裏モノ日記

裏モノ採集は一見平凡で怠惰なる日常の積み重ねの成果である。

22日

水曜日

ヤーイ、演歌調。

 クサいぞ、お前。朝、8時起床。きちんきちんと起きるコトデアル。朝寝坊が何よりの快楽だった大学・高校時代を思い返すとウソみたいだ。あの頃は寝坊は、やらねばいけないことをサボる快感であった。今の寝坊はやりたいことの時間がなくなる恐 怖なのだな。朝食、豆とコーン。まだ飽きない。

 日記つけ、風呂入り、原稿書き。世間からの一時的遮断。昼は書いてる原稿の資料本を持ってキッチンジローのサービスランチ。鮭フライとハンバーグ盛り合わせ。昭和の香りを今に残すランチであるが、さすがに最近、ナポリタンのスパゲッティを皿 に添えるのはやめたようである。

 2時、時間割。世界文化社Dさん。まとまったところまでをプリントアウトして行こうとするが紙詰まりで8枚(原稿用紙10枚分)程度しか出せず。Dさん、今回の本が世界征服というテーマだからと、神代明『世界征服物語』(集英社スーパーダッシュ文庫)など読んでいる。参考になりますか、と聞いたら、何かクラクラします、とのこと。さもあらん。仕事の話、阿佐谷の話。Dさんが以前、阿佐谷に住んでいたのは、私の住んでいたのと同じ通り、私も以前通ったことのある銭湯(玉の湯が休みの日はこっちへ行っていた。今はもうない)の近くだったとか。

 打ち合わせ終えて一旦帰宅。次の打ち合わせ用のデータなど作成。ササキバラゴウさんと1978年論で情報交換。私はササキバラさんより一年早い1977年をオタク元年と規定して、道新の原稿でも発表している。なにより、映画版『宇宙戦艦ヤマト』公開の年であって、一年後のスター・ウォーズ公開に向けて、“雨前の”タケノコのようにファングループやSF研究グループが結成された時期でもあった。留守録に聞いたことのない編プロからのものがあったのでかけ直してみると、仕事依頼ではあったが何か微妙に話が通らない。“で、何を書けばいいのですか”“キャラクターものの四コママンガをお願いしたいのですが”“……あの、ひょっとして、唐沢なをきの方へのお電話ですか? こちらは俊一なのですが”でようやく気がついたらしく“ああっ、とんでもない間違いをしておりました”と。なをきの電話番号を教えてやる。デビュー当時はよくあったが、いまだにこういう間違いをするところがあるか。なをきのところにも、よく“ウンチクエッセイを”などという依頼があるという。

 4時、また時間割。河出書房新社Sくん。以前は青土社のSくんだった。やっと再スタートを切った怪獣官能本、まずは放ったらかしにしてある執筆予定者たちに連絡をとってくれるよう指示し、さらに内容とつきあわせての本の形式も再考を、と打ち合わせる。製作作業を楽しんで出来る本にしよう、というのが私個人の今回の本のコンセプト。いろいろとテーマに関して話す。東宝怪獣映画の本質(これはこの本ではなく、二見で出す予定の怪獣論本に書く予定)と、TVのウルトラシリーズの相違について、など。あと、もとリーブルなにわ店長のHさんの今の状況などについて。

 別れて時間割を出て、東急本店まで歩き、紀ノ国屋で買い物して帰る。ロフト斎藤さんとメールやりとり。レトロエロ朗読、好評につき3月7日追加公演決定。タイトルをどうしましょう、というので、『レトロエロ朗読F改』というのはどうか、などと提案するが、わかる人が少ないのではとも思い、結局『レトロエロ朗読会エピソードII』とする。今度はベギラマ、まろんの他に声ちゃんも出演。あの伝説の声で朗読 されるエロ描写にみんな萌えよ。

 6時半、家を出て新宿南口、それから中央線で中野。なかの芸能小劇場『トンデモ落語界特別編 緊急報告会』。つくとすでに談之助・ブラック・元気いいぞうの三出演者は来ているのだが、肝心のCHICAGO・塚田が来ていない。ブラ汁、ブラッCが前座で立ち働いている。楽屋で二人にお年玉(二千円だが)やって、談之助に
「志加吾とキウイにも、と思ったんだけど、考えてみりゃヤツら一般人なんだね」
「そうそう、一般人なんだから、本来は芸人にお年玉やらなくちゃいけない」
 快楽亭曰く、“今日はCHICAGO・塚田がいるから前座はいらないだろう、と言ったら談之助が「いや、あぶない。逃げる可能性があるから、前座は絶対連れてきた方がいい」ってんで、無駄じゃねえかなアと思いながらあの二人連れてきたンですが、野郎ども、ゲスト感覚でいやがるン。談之助の言うこときいといて大正解”。

