裏モノ日記

裏モノ採集は一見平凡で怠惰なる日常の積み重ねの成果である。

5日

日曜日

ダリとキリギリス

 お前が遊んでいる間に私は毎日超現実派絵画を描いていたのだ。朝8時起床。寝床で昨日の三省堂国語辞典“シ”の部を読む。古い辞典を読むのは楽しい。“ジュー”の解説に“(一)ユダヤ人(二)因業な高利貸”とあるのには時代を感じて苦笑(当然いまの辞書にはこんな語義はない)。“シュープ(独Schub)”なんて語は今は広辞苑にも載ってない。“[医]いちじ回復した肺結核が急に悪くなること”とあり、“「〜を起こす」”と例文が載っている。肺結核が抗生物質の発達で脅威でなくなった時代以降、これらの語は辞書からも消えていったのである。フレンチドレッシングを“すあぶら(酢油)ソース”というのも、シンフォニーの“フォ”の字が日本人になじみがなかった頃の“シンホニー”という表記も、時の流れと供に消えていった項目である。

 朝食、ジャガイモの冷ポタージュ、生ジャガイモサラダ、冷たい茶わん蒸しというわけのわからぬもの。茶わん蒸しというのは冷やすと和風っぽくなくなることを発見する。食って、少し書棚等を整理す。さすがにもう、だらけるのに飽き飽きしたらしい。昔のヤマトファンのころの同人誌も出てくるが、いや、いくら懐かしいとはいえ恥ずかしくて読めないですな。嗚呼、この当時のメンバー達いまいずこ。石川肇は以前開いていた自分のサイトも閉じてしまったようだし、大迫秀人も岩谷明も行方知れず。ロリコンマンガ家になったくりいりもなかはまだ同人誌を出していて、こないだの冬コミにもブースを出していたようだが。

 原稿をパソコンで書く。昨日も書いたが、文書保管庫の中に古い原稿類がかなり保管されている。ほとんどはメールや日記だが、原稿類で、こんなものを書いたか、というようなものもある。以下の原稿は確か法の華三法行の事件が起こったとき『ダ・カーポ』だったか『FLASH』だったかの注文で、“福永法源をホメ殺してください”という注文で書いたもの。読みかえしてちょっと面白かったんで再録する。

「何といったって福永法源、顔がいい。これまで何かと話題になってきた新興宗教の教祖たちの顔とはえらい違いだ。薄汚いデブの麻原ショーコーや、駅前のホームレスとほとんど区別がつかない高橋グルに比べて、まず顔で勝っている。昔はシャカだってキリストだってマホメットだって、ハンサムで魅力的な男性だった。それだから、あの当時いろいろあった宗教の争いで、信者をどんどん獲得して勝ち残り、今や世界の三大宗教などと言われているのだ。教祖がハンサム、というのは、教団が発展する基本、と言っていい。まず、法の華三法行はそこをクリアしている。そして、
“サイコーですかー!”
“頭とれてますかー!”
 という呼びかけに見られるセンス。あれもスゴいと思ったが、もっとスゴいのは、著書の書名に見られるセンスだ。これはブッとんでいる。
『なぜ金持ちになろうとしないのか』である。私も貧乏だが、しかし面と向かってこう問いかけられたことはなかったような気がする。金が欲しいな、とは常々思うのだが、“金持ちになろう!”とは、あまりにダイレクトすぎて考えようとしなかった。盲点をつかれたと言っていい。そう思って、他の著書の書名も調べてみて驚いた。『あなたが悪い』『死ぬ。』である。世の中には『かいつまんでいう』とか『愛してる』とか、大胆な書名の本もいろいろあるが、この法源氏の著書のインパクトにはかなわない。なにしろ、“死ぬ。”である。内容がゴーストライターの手になったものだって何だってどうでもいい。このタイトルセンスは法源氏のものだろう。それだけで天才だよ、これは。(後略)」

 こういう風に昔の原稿をいくつかアップしようと思っていたら、母がモジュラーのケーブルにつまづいて、コネクト部分を壊してしまった。うーん、今日からの日記を平塚くんのところに送るのはどうする?

