裏モノ日記

裏モノ採集は一見平凡で怠惰なる日常の積み重ねの成果である。

9日

火曜日

注意一秒、中二病

注意しないと一生中二のままの精神年齢になっちゃうよ。

※同人誌原稿 『フィギュア王』原稿

ちょっと乱歩的な猟奇ぽい夢。
映画俳優にそっくりの男が、その俳優を殺して自分が
入れ替わろうと画策する。
その計画がすんでのところで破綻して逮捕されるのだが、
逮捕してみるとその男はまったく映画俳優に似てなぞおらず、
全てが彼の妄想だった、というオチ。
……と、いうマンガをホテルの一室で読み終わる私。
自分とそっくりの男が自分を殺しにくる、という恐怖に襲われ、
戸締まりを急いでするが、別のドアから男が侵入。
その顔を見るとまさに自分とそっくりで、恐怖した私は
「わー、そっくりだー、死ねー、死ねー!」
と叫んでその男の首を絞めにかかる。
ちなみに、その男も私も本来の私の顔でなく、
評論家の某氏の顔であった。

9時半起床。母の室で朝食。
柿、リンゴ、コーンスープカップ半杯。
自室に戻り日記つけ。
同人誌原稿書き継ぎ。

F・J・アッカーマンが4日に亡くなったが、そのアッカーマン・
コレクションにもあった“金星ガニ(大伴昌司が名付け親)”の
登場する映画『金星人地球を征服す』でヒロインを演じた女優、
ビバリー・ガーランドがその翌日、5日に死去。82歳。
他にもぬいぐるみに極めて無理がある『恐怖のワニ人間』などに
出演しているが、アメリカではテレビ業界で最晩年まで出演を
続けた、大変な知名度の女優さんだった。なにしろ、ハリウッドに
観光に来た旅行者たちにとって最もポピュラーな三つ星ホテル、
『ホリディ・イン・ビバリー・ガーランド・ホテル』は、
彼女の名をとってつけられた(夫がオーナーだった)のである。

気性の強いお転婆娘を持ち役にしていたが、本人も役柄通りだった
らしく、『金星人〜』の撮影のとき、監督のロジャー・コーマンは
“重力の強い星から来た生物は背が低いはずだ(金星は重力が強くは
ないのだが)”と、怪物のぬいぐるみを小さく作った。
ところが、セットに入ったガーランドがそれを見て、
「何よ、あんたが地球征服ですって?」
と、怪物を蹴っ飛ばした。コーマンはそれを見て、いかに科学的設定が
正しくても(いや、間違っているんだが)、ヒロインより背の低い
怪物では客は呼べない、と判断、すぐに造形師のポール・ブレイズデルに
命じて怪物の頭を大きくとんがらかせ、あの有名な三角形の
金星ガニが完成した。あのデザインはいまだにB級SF映画のイコン
になっているが、もともとはガーランドの一言で完成したのである。
……もっとも彼女自身はインタビューで
「大きくなっても間抜けだったけどね」
と言っているが。

さらに同じ日、刑事コロンボのパイロット版『殺人処方箋』で
夫(ジーン・バリー)に殺される妻を演じたニナ・フォックも死去。
前日の4日に、偶然ではあるが彼女の出演しているアウター・リミッツ
のDVDを見ていたことに一驚。
映画では『十戒』『スパルタカス』などの史劇大作に出演しているが
60年〜80年代のテレビにプロリフィックに出演、『殺人処方箋』で
自分を殺したジーン・バリーの出世作『バークにまかせろ』にも
一回、ゲスト出演で共演している。長編映画デビュー作がベラ・ルゴシ
の『吸血鬼甦る』(1943)であるというのが嬉しい。
自分の演劇教室を持っていて、南カリフォルニア大学で教鞭も
とっていたというから、外見通りのクール・ビューティだった
わけだ。決して大スターではなかったが、われわれをその
多才な活動歴で楽しませてくれた二人の女優に合掌。

しかし、この暮れの訃報続きは異常かも。
若井はやと、中村保男、そして『ノンタン』のキヨノサチコ(もっとも
彼女が亡くなったのは6月のことだったそうだが)。
mixi日記でマイミクさんが“神様が年度末調整している
みたいだ”と書かれていたが、そんな感じがしてくるのも確か。

と、思っていたら、さらに訃報。
翻訳家の中村保男氏、死去。
http://www.asahi.com/obituaries/update/1209/TKY200812090117.html

ブラウン、チェスタトン、さらにはコリン・ウィルソンと、
氏の翻訳で親しんだ海外作家は多い。
中でも、中学2年か3年のときに読んだ、ジュディス・メリル編の
『年刊SF傑作選・1』は、それまで読んでいたSFとは、
全く違う世界がそこにあったことに驚いて、何か世界がぐっと
広がった感じがしたものである。SFを読む快楽では、同じく、
“こんなSFがあったのか”と、その幻想味にうなった
バラードの『結晶世界』も忘れ難い。
あの冒頭のけだるい描写は何度も読み返して、“いいなあ”
とため息をついたものだった(どうも私はニューウェーブの徒で
あったらしい)。

その、SF読書体験中最大の感動を与えてくれた二冊が、同じ
翻訳家の手になるものだとは、残念ながらこの報に接するまで
意識しないでいた。改めて感謝と、ご冥福をお祈りする。

原稿書き、楽しいが楽しくていろいろ調べものしてしまって
進まず。3時ころ、急激に眠気がさしてきて、ベッドで1時間ほど
気絶的に寝る。目が覚めると、雨音激し。さてこそ。

サントクで買い物して、原稿書き続き。
『フィギュア王』から催促のメール、あわてて書き出す。
2時間で完成させてK子と編集Nさんにメール。
これで体力は使い果たした。

原稿書いている最中煮込んでいた、豚の軟骨部分の肉と、
スルメイカの蝦油炒めで夜食。
イカの皮をむくときの音が快感。
イカの身は短冊に切って自家製蝦油(アミの塩辛をサラダオイル
で熱して作る)でニンニク・ショウガと共に炒める。
残ったワタはフライパンの上でつぶし、味噌、酒、砂糖を
加えてさらに煮詰め、火を止めて卵黄を加えワタ味噌卵に。
酒が進みすぎ。
ホッピー四杯。

*写真はビバリー・ガーランドとニナ・フォック。

Copyright 2006 Shunichi Karasawa