裏モノ日記

裏モノ採集は一見平凡で怠惰なる日常の積み重ねの成果である。

3日

日曜日

エロゲ・アンテパス

サロメよ、儂と脱衣マージャンゲームをしてくれれば何なりと望みのものをとらすぞ。

朝8時起床。ゆうべは、豪貴に調剤してもらった漢方のおかげか、ノドがまったく症状起こさず、静かに寝られた。まだいくぶん腫れは残っているようだが、5日分15包作ってもらって、たった一包のんだだけでこの効果はすごい。すごすぎて、
「薬のせいじゃなくって、もう治りかけていたんじゃ……」
と思わぬでもないが、まあ、身内ぼめで、薬と見立てのおかげということにしておく。

朝食、母の室で9時。青豆のスープ、スイカ二切れ、巨峰5粒。ミルクティー。豪貴のところに行った話、大通小のみんなと飲んだ話など。母は明日から山口県に旅行だとか。旅行するのはいいことである。日常感覚が研磨されるというか。

読売新聞の行ったアンケートで歴代総理の評価度をはかったところ、吉田茂が44%、現職の小泉純一郎が41%で2位、次いで田中角栄の36%、中曽根康弘30%、佐藤栄作25%、池田勇人18%、岸信介13%、三木武夫12%と続いたという。
http://www.yomiuri.co.jp/politics/news/20060902it12.htm
まあ、現職がこういうとき強いというのは当たり前の話で多少はさっぴいて考えねばならないが、これまた、各マスコミが全力を挙げてコイズミ批判を繰り返しているその努力が徒労に終ったという結果であって、非常にいい気味かつ、示唆に富む数字。“人気取り政治”だの“サプライズ政治”だの“キャッチフレーズ政治”だのと批判される、そのやり方は全てマスコミが作り上げ国民をそれに慣らしたのもマスコミであり、その方式にそっくり則って首相になった小泉純一郎を、本来最も批判できない立場にあるのがマスコミ自身なのだ。
そこへの反省も自戒もなく、ただひたすら、“こんな男持ち上げた国民が悪い”と繰り返すばかりでは、国民はだれもついてこない。小泉批判を繰り返すごとに、自らの墓穴を掘っていることに、少し気づいたらどうなのかと思う。

昼は弁当。自家製錦松梅とシャケ。油揚の味噌汁。でんたるさんからメール。北海道から海産物を送ってくれたらしい。事務所の冷蔵庫状況はどうかとオノに問い合わせる。どうにか間に合う模様。

二日分日記つけ。なかなか書くことが多い。5時、家を出て神楽坂。劇団TIMELAG公演『ひとりでに森』。“下町ダニーローズ”の前回公演『はなび』で好演していた田中大輔さんの主演の『西遊記』である。ダニーローズの看板女優・酒井莉加さん、同じくダニーローズにしょっちゅう客演している円谷プロ所属の俳優、原武昭彦さん、そしてコンタキンテさんが客演されているため。

酒井さんが招待扱いにしてくれていた。有難し。受付のところでやりとりをしている人を見たら、マイミクのいっきんさん(柳家一琴師匠)だった。隣り合わせの席をとって、いろいろと雑談。一琴さんは私の日記の読者で、これまで何回も彼の舞台を観ているのだが、お話するのは今回が初めて。阿部能丸くんの話で盛り上がるが、ふと後ろを振り向いたら、阿部さんが、女優の山咲小春さんと一緒にいた。
二人で“あぶなかったですねえ!”と笑う。
いや、ホメていたんですよ、ホント。

やがて始まったお芝居。田中さんが孫悟空というのはハマりである。西遊記のはるか後の時代、またも乱れた世の中を救うため、釈迦如はかつて天竺から救国の経文をもたらした三蔵法師、孫悟空らの子孫に、再び取経の旅を命じる……。この説明ナレーションがなんと『世界の車窓から』の石丸謙二郎さんだった。