 もともと、今日この会場を取っていたことを去年の末までみんな忘れていて、すでにぴあも東京かわら板も締め切った後で、活字媒体には全く告知していなかった。告知はコミケとロフトで配ったチラシと、私のサイトのみだったのだが、会場は9分の埋まりというなかなかの入り。“みんな、どこでかぎつけてくるんですかねエ”と。と学会の藤倉珊さん、Hさん、Kさん、裏モノはQPさん、傍見さん、見えない世代さん、官能倶楽部で開田さん夫妻、安達Bさん、あと殿様、M田くん、M川くん、M川くんの奥さん、編集のSさん、それに平塚くん夫妻などなどが顔見知りメンバー。

 談之助が、さすがに“もし二人がバックレたら”という事態の想定で快楽亭と相談し、楽屋に消えたあたりでやっとCHICAGOが来る。塚田サンはどうしたか? 開口一番がブラッC、『人生マラソン』。いつぞやの“トントントン”の時みたいな破壊力はないが、いわゆるフラの味の、フラのゲージがフリ切れたような芸。前の席に座っていた女性が、針でつつかれたようにビクン、ビクンと体をふるわせて笑っていた。いや、笑うというより発作か。次が談之助、談志直伝『朝鮮人の代書屋』。こういうものを人を選んで伝承させようという談志も凄い。落語って本来、こういうものなんではないのかと思う。もちろん、進歩発展させた人はエライと思うが。原典の 持つアヤシサ爆発の一席。

 やっている最中に塚田さんも来たと見え、次に座談会。CHICAGOが塚田を裸にして、首と手に拘束具をつけて引っ立ててきた。状況としては、6月にラストチャンス一回が与えられているという案配だが、談志のガン(再発したと記者会見したらしいが、貴乃花引退の陰に隠れてまったく話題にならなかった)の進行の度合によっては急がないと危ないんじゃないの? と談之助・快楽亭が煽る。塚田サンは談四楼が預かる、と言い出したそうだが、さてどうなるか。快楽亭、それよりアタシが責任持って信用できる師匠の元にあずけてあげるから。ドウ? 山本竜二のとこ、と言い出して、元キウイさん戦慄。しかし、CHICAGOも壇上で全然落ち着かず、子供のようにロープ(塚田さんを引いてきたやつ)をもてあそんでいる。かなり屈託はしているよう、というか、わかりやすすぎ。

 中入りで立川流同人誌、バカ売れ。これをねらって報告会をを早めたわけ。その後が元気いいぞう、いつもの通り。“共産党に、乳頭”のところで、今度は同じ列の並びの席の女性がヒキツケを起こしたごとく身をよじっていた。ひでじろうの歌、というので“♪チンチンいじろうひでじろう〜”と。快楽亭のリクエストなんだそうだ。トリが快楽亭、榎本滋民が登場する『反対俥』。このごろの快楽亭の高座は、古典をオーソドックスにやるか、それとも変態落語に行くか、本人も決めずに高座に上がるらしく、聞いていてまったく油断ができない。ライブ感覚にあふれたエキサイティングさが出てきた。

 終わって出たら睦月さんが女性連れで来ていた。妖怪イラストレーターの冴羽日出郎(男性名前)さん。文芸家クラブでの会から流れてきたらしい。総勢30人くらいでトラジで打ち上げ。腹が減っていたので焼き物の他、豚足、レバ刺しなど、やたら食った。QP、傍見の二人とアヤシイ話など。傍見さん、こないだの朗読会、川上史津子さんの朗読は役者さんの朗読で、“本人”が消えて文章の中の登場人物の語りになるが、ベギちゃん、まろんの二人、それに私は本人が作中の人物を演じている。川上さんのは朗読芝居で、われわれのは朗読芸だ、と分析。席を移して元気さんやウツギさんとも語る。談志の癌宣言が貴乃花が引退にぶつかってしまった話。圓生師匠の三遊協会設立のときの報道陣は凄まじいものがあったが、その反動か、死んだときはパンダの死んだ陰に隠れてさっぱり目立たなかった。談之助曰く、“噺家がなんかやろうとすると、必ず邪魔が入るんです”と。M川くん夫妻は、結婚十年目に生まれた子供の歌を元気いいぞうに作ってもらいたいと頼んでいた。『怪奇大作戦大全』の執筆者である荻野友大氏、それからキャラクタービジネスの本など出している企画会社のG氏などに紹介される。客の方も多士済々。12時まで食って飲んで。

Copyright 2006 Shunichi Karasawa