裏モノ日記

裏モノ採集は一見平凡で怠惰なる日常の積み重ねの成果である。

28日

金曜日

電磁波男

 携帯サイトで出会った女性に惚れた2ちゃんねらーが電磁波に誘導され……(“顔射男”というのも考えましたがあまりにシモがかるのもなんだと思い)。朝6時半起床。入浴剤入れた湯でゆっくりと入浴。のんびり温泉旅行したいなあ、と思う。出来ればもちろん女性とがよろしい。不倫はしたくないが不倫旅行というのは一度してみ たいとかねがね思っているのだが。

 朝食、バナナとミカン、冷ポタ。タクシーで通勤。連絡作業いろいろ。昼はオニギリに黒豆納豆、いつぞやいただいた自衛隊の糧食のマス野菜煮。食べたあと、やたら 喉が渇く。汗を大量にかく人たちを想定した味付けなのだろう。

 2時、東武ホテルにてTBSと制作プロの人々と待ち合わせて時間割で特番打ち合わせ。『ウンナンの史上最大指令 東京横断IQバトル』。連絡をくれていた女性の名刺を見て、一瞬“志加吾”と呼んでエッ、と思ったら“志都加”だった。彼女含め て向こうは6人。以前『サンクチュアリ』やった製作プロの人もいた。
「東京メトロがスポンサーってことは関東ローカルですか?」
「いえ、東京の地下鉄を日本全国に広く知らせたいというメトロさんからの意向で全国ネットです」
 全国に知らせてどうするのか、と思ったが
「東京にあこがれる修学旅行生が主なターゲットだそうです」
 ……だそうである。狭いのか広いのか。

 ウッちゃんナンちゃんが二チームに別れてメトロの駅を回ってポイントを稼ぐという趣向で、私のチームには佐藤藍子とかがいるらしい。それのみを楽しみに出演しようと決意。神保町でこういうバラエティ向けとなれば、使えるネタは決まっているんで、二つ三つ呈示したらやはりその路線で行く模様。某、すごく本棚の立て込んでいる店を紹介して、取材レポーターの森公美子が間を通れないなどというのはどうか、 と言ったら笑っていたが、さてOKとなるか?

 嫌な予感があったが、やはり地下鉄駅構内ばかりでなく、通りを歩いて欲しいとい う要請。しかも撮影は朝10時から。
「寒そうだよねえ」
「ええ、しかも来月は大寒波が来るそうですねえ」
 こっちのやる気を失せさせることを言うんじゃない、志加吾、いや、志都加!

 帰宅、原稿にかかろうとしたら急に寒気と肩こりに襲われる。打ち合わせから帰って手を洗わなかったのがよくなかったか。息をするのも苦しいくらい劇症の凝り。明日の日テレ用の撮影物をそれでも渡さねばならないので、それを揃え、玄関にブラ下げておくので取りにくるようにとだけ電話して、急いでマッサージに駆け込む。首筋のリンパのあたり、指で触られただけでも悲鳴をあげるほど。先生も驚いていたくらいの堅さ。それでも1時間揉んでもらい、症状軽減のためにエンドルフィンを分泌さ せるという所期の目的は達した。

 そこから地下鉄で銀座。うわの空藤志郎一座『ダブル・ファンタジー』二回目。笹公人さん、関口誠人さん、ベギちゃん、佐ト丸さん、尾上さん(Taka@モナぽ)など知り合いも多々。喉がやたら乾く。トイレに行くが小水に勢いが全然つかない。筋肉を動かす神経伝達物質(ヒスタミン類)が風邪で分泌されなくなっているんだろ うと思う。

 で、そんな中で観た二回目の『ダブファン』。大きな変化は、途中に入る尾針恵の叫びが、ラストで高橋奈緒美によってリフレインされるという演出。これは思わず
「出来た!」
 と叫ぶくらいの決まり方。浅草サンバカーニバルという語が劇中に出たが、これはまさにこの芝居の設定の翌年(1981)からなので、最初観たときから“入れればいいのに”と思っていたネタなので入って満足。ただ、浅草ビューホテルという名称が出てきたが、これは82年のオープンなので不自然。まあ、そういう細かいツッコ ミがいろいろ出来るのがこういうレトロものの楽しみ。

 すでに公演も終盤、ダンドリは見事に整理されてきたが、その分、役者さんたちに疲れが見えてきたかな、という感じ。台詞がモヨモヨで聞き取れない部分あり。その中でさすがだったのが座長とおぐりゆか。特におぐりのノリは今日の舞台に関しては全員を引っ張っていた。初日にはまだ完全につかんでなかった茄子美のキャラを自分のものにしちゃったからだろう。トチリやダンドリ間違いまで含めて、芝居のムード メーカー適役割を果たしているんだから改めて凄い子だなあと思う。

