裏モノ日記

裏モノ採集は一見平凡で怠惰なる日常の積み重ねの成果である。

24日

水曜日

若(乃)花のトナカイ

アメフトできない 花田勝さんは
いつもみんなの 笑いもの
でもその年の クリスマスの日
スポンサーのおじさんは 言いました
ちゃんこ料理にゃ 元横綱の
お前の顔が 役に立つのさ……

※ゲラ直し 企画打ち合わせ 書き下ろし原稿

ホラーな夢。
ビルの中とも外ともさだかでない場所で、女の子と歩きながら
その子の話を聞いている。
で、話によると、ある知り合いの男が、韓国に行き、とある街の
地下の秘密バーに行く。カウンターだけの店で、客が並んで
何かビニールに包まれたものを食べている。
見ると、それはレタスで、レタスを丸ごと、ちぎっては
口に入れ、むしゃむしゃ食べている。
自分もカウンターに座り、そのレタスを食べるが、なるほど、
みんなが食べているだけあって非常にうまい。
だが、食べているうちにふと、カウンターの奥にあるものに
気がつく。それは幼い女の子の死体で、その子の体にいくつもの
レタスの苗が植えつけられている。
うわっと叫んでレタスをほうり出し、店から逃げ出す。
「……でね、それから数日して、もう一度その店のあった
場所に行ってみると、店も何もなく、人に聞いても、
そんなところに店などなかった、という答しか帰ってこなかったん
だって」
という話を聞いて本当に怖くなり、コワイヨーと
叫んで女の子に抱きつく。

朝9時半起床。
朝食、バナナリンゴジュース、コーンスープ。
マンションの向かいの家のミカンの木にはミカンが粒は小さいが
大生り、裏手の家の柿の木には柿の実が鈴生り。

自室に戻り、日記つけ、R社のゲラをチェックして編集Mくんに
メール、それから今日の打ち合わせ用のメモを作る。
つまると立ち上がって部屋の中をぐるぐる歩き回ったり
(幼い頃からの癖で、“動物園の熊”と言われてよく祖父母に
叱られていた)、突発的に柚子の皮を刻んで塩辛に混ぜ込んで
みたり。モンティ・パイソンのマイケル・ペイリンが
旅番組『80日間世界一周』の企画で日本に来たとき、回転寿司屋
で塩辛の寿司を食って、“どぶどろのような食い物”だと、
さすがにヘキエキしていた。その後、カプセルホテルに投宿した
ペイリンに、ジョン・クリーズから電話がかかってきて、
なぜ日本なんかにいる、
「“A Fish Called Wanda”(『ワンダとダイヤと優しい奴ら』)が
ヒットしなかったのは世界中で日本だけなんだぞ」
と言ったのに対し、ペイリンは
「“A Squid Called Wanda”にしたらよかったんじゃないか」
と答えている。クリーズには何のことやらわからなかっただろうね。

そう言えばあの映画が来たとき、私は結婚したばかりで、
試写の案内が来たので女房と出かけていったなあ。
試写前の解説に立川談志が出てきて、絶賛しながらも
「俺の気に入るコメディはヒットしない、だからこの映画も
ヒットしねえんじゃないかと思う」
と、配給会社が蒼くなるようなことを言っていた。
「見どころは?」
の質問に嬉しそうに
「犬をコロコロ殺す映画でね〜」
などとも言って、私らだけ大笑いしていたものだった。

昼はお歳暮の讃岐うどんを、ゆうべの豚ハマグリ鍋の汁に
入れて食べる。昨日の鍋はやや失敗だったが、今日のうどんの
汁への転用は大成功で、豚の脂が冬の食い物らしく濃厚、
最後の一滴まで汁を飲み干してしまった。

なんのかんのとやっているうちにメモ完成、相手先にメール
してから出かける。地下鉄で赤坂見附。サカス周辺、イブの
馬鹿っプルで一杯、とは言い条、さすが赤坂で、五組に一組は
おお、と振り返りたくなるようなおしゃれな、あるいは美男美女の
カップルがいる。

相手方事務所、いつも迷いに迷うのだが、今日、迷いたくても
迷わない絶対の近道を見つけた。これは収穫。
社長O氏とH氏と、まずは対抗企画になる某がホントにボツったか
を確認。売りとしては再来年か、と思う。これはこちらとしては
時間的にありがたい。来年はもう、ほぼ予定がパンパンなのだ。
社長がとにかく前向きにコンセプトを面白がってくれているのに感謝。
もちろん、ダメな面も大いに指摘され、松あけくらいにそこを
訂正して持ってきますから、と約束して辞去。

今年残りの大仕事二つのうち、ひとつ完了で、ホッと気が抜ける。
地下鉄で帰宅途中、携帯でmixi見てたら、飯島愛死去の報に
仰天。まだ詳細がわからないが、頭の中に真っ先に“自殺”の
文字が踊った。そうでありませんように。

帰宅し、雑務原稿、メールチェック等。
物書きにクリスマスなどなし。
もっとも、大した原稿ではないので、書きながらTBSの
『あの戦争は何だったのか』を見る。そう、昨日23日は
東条英機処刑の日か。

近衛文麿の曾孫という人(映像作家だそうな)が出てきたが、
顔が若き日の文麿氏にそっくりなのに驚く。
文麿の三男、長男の嫁、東条家の子ども、女中だった婦人など、
高齢だがまだ元気で存命なのにも感心。日本人の寿命は延びたな。
これはやはり栄養の充足が原因か。

ドラマ部分に入ったあたりで仕事を切り上げ、夕食。
ビートたけしの東條は波平さんみたいなメイクで笑ってしまう。
阿部寛が丸坊主にしているのは感心だったが、他のキャストに
黒沢俊男、伊武雅刀、高橋克実、市川団十郎など、髪を切る必要のない
俳優を多くキャスティングしているのには笑えた。俳優の髪を切る場合は
ギャランティに髪切り代を上乗せしなくてはならないので、
予算の面からそういう役者は重宝されるのだろう。ハッシーの
売り込み先はここだな。

近衛役の山口祐一郎、杉山元役の平野忠彦の二人、さすがに
ミュージカルで鍛えた声で素晴らしい。あと、賀屋蔵相をかなり大きく
扱っていたが、演じていた益岡徹、デビュー当時から顔も
声もまるで変わっておらず、愕然。

東條の描き方、開戦までの道筋はこれはあくまで監修した保阪正康の視点
である、ということを頭に入れておかねばならないだろうし、
ビデオ撮影というのは“時代”を出せないな、と痛感したが、
とにかくアイドルを出したりもせず、きちんと中国を支那と言い、
徳富蘇峰などという、今の世代のほとんどが知らない人物にも
スポットを当てるという番組をクリスマス・イブに放送するという
その意気やよし、という感じではある。
高橋克典の新聞記者が、蘇峰の目の前で彼の談話をメモした紙を
破り捨てるのには呆れたが。そんな記者は記者落第であろう。

夜食は、赤エビの塩ゆでに、クリスマスセールでローストチキンの
足が安かったので、それとワイン。
タイ産の鶏だということだったが、食ってみると案外旨いので
驚いた。カーズのクラッカーに乗せて辛子マヨネーズで食べると
結構々々。ワイン飲んだら酔いが回り、12時に就寝。
チェックしてみたら、mixiニュースの飯島愛死去の報に
コメントがこの時点で5000件以上。

「死は大半の人にとって挫折である。しかし、奇妙なことに、
それが挫折の死であればあるほどその人生は完全形をなして
見える……山田風太郎」

Copyright 2006 Shunichi Karasawa