 昼は中国の乾麺の焼きそば。乾麺は貧乏くさいが、キャベツ、豚肉、イカなどが豪勢に入ってそれを相殺。親父のズボンを何着かもらう。形見分けか。瀬戸朝香のOLもの番組など見る。いしだあゆみ、樹木希林などキャストは豪華だが、どうもつまらん内容だなと思っていたが、文芸社の本が原作で、スポンサーも文芸社。自分のところの宣伝のために作った番組だということがわかる。CMで、文芸社で本を出した作家たちがずらりと揃うが、みんな、いかにも作家々々した顔を作って、カメラの前に立っている。一般の出版社出身よりずっと作家ぽい。本を出すモチベーションが“作家になりたい”だからだろう。私の周囲の人々は作家ぽくないなあ。

『南極物語』の監督、蔵原惟繕氏死去。去年の12月28日に亡くなっていたとのこと。日活出身で、かの無国籍アクションの極北のような怪作『メキシコ無宿』を監督したヒト、ということで私の中では偉大である。あと、ショーケンが『エマニエル夫人』のスケベ爺さんアラン・キュニーにオカマを掘られる『雨のアムステルダム』という映画を高校のとき観にいって、変梃なものじゃと思ったのを記憶している。映画関連ではもう一人、『モンティ・パイソン』のプロデューサー(『モンティ・パイソン・アンド・ナウ』の監督)イアン・マクノートン死去。これも昨年12月10日。スポニチアネックスの訃報情報では“俳優・監督”となっていた。『怪獣ウラン』のキャストにあるイアン・マクノートンというのは彼なんだろうか。植木不等式氏の日記で、若い頃の作品に『ハギス・未知なるX』というフィルムがあるという話があったが、『怪獣ウラン』の原題が『X:THE UNKNOWN』であることを考えると、どうも自己出演作のパロディっぽい。と、いうか、このフィルムのこと自体、パイソン流のジョークではないかと思えてくる。

 7時にタクシーで母と三人、中央区のロシア料理店『アンナ』へ。ここは札幌のロシアンレストランでは草分けの店らしいが、気取らない、食堂っぽい作りで、気軽な感じ。いつもの古書店さん(須雅屋、薫風、じゃんくまうす)プラスネイルモデルの志摩さんたちとの食事会に、母も連れてきたもの。じゃんくさんは奥さん、薫風さんは娘さんを連れてきているので(志摩さんの旦那は風邪でダウン)、総勢11人の大所帯となる。薫風さんの娘さんはもう高校二年生。私と薫風さんが知り合った頃に生まれているわけだ。

 料理食べながら、例によっての無駄話、古書ばなし。じゃんくさんのところで好美のぼる本がのきなみ5000円6000円という値段がついていた話は日記にも書いたが、それがオークションですでに全部1万円代になっており、入札者の多くは業者(同じ古書店)だという。好美のぼるの本がそんな高額で売れるのか、と、値を上げた張本人たる私が仰天する。いま古書価が暴騰しているのは貸本・ホラー系では好美先生と、白川まり奈先生であるらしい。『母さんお化けを生まないで』のストーリィをみんなに解説する。くだんの双子として生まれた少女が、医者によって首と体のすげかえ手術を施され、人間の首と体を備えた普通の女の子として育つ。しかし、自分の出生の秘密を知った彼女は、生き別れとなった双子の姉(牛の頭に牛の体。要するにただの牛)を探し求めるのであった。

 料理、母が“案外おいしい”と褒める出来。純ロシアというよりアジアぽいところがいい。ザクースカはニシン酢漬け、サーディンオイル漬け、イクラ、チーズなど。ボルシチにキエフ風カツレツ、それから壺焼きキノコ。ボルシチはうまいが肉が豚であるところがどうも。ロシアじゃ豚は食わないだろう? 母の黒豆をみんなにお裾分け。来年の家の取り壊し(志摩さんの旦那に頼むつもり)前に、みんなであの家でパーティをやろう、と母、提案。支払いは母と私で分担する。母に支払わせるのは悪いと思ったが、壊したワープロの賠償だと言うので払ってもらっておく。支払いのときに、この店の奥さんが私の顔を知っているという。テレビで見たらしい。ゴールデンタイムの番組の凄さよ。いつもならこの後二次会で蕎麦屋に流れるのであるが、料理が分量多かったのと、アラレのような雪が舞う状況になっているので、ここで解散。帰宅する。夜半、窓のガラスをパチパチ叩くほどアラレが凄かった。

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