっぱい
いる!”と大喜び。談笑さん見て、“いや、明日みたら先生が
ひとつ使っていたりして”と。三人でバカウケしていたら
ダーリン先生が苦笑しながら“……ロクデモナイなー!”と。
これでさらにわれわれ、大ウケ。

来年一月に検査入院でまたしばらく築地に戻るというので、では
またその折に、と挨拶して辞去。
タクシーで談笑さんと御徒町まで。車内で、NHKでは最近
“二十歳”を“はたち”と読まず“にじゅっさい”と読む、と
談笑さん。私はこの頃のNHKニュースの、記事ごとの前につく
「三着でした」
「バラの花がお気に入りです」
などという見出しというか惹句というかに違和感感じると話す。

池内前で別れ、日曜で大にぎわいのアメ横をちょっと冷やかし、
地下鉄で帰宅。サントクで買い物。
『篤姫』総集編見ながら掃除続き。なんとか床に積み上げてあった
本を棚におさめ(馬鹿にしていたが収納力、侮りがたし)、
床面積が倍になったような感じ。
ところで、次回の大河ドラマの『天地人』だが、なんか、
まるで“さあ、やおい本を作れ”と素材を皿に盛って差し出している
ような感じ。

夕食、9時半から。
小鯛の塩焼きをワサビ醤油で、それと千枚漬け。
名古屋のファンが送ってくれたどて煮パックも温めて食べる。
コロナビール一本、黒ホッピー二本。
ビデオで『宇宙戦争』。もちろん1953年版。
冒頭でジーン・バリーたちが釣りをしているシーンや、
教会でのダンスパーティで婦人たちが料理をボランティアで
作っていたりとか、アメリカ人の生活のデティールが細かく
描かれているところが素晴らしい。

チェスリー・ボーンステルの天体画のところでナレーションを
勤めているのはサー・セドリック・ハードウィック。
タイトル前のナレーションはポール・フリースで、彼はアナウンサー
役で顔出しもしている。

このポール・フリース、アメリカのSF・アニメを語るときには
忘れてはいけない名前であり、『熊のバーニー』シリーズのバーニー、
『迷探偵ドルーピーの大追跡』のオオカミ、『ねずみはこわい(腰抜け
ライオン)』の意地悪ネズミ、『ごきげんないとこ』のジェリーの
いとこなどテックス・アヴェリー作品の常連声優だった。
またディズニー・アニメではドナルドの叔父のドレイク教授役が持ち役、
ディズニーランドの『ホーンテッド・マンション』の案内の声も彼。
テレビの『空飛ぶロッキーくん』ではスパイ・ボリス役、『スーパースリー』
ではスイスイのフリー、その他『どら猫大将』『宇宙怪人ゴースト』
『近目のマグー』『大魔王シャザーン』などなどなどでおなじみの声で、
SF・ホラーとなると『地球最後の日』のアメリカ大統領、『タイム・
マシン』のリング(歴史記憶装置)の声、『空飛ぶ円盤地球を襲撃す』の
宇宙人の声、『死の大カマキリ』のナレーション、『地球爆破作戦』の
コンピューター“コロサス”の声などを担当、さらに日本映画の
吹き替えの常連で『ミッドウェイ』『グラン・プリ』の三船敏郎も、
『キングコングの逆襲』の天本英世もみなポール・フリースの声で
アメリカ人は記憶しているのである。
http://jp.youtube.com/watch?v=kW8Dbus_n1c
↑ポール・フリースお仕事集。最後の、ドレイク教授が歌う
『GREEN WITH ENVY BLUES』(シャーマン兄弟作曲)が最高!

*田原町『花屋』

Copyright 2006 Shunichi Karasawa