裏モノ日記

裏モノ採集は一見平凡で怠惰なる日常の積み重ねの成果である。

15日

土曜日

サンクチュグリ

 くすぐりの聖地(昨日の打ち上げで出たダジャレ)。朝8時起床、入浴後回しでそのまま朝食。今日からまた野菜。ニンジン三切れとセロリ1/3本、ポンカン。ミルクコーヒー。昨日くすぐリングスでモモ・ブラジルから
「激やせしましたね!」
 と言われた。5キロくらいしか痩せてないのだが、顔やせしたということか。維持すべく頑張ろう。

 青色発光ダイオードの中村教授の発言がまた週末のニュースで何度も流されるが、そのテンションの高さにちょっと引く。この人、アメリカに渡って精神構造までアメリカナイズされちゃった感じがある。和を尊ぶ日本社会じゃ敵を作る発言であろう。まあ、会社の言うことにも中村氏の言うことにもどちらにも理と非が内在しているのだが、とにかく今回の問題を感情的に大きくしたのは、前から言うように、当初の報酬の2万円という額のショボさだ。例えばあそこで200万円払っていれば、それが不足だという訴えに関しては世間のサラリーマンの多くは(少なくとも日本では)会社側に同情したのではあるまいか。まったく『一文惜しみ(五貫裁き)』の世界。  

 それから風呂入ってダラダラし、11時出社。氷雨もよいで寒々しい。気圧乱れ体調もよくなし。仕事場の整理などする。昼はコンビニで買った白飯を温め、納豆と野沢菜、温泉卵。納豆がしみじみうまい。あとアサリ汁。このアサリも当然北朝鮮産なんだろうな。

 おぐりゆかからメール、返事書いたり。うわの空の本公演、今月末の仕事づまりを考えると、なんとか行ける日にちを確保しないと、という状況。談笑の独演会はいつ だったっけ?

 SFマガジン原稿、書かねばならないのだが雑用にまぎれて明日のばしになる。4時、背中が板のようなのでタントンマッサージに行くが30分待ち。待ち時間雨の中で東急ハンズに行き買い物。変なカエルの置物があったので衝動買い。マッサージに戻って揉まれるが、今日は揉まれた感じがどうも変梃で、痛いわけではないが何度か 声をあげる。

 そのあと東武ホテルで快楽亭親子と待ち合わせ。芝居のチケット代を手渡し、にぎわい座と国立演芸場の出演の件を打ち合わせる。国立なら、“ミステリー寄席”と銘打てば大阪から旭堂南湖さん乗り賃込みで呼べるかも、ということ。白鳥が暮れのトンデモ落語会で人間椅子やったらしいし、談笑の作品にも不条理ミステリ調のものはあるし、いい会が出来そうだと思う。快楽亭がこないだ、秀次郎の通う小学校で紙芝居を演じてみせたそうだ(当然、梅田佳声先生指導)。その感想文がいろいろ来て、読んでいたら、中で息子の秀次郎のものはたった一言“よっ、名人!”だった、と、快楽亭実にウレしそうに語る。芸人の血が息子に流れていることの確認なんだろう。あと、日本映画チャンネルのサイトに連載のコラムで『夫婦万歳』を取り上げ、そこでこないだ歌舞伎座で聞いた、私の母の意見を紹介しておいたと。
http://www.nihon-eiga.com/essay/

 昨日に続き、先日ライブハウスで語った『小栗判官照手姫』をCDで(六代目岡本美寿松太夫)聞く。聞かずに語ったのか、と驚かれそうだが実はしかり。もう片一方の演目『八百屋お七』の方は何度も聞いて耳に入れ、自分なりの語りパターンに変えていった。で、もう一席はも少し時代を遡って、東洋文庫に入っている『愛護の若』にしようと思っていたのである。美少年が責め苛まれて身を投げて自殺してしまうと いう話で、救いのないところもアナーキーでいいかと思ってのこと。

 ところが、これが文章がやはり難しく、耳で聞いてわからない箇所が多すぎる。古典の会ならいいが、ライブハウス向きではない。それでほとんど当日の朝に、聞いてわかりやすい(ま、あくまで比較論だが)俗な遊女屋の主人と、下女に身をやつしてはいてもお姫様口調の抜けていない小萩(照手姫)とのチグハグな会話が面白いこの 小栗判官『本陣入り小萩説話の段』に変えた。

 テキストはあるが、CDをきちんと聞き直している時間はないので、そのまま、ほ ぼブッツケで
「こんな風に読めば面白いな」
 という感じで関口さんと読み合わせ、照手のイントネーションなどは、ついこのあいだ歌舞伎座で聞いた『石切梶原』の楓(福助)などを参考にして、もっとディフォルメし、主人長右衛門のイントネーションはまったくの想像で、この話は垂井の宿場(岐阜県)が舞台なので、あのあたりの方言をカリカチュアライズしてしゃべらせて みた。

 まあ、楽しく読めて評判も上々だったのでよかったのだが、やはりオリジナルを聞いておかないと落ち着かない。で、昨日からやっとCDを聞いてみたのだが、これがびっくり。節の部分はともかくも、二人の会話のテンポややりとりは、ほとんど私の 読んだものと重なるではないか。長右衛門が繰り返す
「……われが酌に出てくれんと、この長右衛門の首が難しい」
 という台詞のイントネーションなどそのまんまである(照手はもっと泥臭くお姫様アクセントを強調していた)。

 改めて、自分の演出法が正しかったのだな、とわかって嬉しかったし、よほどこの節談説経という芸能の持つリズムが自分のリズムに合っているのだな、という発見もあった。現在は関口さんのギターとのコラボで若い人にもアピールする形でやっているが、もう少し歳をとったら、オリジナルの形に帰って、これを古い形で保存することもやってみたいと、ふと思う。説経節は調子が固定されているので、伴奏もさほど 難しくない。太棹の三味線をちと、練習して見ようかしらん。

 9時帰宅。鶏とセリ、豆腐の鍋で酒。鍋よりその後のスープで作る茶漬けが千両。あとワカメのスノモノ、山掛けまぐろなど。気圧のせいか気分がイライラ、少し母と口論してしまった。鬱。

Copyright 2006 Shunichi Karasawa