裏モノ日記

裏モノ採集は一見平凡で怠惰なる日常の積み重ねの成果である。

11日

土曜日

ズビズバー、バンパイア〜

 やめてケーレ、チュウチュウ(血を吸う音)。朝7時に起きてまだ早いやともう一度布団にもぐりこみ、45分起床。朝食を作ろうとして、パンも牛乳も切れていたことに気がつく。仕方なく、K子にはパン代わりにクラッカーと野菜炒め。私はオニオンスープ。やじうまプラスの天気予報が凄まじい素人声の棒読みで、なんじゃこりゃと思っていたら、辻よしなりから“××(名前忘れた)は今日、ひどい風邪で……”と説明があった。誰か代わってやりゃいいのに。しかし、風邪で声が荒れるのはわかるが、棒読みになるのはなんでか。

 年賀状の整理。映画会社から送られてくる賀状は試写会の招待状とまぎらわしかったり、やたらデカくて整理しにくかったり、封筒に入っていたりして、邪魔なものが多く、ほとんど捨てる。が、アルバトロスフィルムのは大型ではあるがさすが。今年公開予定の作品群が惹句の書いてあるシールをはがすと題名とスチール、もしくはイメージ写真が現れる形式で列記してあるのだが、それがモノすごい。“サソリが水圧の変化で超巨大化! 全員圧死!”(『マリン・スコーピオン』)、“10万匹のハチが人類に復讐を開始する!”(『スティンガーズ(仮)』)、“ある日、巨大モンスターサメが陸に上陸!”(『ダーク・ウォーター(仮)』)、“超巨大ムカデが人類に復讐を開始する!”(『毒ムカデ(仮)』)、“超巨大スズメバチが人類に復讐を開始する!”(『キラー・ビー(仮)』)、“超巨大アメーバが人類に復讐を開始する!”(『スライム・パラサイト(仮)』)、“ある日、案山子が農民に復讐を開始する!”(『案山子男(仮)』)……といった具合である。気になるのは“えびパンチ炸裂! えびのスポ根サクセスストーリー!”と惹句のついた『えびボクサー』というイギリス映画であるが。監督はマーク・ロック、出演のところに“エビ、シャコ”とある。

 メールいくつか。ネットで探して貰っていたビデオが見つかったという報せ。別に 名画でも何でもないのだが、それだけに見つけにくく、十五年以上探していたビデオである。それが一度の探索依頼で見つかってしまうというのは、やはりネット恐るべし、という感じ。嬉しい。あと、TMCのM氏から、河崎実監督の新作のビデオが出ますという通知が来た。『まいっちんぐマチ子先生』だそうである。なんと。さらにスーパーバイザーで名前の出ている『トリビアの泉』からは有料サイトを作ることになったのでこれこれのネタを使うのだがよろしいか、という問い合わせ。なんか、どんどんいろんなものが出来ていくな、この番組は。

 12時半、家を出て神保町へ。教育会館古書市。若い女性がゾロゾロと入っていくのでナニゴトカ(古書市の筈は絶対ない)と思ったら、日本皮膚科学会であった。入場者の三分の二は女性、それも若い女性である。そんなに皮膚科には女医さんが多いのか? 古書市は例によってホコリっぽいオトコの世界。金がないので本日の買い物は二万円以内、と決めてまわって、あれこれ物色したら、合計金額19950エンであった。買い物ゲームなら優勝できたかも。

 買ったものの中では『Regal』というフランスのヌード雑誌(1951年)の6冊合巻が7000エンと一番高く、後は1000円台。出て、腹が減ったので靖国通り沿いの『ランチョン』でエビフライとライス。これを選択したのはやはり『えびボクサー』が頭にあったせいか。有頭の巨大なエビフライが二尾。“海老のフライのに白帆が見える”という地口があったな。明治のものだと思うが。

 その後、何軒か回り、最後にカスミ書房。先客がいて、やはりコミケの話で盛り上がっていた。店内に段ボール箱が山と積んであるのを見て、“東急(古書市)用ですか”と訊かれて、Yさん“いえ、冬コミの戦利品です”と。私も種々、お礼いったり言われたり。冬三日はキツいですよやっぱり、とのこと。お互いの買ったものの話いろいろ。私はやはり、北朝鮮のマンガ本だな。これが実に絵が下手でいい。

 出て、半蔵門線で表参道まで出て、紀ノ国屋で買い物し、帰宅。買ったものに目を通しつつ、少し寝る。肩凝り、のぼせなどをふせぐ第一は休息、と正月にわかった。ただし、寝過ぎると寝凝りというのになるが。起き出してメールなど。裏モノの黒さんから、中野ブロードウェイ情報をいただく。もう一度行って確かめてみねば。8時半、井の頭線ガード下『細雪』でK子と待ち合わせ、食事。オサレな渋谷駅前にほとんど唯一、残った闇市風雰囲気あふれる店。“日本一の腸詰”と看板にあるが、まさにここの腸詰が私には一番の好み。齧って破片が口中に広がったときの滋味、肉が細かに挽肉にされていても肉としての矜持を失わず、しかし、単なる肉とは全く別 物の“腸詰”という個性に転化されている、その二つの性質が互いに自己主張をしながら舌の上で絶妙のコラボを形成するというか。隠し味(二種の個性の仲介役として)に極少量のカレー粉を使っているのではないか、と踏んでいるのだがどうか。あと、豚タン刺し、爆肉、台湾風冷や奴、レバ唐揚げなど。レバ唐揚げがまた、安っぽくて戦前の味で絶品。日本語のたどたどしい中国人のお姉ちゃんのまごついた時の困った笑顔が可愛い。

 B級店の特色に“ハリガミが多い”というのがあるが、ここの店はまさにそれで、“通路側の方は足を組まないようお願いします”“飲食をしながら雑誌・新聞類を読むことはご遠慮ください”“ビール・酒類注文の際最低一品はつまみをおとりください”など、細かいこと。客ばかりでなく、厨房への窓口には“返事すること”などと店員向けのハリガミもある。いささか空間恐怖症的なオモムキもある。

 同じテーブルの端に、放送関係者か、やたら“チョ〜何とか”を今どき連発する茶髪の、ややトウのたった女の子二人と来ている業界人ぽい人がいた。その会話が漏れ聞こえてくるが、何かオタクぽい。“551蓬莱のCMソングを作ったミック宮川ってアーティストにね、今度『コミケのテーマ』ってのを作らせるんだ。コスプレギャルを追っかけるカメラ小僧の歌でね、それをコミケ会場で流して流行らせる”などと 言っている。これは縁のない衆生でないの、と思っていたら果然、帰るときに
「カラサワシュンイチさんですよね? 一度、SF大会で加藤礼次朗と一緒にお会いしました」
 とか声をかけられる。うひゃひゃひゃひゃ。

Copyright 2006 Shunichi Karasawa