裏モノ日記

裏モノ採集は一見平凡で怠惰なる日常の積み重ねの成果である。

13日

土曜日

帝国の麦秋

北鎌倉に住む老ジェダイマスター(菅井一郎)は娘(原節子)を若い
ジェダイ騎士(佐野周二)と結婚させようとするが、そこに現れたダース・
ベイダー(高堂国典)が、二人は実は兄妹だ、と告げる。

※同人誌原稿 D社原稿

「よく見た夢をあんな克明に覚えてますね」
と言われるが、目が覚めたらすぐ、頭の中で、それを日記に書く
文章に組み立てて二回くらい繰り返す。文章で覚えると
忘れない。一年ほど夢の記述を続けて会得した秘訣(何の役にも
立たない秘訣だが)である。

で、その夢。
私はアフリカに仕事で長く滞在している。
一応近代化された、ファーストフード店のような中華料理屋で
水牛の肉みたいなものが入った中華粥の昼飯をしょぼしょぼ啜って、
日本人の集合住宅になっている建物に帰る。
木造の安アパートみたいな建物だが、ここらでは高級住宅である。
隣の部屋には、母子で顔がそっくりな日本人女性の親子が
住んでいる。母は背がもう丸まってしまい、娘に“新種のチンパンジー”
などと言われているが、実は強力な漢方のまじない師で、
「あの女の薬を飲めばみんなウタマロみたいになれる」
と、黒人客が門前に列をなしている。
私の職業はと言えば、映画の配給である。
地元に映画館はないので、学校や公会堂、時には倉庫などに
映写機を持ち込んで映画を映す。
今回倉庫で映写したのは日米合作の60年代の東宝特撮映画で
主役はイデ隊員の二瓶正也。驚いたことに忍者の子孫の老人役で
バスター・キートンが出演。孫娘に止められながらも、ナンセンストリオ
みたいな忍者の服装に着替え、ササーッと走るその姿を映写機の
脇で見て、さすがだなあ、と舌を巻く。
キートンは66年死去だから、ギリギリ間に合うか?

朝9時起床。
朝食、例の如くリンゴと柿。ブロッコリと胡椒のスープ。
ミルクティー。
鯉朝師匠から恒例のカツオたたき届く。かたじけなし。

朝は三、四度トイレに行く。
トイレ読書は松本清張の再読。
こないだ、それに関する原稿を書いたので書庫から引っ張り出した
うちの一冊、新潮文庫『事故』。収録作品の『熱い空気』は
例の『家政婦は見た』シリーズの原作だが、いや、さすがに
面白い。政治とか殺人とかをからませず、スケールをうんと小さくし、
家庭の中だけでピカレスクドラマを見せるという、拡大鏡のような作品。
その拡大鏡の性能が抜群にいいせいか、なまじの社会派ドラマより
よほどドキドキワクワクさせてくれる。
主人公の家政婦・信子(テレビ版では秋子)はかなり陰湿で嫌な女
なのだが、それなのに読んでいるうちに“がんばれ”と声援を
送りたくなってしまうのが妙。

佐川一政氏から著書と共に手紙届く。
もう氏と最後に会ってから10年か、と感慨深し。
いろいろ頼みごと書いてあって、残念ながら希望には添えないと
思うが、何とかしてみはしよう。
それにしても氏のペン字はいつ見ても上手い。
個性ある字なのだが読みやすく、実にいい字である。

今日も一日、どこにも出ずに同人誌原稿。
まあ、同人誌と言っても、ちょっと後でのアテコミがあるのであるが。
二回に分けてオノに送り、4時半にやっと脱稿。
K子から連絡、何の仕事のものかわからぬ振込みがあるとのこと。
雑多にやっているからなあ。

その後、サントクで買い物し、夕食の仕込みのみ、やって
また原稿。D社マンガ原作、また一本。案外まとめるのに時間がかかった。
調べものが面白かったからいいけれども。
結局、予定を一時間オーバーして、9時完成。

くたびれ果てて、すぐに酒、酒となる。
同人誌原稿の中に書いた、三色ポテトサラダ、海苔と山葵と花鰹の
つまみなどを手早くこしらえ、お歳暮の日本酒をぬる燗でぐびりと。
飲みながらNHK時代劇スペシャル『母恋ひの記』を見る。
原作は谷崎純一郎『少将滋幹の母』だが、脚本の中島丈博がかなり
大胆にアレンジ。

劇団ひとりがいい芝居をしており、それと超貴族的イケメン
の川久保拓司とのマザコン対決がなかなか迫力ある。
……とはいえ、やはり前半の怪優たちの芝居が圧巻すぎたため、
登場人物が極端に少なくなる後半がちょっとしぼんだ感じに
なるのはやむを得ぬか。

若い妻・黒木瞳の胸をうれしそうに揉みしだく大滝秀治の演技には
驚いたが、権力者・時平に自分の妻を“勢いで”差し出してしまう
あたり、かなり無理のある展開をその演技で説得力あるものにして
いるのには感服。さらには失った妻の面影をもとめて、衣服の匂いを
嗅ぎ、口にまで入れるという変態芝居。83歳にして役者人生の
代表作になるかという感じだ。
妻を忘れるために野ざらしの死体を眺め、無常観を体得したいと言い、
薄の繁る荒れ野の中を徘徊する姿はリア王を思わせた。

また、藤原時平の長塚京三も篤姫のときとは打って変わって権力者の
横暴をよく現し、何と言っても藤原菅根の本田博太郎!
白塗・お歯黒、タレ目のメイクは妖怪そのものだった。
平安時代のドラマにリヒャルト・シュトラウスというBGM選定も
合い、現代の寓話として見れば今年見たうちナンバーワンのドラマ
だったかもしれないが、やはりキャスティング、これにつきる
ような気がした。

日本酒のあと、ホッピーに切り替えて、鯉朝くんから貰った
カツオのタタキをヅケにして、鮨飯にまぶして。
うまいうまい。

Copyright 2006 Shunichi Karasawa