 ただ、もったいないなと思うのは、おぐりって子は役に没頭すると、本当にその相手の役者に対して芝居してしまう。視線が完全に相手(と、いうか主に座長)に対するものになる。座長や島優子の場合、どんなに懸命な演技のときも、一割は神経をお客の方に向けている。それが舞台の芝居だと思うのである。笑いをとったあと、気づかれない程度に客席に
「面白いでしょ?」
 と暗に同意を求めるサインを送ることで、客とその役者の間にレポール(心理的共犯関係)が生じるのである。こうなると、もう客はその役者の演技から離れられなく なる(これをしすぎるのがいわゆる“クサイ芝居”であるが)。

 この呼吸は、ワキよりも主役を演じたときにマスターされるものなので、だから私は、今回、少し無理してもおぐり主役という最初の設定のままにすればよかったのに(今後のうわの空のためには絶対プラスになる)と感じたのである。まあ、そのために本公演一回、失敗させるかも知れないギャンブルは打てないこともわかっているけ れど。

 デブの金沢くん演ずる菓子職人、本当にこういう職人がいる、実物を連れてきたんだろうと思うくらい仕事着が似合っている。ひょっとして今回一番の見所かも。一方で、今回は本当のチョイ役なのが残念な宮垣雄樹だが、二次会のあと、佐ト丸さんがいろいろ
「あれだけの出演シーンでウケを取るには」
 と親切にサジェスチョンしていた。みずしなさん含め、漫画関係者に期待される役者さんなのかもしれない。 笹さんが尾針恵の可愛さに驚いたようで、
「あの子はデビュー当時の薬師丸ひろ子にそっくりですね!」
 と熱を込めて語っていた。うわの空の芝居に欠点がないとは言わない。何度も言う通り、むしろ、普通の芝居として観れば穴だらけだ。しかし、その穴がある故に、いわゆるウェルメイド・プレイになり中毒性を有するのかもしれない。

 ……それにしても、1980年、私は何をしていたろう。ジョン・レノン殺害の報は、夜、下宿に帰ってテレビをつけたら『ぴったし! カンカン』をやっていて、司 会の久米宏が
「今日はジョン・レノンさんが殺されるという大事件がありました」
 と言っていて、そこで知った。

 基本的に古書街めぐりと名画座めぐりがまだ日常で、浅草のあたりにもしょっちゅう、足を踏み入れていた。この芝居の舞台の店の客になっていても不思議はないわけだ。あの当時の自分に“あんたは25年後、こうなっている”と今の自分のことを伝えたら、どういう反応になるだろう。
「まあ、案外予定どおりの人生なんじゃないの?」
 となるかも知れない。それまでの道程を説明したら、
「そんな回り道とるのか!」
 と驚くかもしれないが。

 会場内、空調入れ忘れたとかでかなりの暑さ。しかし、体調的にはそれがよかったかもしれない。終わる頃には肩こりはほぼ、回復だったが腹に来た。かなりムカムカ する。打ち上げには参加しないで帰って寝ようかと思っていたがおぐりが
「えー、先生、たった小一時間ですよー」
 と言うのでつい、参加してしまう。われながら意志の弱さよ。とはいえ、固形物は一切口にせず(と、いうよりできず)、ビールとホッピーのみ。
「なにかお食べにならないんですか」
「今日は水ものだけ」
「じゃあ、このお醤油でも」
「徴兵逃れじゃねんだからよ」
 ……若い人にはわからないギャグですまぬ(醤油一升飲むと体の水分バランスがくずれて半病人になり、徴兵検査で不合格となるという言い伝えがあった)。

 打ち上げそのものは佐ト丸さんやTaka@モナぽさん、パンパンかおるなどと楽しく話して愉快。12時、東京駅から中央線で帰ろうと思ったが、途中で具合かなり悪くなり、タクシー使う。かなり苦しいとはいえ、
「ま、こんなもんだろう」
 と予想のつく悪化。風邪薬ロン三宝のんで寝る。古くからあるクスリだが、古いだけに含有されるアスピリンとアセトアミノフェンの量が半端じゃないので(最近の風邪薬はアレルギー患者などのことを考えてこんなに配合されていない)効きがいいんである。ただし、眠くなることも半端じゃない。

Copyright 2006 Shunichi Karasawa