私が普段、観ているギャグ中心の舞台と違って(いや、これもギャグは豊富にあるのだが)、基本は幻想的な場面、登場人物たちの悩み、そして裏切りといった重く暗い内容。私は重い内容の舞台を否定はしない。幻想的な場面も嫌いではないし、音楽の効果などでいい感じの雰囲気のシーンもあったのだが、しかしそうなると、ギャグの部分との不調和がちょっと気になってしまう。クライマックスになる殺陣(というか、実戦)の迫力は凄いが、この舞台のテーマというか、見せ所として、果たしてどうなのか? という疑問がわく。
いくつもの見せ所はありながら、それを絞り込めていないという隔靴掻痒的なシーンが多かった(タイトルも、ちょっとひねり過ぎ。内容が見えてこないタイトルはいかがなものか)。原武さんのインパクトはいつものことながら凄いが、例えばこれがダニーローズとかの舞台に出てきたなら、その爆発力は数倍したろう。他の出演者が、この“異物感”的なキャラを受け止められていないのである。これは舞台の経験を詰んで“余裕”とか“遊び”の部分が出てくるのを待てば自然に出来てくることとは思うが。

コンタキンテさんの表情、演技、そして格闘技(もはや殺陣ではない)の凄さ、その存在感は凄い。ある意味主役以上に舞台を引っ張っていた。逆に言うと、コンタさんを使うということは一般の劇団にとっては、その強烈な個性と対峙しなければいけないという大きな課題を背負うことになる。この人にはそれだけの“毒”があるのだ。その毒の危険性と魅力をひしひしと感じつつ、胸の中にあるアイデアが浮かぶ。まだ泡のようなものだが、しかし実現すれば……。

で、酒井莉加さんは三蔵法師。出口のない森に迷い込んでしまって妙に一番、そこでの生活になじんでしまう三蔵の、奇妙なキャラ(これがあとで意味を持つのだが)を好演。コスチューム・プレイの似合う人なんだな、と、改めて確認。顔の面積に比しての目鼻立ちが大きいので、頭巾が邪魔にならない。これは大きな女優としての利点である。ちなみに、コスチュームの完成度が凄いなと見ながら感心していたが、円谷プロの造形の方がやっていたらしい。そりゃ出来がよくて当たり前。まったく森に見えないセットで森の中の様子を表した美術も見事。

芝居終って出て、酒井さんに挨拶。志らくさんも来ていた。飯でも一緒に、ということになって、近くの洋食屋に入る。途中で音曲の柳家紫紋さんが浴衣姿で通ったので、一琴さんが声をかけて、志らくさんを紹介。紫紋さんいきなり
「あ、私たちは同類なんですよ、シモン、シラクと二人ともフランス人で……」
にはさすが芸人、と感服。仕込んでいたんじゃないかと思うくらい。

最初は私、一琴、志らく、能丸、小春さん。それから莉加、コンタ、原武さんも加わって、今日の芝居の話、劇団々々での稽古のやり方の違い、インターネットのスパムメールの話など。阿部能丸さんをみんないじるいじる。しかし、コンタキンテさんも阿部さんも、舞台の上で己れを表現するという、その欲求のために連日過酷なアルバイトをしている。役者としてのプライドと、バイトでの日銭稼ぎを両立するということはつくづく、大変だと思うのである。
「仕事が大変で」
と阿部さんが言うと志らくさんが
「芝居を仕事にしなくちゃ」
と言ったが、それがいかに大変でかつ遠い道か。コンタキンテがバイトで喰っているという状況は何かマチガッテいる、と思う。

10時、店を出る。なんと、莉加ちゃんがおごってくれた。志らくさんの指示かと思ったら、自主的な行為だったらしい。
「今日の舞台のアガリがありますから」
と言ってくれたが、自分の舞台を見に来てくれた人への礼儀というか、そこらがしっかりしていることに驚いた。彼女はダニー・ローズの旗揚げ公演から見ているが、最初はただ可愛いだけの、演技も頼りない感じの子で、ほとんど注目していなかった。それが三年でここまでオトナになったのかと思うと、その成長に驚き、感服する。成長ってこういうことなのである。みんなはこれからTIMELAGの打上げに参加するというが、私は仕事もあるのでここで辞去。

地下鉄で新宿まで出て、帰る。半身浴して、雑仕事いくつか。メールいくつか。心浮き立つものもあり。昨日9時ころ書き込んだ『ポケット』挨拶文は結局間に合わなかった模様。ちょっとガックリ。1時、水割り缶小一本飲み、寝る。

Copyright 2006 Shunichi Karasawa