裏モノ日記

裏モノ採集は一見平凡で怠惰なる日常の積み重ねの成果である。

15日

金曜日

今東光、ヨロシク!

 文学的造詣の深いツッパリ。朝7時30分起床。今朝方は5時ころから間歇的に目を覚まし、また寝入るという繰り返し。そのたびにわけのわからぬ夢(『バリバリ伝説』やおいとか)を見る。一番印象的だったのは、スターウォーズのデス・スターに勤務している帝国軍士官になって、レベル軍の攻撃に逃げまどうが、どんどん追い詰められていき、最後の通路も破壊され、逃げ場を失ってしまうというもの。ゆうべ、打ち合わせの前に紀伊国屋のDVDコーナーで『エピソード1』をやっていたのをチラリと見たのと、昼間にこんなサイトをのぞいたんで、その影響だろう。
http://www.geocities.co.jp/Hollywood-Cinema/3696/clerksrepo1.htm

 床から起きて寝汗をかいたシャツを取り替え、まだ寒い台所に出てコーヒーを沸かし、猫にエサをやり、朝食を作る。ジャガイモとソラマメの炒めもの。風呂浴びて出たらノーザンクロスIさんから、井上くんの携帯教えてくれとのこと。残念ながら私は人の携帯に電話をかけることをあまりしないので(友人知人の携帯番号もほとんど知らない)、協力できず。発行・発売の表示に関してのことらしい。

 昨日の原稿に、耳無し芳一という単語が出てきたのだが、改めてその名をワープロで表記しながら考えるに、この芳一という名前は時代ものらしくない。俊一とか光一とか要一とかいう名前で明治より前のものとなると思い浮かぶのは『信長公記』の太田牛一くらいで、しかも牛一というのは号ではないか(信定という名前も見えるところから)と言われている。盲人の琵琶法師らしい響きのものをハーンが採用したということなら、“芳市”になるのではないか、とちょっと考える。で、ネットでそこらを調べてみる。盲人の名乗りについて、明確な規則などはわからなかったが、泉鏡花の『怨霊借用』の中に、“小一”と言う按摩が出てきて、
「本名で、まだ市名でも斎号でもございません」
 と言う場面があることを知った。してみると、芳一というのはやはり本名か。鏡花のはたぶん“コイチ”と読むのだろうが、これはまあ、時代物っぽい。芳一では少し洒落すぎていないか、どうも気になるのである。

 そこから派生した疑問で、“座頭市”というのは実在した人物ということだが、この名前はいったいどういう意味なのか、とトリトメもなく考える。座頭も市も、江戸時代の盲人の身分の称であって、名前ではない。後に盲人一般を指して座頭、と呼ぶようにはなったから、これはあだなとして、普通は盲人の市名は本名から一字をとって、熊五郎なら熊の市、才蔵なら才の市等となるのが通例だろう。座頭の市、では名前の態をなしていないのではないか? ひょっとしてこの市は市名ではなく、市五郎とか市助とかの略なのではないか。……そう言えば塙保己一という名前の人もいた。読みはホキイチもしくはホキノイチだが、これはどうして市ではないのか。この人は検校の位まで上ったわけだから、市ではおかしいというので一に変えたのかとも思うが、検索で調べてみても保己一を保己市としているのは井上ひさしの『薮原検校』くらいである。井上ひさしはわざと市にしたのだろうか。もっとつっこんで調べようかと思ったが、そこらで私の連想は、昔紀伊國屋ホールで観た『薮原検校』の保己市役をやった財津一郎のことなどに移っていって、ウヤムヤのまま終わる。ここらへんが言語史学者の山田俊雄などと違うシロウト勉強の尻ッ腰のなさである。

 昼は冷凍庫の中にカモ肉の切れっぱしが数片あったのを使って、親子丼風のものをこしらえて食べる。原稿、Web現代をやるが、モノマガジンが今日中に欲しいと言うので、そちらに切り替え。急いで5枚半。筑摩書房のMさんから、文庫の解説にお願いしておいた植木不等式氏のメアドが何故か届かない、と言ってくる。植木氏については偶然、このあいだの羊脚大会のときに携帯の番号をメモっておいたので、それを教える。

 海拓舎Hさんから電話。凄まじい風邪っぴきだったそうである。この人、今年始めからずっと身体の調子が悪い々々と言い続け。ハタ目にもわかるオーバーワークの人なので、いささか心配である。来週打ち合わせを約す。3時、時間割にて光文社Oくんと。10月に出る文庫の件。まだ2月だというのに10月のスケジュール立てはピンとこない。昨今ちょっと貸本マンガブームが起きかけているので、UA!ライブラリーの中から一冊、文庫にしたいという話も出たので、それをできればもう少し早めの予定の中に入れてもらえるよう頼んでおく。

 恵贈本数冊。安達瑤さんから祥伝社文庫『ざ・とりぷる』。このあいだの『ざ・だぶる』の続編。続編が出るようになれば作家も売れっ子のうちだろう。しかし、この次はどういう題名になるのか。もう一冊、河出文庫から小宮卓監修性の秘本原典版コレクション『激情の嵐』。小宮氏には一面識もないのだが、どこかで私の名を知ってくれているとみえ、毎回新刊を送ってくださる。名著『性現象事典』の著者として尊敬している人だけに恐縮。

 8時、四谷三丁目まさ吉で井上デザイン、K子と飲む。ノーザンの件は何とか解決したとのこと。それにしても、このあいだまさ吉に行こうとして金曜で混み合っていて、結局焼き鳥屋に行ったが、あれからもう一週間たったのかと、時のたつのの早さに大げさでなくガクゼンとする。これでは10月や12月の出版予定も、さまで早すぎることもないかもしれぬ。青林工藝舎の手塚さんも来て、いろいろ出版ばなし。ガロ系作家の作品論みたいなことも、酒入りながらかなり大声で論じてしまう。ひさしぶりに青臭い雰囲気の酒で、オレもまだ若いな、と後でちょっと反省。何故か井上くんのいる席だと悪酔いをする癖があるな。

Copyright 2006 Shunichi Karasawa