裏モノ日記

裏モノ採集は一見平凡で怠惰なる日常の積み重ねの成果である。

8日

金曜日

カスに向かって撃て

 あんなカス、撃っちゃえ。朝8時起床。よく寝ることである。朝食は野菜スープ。昨日の朝飯を記載し忘れていたが、内蒙古飯店のシャルピンを朝飯がわりにした。やはりスタバのミートパイとは雲泥のうまさだった。毎朝、漢方の小青龍湯と黄連解毒湯を一包づつ服用している。小青龍湯は身体の水代謝をよくするため、黄連解毒湯は二日酔いのノボセをとるためなのだが、毎回一包づつ服んでいるのだから、同じだけ減っていかねばならぬはずなのに、毎朝、数が合わない。必ず、どちらかが一包少なくなっている。アレ、と思って服用数を調節したりしても、やはり次の日にはあわなくなっている。猫がのんでいるんじゃないかなどと疑ったりもする。酔って帰って寝る前に服むときがあるので、そこでこんがらかるのであろうとは思うが。

 13日に憲政会館で講演のはずである。以前、そう依頼された。ところが、つないでいた人から一回、依頼先の団体(ライオンズクラブ)から一回、いずれも去年に電話があったきり、何時に入れとか誰に通せとか、一切連絡がない。こちらも諸事多忙でほったらかしておいたのが悪いのだが、考えてみればもう来週である。気になって昨日メールをしておいたが、今朝になってもナシのつぶてである。これに少しイラつく。考えてみれば、もう金曜であるが、今週はなんだかんだ雑用でほとんど仕事をしていない。小刻みなストレスだが、これがだいぶ体調に影響しているらしく、ときおり心臓がケッタイをして息苦しくなる。マイストリートT氏から電話、単行本の中の自作解説を一本書いてほしいとのこと。400字書き、青焼きチェックと共にメールする。パソコンのプリンタの調子がおかしく、しばらくあれこれいじくって直す。

 昼はパックの五穀御飯を温め、メンタイコと、札幌の母の自家製の牛肉佃煮で食べる。この佃煮が、子供のころ大好物だった。43歳の今日食べても同じ味なのがすごい。去年、オタアミで札幌に行ったとき、実家の冷蔵庫にこれがあったのをちょいとつまみ食いしたらとまらなくなり、小さな蓋ものの中に入っていたのを全部平らげてしまったことがあった。これはボケの徴候であると思う。懐かしさへの耽溺に人が用心深いのは、それがこういう幼児返りのボケにつながる危険性があるからだろう。その憂いのない、“経験したこともない懐かしさ”を提唱する必要がある。

 2時半、西永福S歯科。こないだとった奥歯の型がうまく取れていなかったそうで今日はその取りなおし。一番奥で、歯肉も盛り上がっており、型が取りにくいのである。念を入れて三度も取る。仮歯をとった跡に露出している神経を電気で焼かれて、ギャッと治療台の上で飛び上がる。

 そこを出て今度は曙橋に向かう。井上デザインで青焼きのチェックである。車中で和田萬吉校訂『赤本・黒本・青本』(富山房・昭和三年刊)を読む。和田萬吉と言えば近世国文学研究の第一人者であり、書誌学者として海外の日本関係文献の研究・翻訳でも有名であり、能の研究の大家としても知られ、図書館学の日本での草分けの一人でもあるという超大学者なのだが、この江戸の絵本群の校訂にはかなりのミスがあり、私の前の読者がそれをいちいちチェックして、ペンで訂正を入れている。“いさひかしにまかり(いざ東に罷り)”が“委細かしこまり”の間違い、“またしひをくへる(又鮪〈しび〉を燻べる)”は“またゝびを燻べる”の間違い、などの他“外聞が悪い”を“開運が悪い”、“贅を尽し”を“才を尽し”などとしているのは和田萬吉とも思えぬひどいミスで、ひょっとして自分は名前貸しだけで、校訂は教え子か何かにまかせた本なのか、とも思う。それにしたってひどい。

 金曜日で道がメチャ混み。5時半曙橋。『笑うクスリ指』の青焼きチェック。これまで見逃していたえらい問題が一個みつかる(ネット書き込みから引用の範疇を超える引き写しをしていた)。この前の段階で数回、目を通していたにも関わらず、気がつかないでいた。青焼きでのチェックはせいぜい誤字脱字程度なのだが、これは見のがせず、井上くんに頼んで、そこの折りだけ文章の大幅入れ替えをしてもらうことにする。冷汗をかいた。講談社のNくんもちょうど来て、『怪網倶楽部』のゲラ刷りももらう。そこにマイストリートのT氏から偶然電話、初出の記載でやりとり。さらに目下のお仕事とは関係ないが世界文化社のKさんも別件できていたので、次の単行本の件での打ち合わせを約す。果てはK子まで顔を出した。UA!ライブラリーの打ち合わせだとか。一時は唐沢俊一事務所曙橋出張所の様相を呈したことであった。

 一旦家に帰って連絡事項など確認したかったのだが、K子が行き返りの時間がもったいないと主張し、ここで『怪網倶楽部』ゲラに目を通して時間つぶす。胸のあたりが息苦しくなり、ドラッグストアで救心ドリンクでもと思ったが品切れ。リポビタンAをのむ(これ、息切れには効かないと思うが、気は心で何か楽になった)。8時、井上くんと三人で外に出る。まさ吉でも、と思ったが満員、ではと次の店へ行くがここも満員。さすがは連休前の金曜である。焼き鳥屋『どど』で焼鳥と酒。井上くんと辛口の人物月旦やりながら、日本酒コップ三バイで見事にベロンシャラとなる。やはり体調がヘンである。K子に引きずられるようにして帰宅、そしたら講演先から詳細のFAXが来ていた。ひとつ、安心。

Copyright 2006 Shunichi Karasawa