裏モノ日記

裏モノ採集は一見平凡で怠惰なる日常の積み重ねの成果である。

13日

水曜日

吐く芸

 人間ポンプエイハブ。朝7時起床。まだしぶり腹続く。朝食、今日はちゃんとパルメザンを使ったオニオンスープ。卵一個落として。果物はリンゴ。オリンピック関連ニュースを見るにつけ聞くにつけ、現代の日本人はこういう大舞台に似合わない人種であるとつくづく思う。世界に向かっての見得の切り方がサマになっていないというか。もっとも、サマになる連中ばかりになったら、それはそれでまた危ない国にはなる。ナチス時代のドイツ人などは非常にサマになっていた。

 講演準備。講演原稿をつい“講演台本”と言ってしまうのは芸能プロくずれの習い性かとおかしくなる。今月の噂真に“大江健三郎は講演原稿に(笑)まで入れる”と書いてあって笑ったが、そこまで作り込むと余裕がなくなるし、フリートークみたいにするとダラけすぎるし、と、取りあえずこのネタで何分、このネタで何分という、構成台本のようなものにする。結局台本だ。またいくつか資料サイトを回るうち、全然関係ないサイトを読み込んでしまったりする。人生相談のサイトで、今まで15人の男性とつきあってきたがいつでも必ずセックス中心の関係になってしまい、別れている、何とかプラトニックな恋愛をする方法はないでしょうか、と相談してきている17歳の高校生がいた。飯野賢治氏がいろいろ(相手の本当を分かってやって、あなたも本当の自分を見せろ、とかいう愚にもつかぬことを)答えていたが、こういう連中に、真摯に答えてやる(真摯に答えているフリをしてみせる)ことが果して必要なことなのか。まずマンコに鍵かけてから男と会え、と一喝する方が正しい道なのではないかと思う。今の若い世代が懊悩しているのは、回りが理解あるオトナばかりだからではないか。彼らが最も必要とするのは彼らの言うことに聞く耳をもたぬオトナたちなのではないか。昼は塩ジャケを焼き、自衛隊のタクアンのカンヅメでお茶漬け一杯。自衛隊タクアンは相変わらずうまいが、シャケの塩が甘い。子供のころは真っ白に塩を吹いたようなものばかり食べていたので、それに舌というよりアタマが慣れている。

 1時、永田町憲政記念会館へ。ライオンズクラブ講習会。控室に通されてすぐ、予定より15分も早く壇上に上げられて、100人ほどの聴衆を前に話す。今回の講演は、以前金沢で行った薬剤師会での講演で知り合った麻薬・覚醒剤乱用防止センターのA氏の推薦によるもの。金沢での講演、私的には場慣れぬヒドい出来だったが、おカタい団体の人には新鮮に聞こえたらしい。主催者に聞いたら、A氏からぜひ一度聞いてみなさい、凄く面白いから、との言葉があったそうで、恐縮する。進行係の女性に聴衆の平均年齢を聞いたら50代から60代、70代も混じっているという。ほとんどが事業主だそうな。こういう層に私の話がどこまで通じるか、心もとない気持もあるが、逆にかなりハッタリをきかせても、私がどういうモノカキであるかなどバレはすまいと、却って落ち着く。私は芸人さんや俳優さんに呆れられるくらい、人前でアガらない人間なのだが、今日はここまで来る道すがら、日頃に似気なくドキドキしていたのだ。逆に心の準備もなく壇上にあげられたのがよかったかもしれない。

 挨拶して、サブカルチャーから見たドラッグ、というテーマで話す。基本のレジュメを作り、データなどと共に15枚の原稿を用意していたが、結局、一回、人名を確認するのにページをめくっただけで、原稿ナシで一時間と十分ほどを通しで話した。むろんマジメな話が基本であるが、数回、笑いもとれたし、メモを途中から取り出した人もいて、まず成功かな、という感じ。それにしても、オタクアミーゴスで鍛えているというのはありがたいもので、一時間くらいの講演はもはや屁でもない。水も飲まずに話し終える。終わったあと、会のお偉方、A氏などと挨拶、またお声をかけてくださいと営業して、お車代貰って引き上げる。案ずるより産むがやすし。

 ノドが痛むのは講演のせいかと思っていたが、どうもそうではないらしい。帰りの車中で背中がズーンと鉛のように重くなる。先般来の腹具合もそうだが、どうも風邪らしい。帰宅して、マッサージに緊急で予約入れてもらう。『クルー』原稿のゲラのチェックなどして、7時、新宿へ。例により“うわ、こりゃひどいわ”の台詞を耳に一時間、揉んでもらっているうちに気持よくなり、寝入ってしまう。

 やはり凝りは風邪らしい。今の風邪は吐き気も伴うそうだが、幸い少々下り腹なだけでそれはなし。首筋を念入りにやってもらって、これは本当に効いた。毎度お世話になっていながら、所詮マッサージや整体なんてのはプラシーボだと実は思っているのだが、今回は揉まれた後、本当に体が軽くなっていた。

 8時半、華菜。嶋ちゃんと、昼のバイトの女性がアガってカウンターでビール飲んでいたので、脇に座らせてもらい、いろいろ話す。バイトの女性、弟さんがキックボクシングのライトヘビー級チャンピオンで、明日試合だという。アメリカにずっと修行に行っていたとんだとか。キックというのはアジアのスポーツというイメージがあるのだが。対戦相手もイギリスの選手だという。マーシャルアーツでなく、キックボクシングなのか、やっぱり。調理場に若い衆がまた入ったな、と思ったら、大将の息子さん。顔の各パーツは全然似てないが、それがひとつにまとまると、なるほど親子か、となるのが面白い。K子が珍しく、待ち合わせ時間過ぎてもなかなか来ない。携帯で何やってンの、と言ったら“エ、もうそんな時間?”と驚く。税理士さんと会社の会計について話していて、熱が入り、時のたつのを忘れていたのだとか。本当に金の話になると熱が入る女だ。

 K子を待つ間にいろいろ嶋ちゃん、大将と雑談。嶋ちゃんからニンニクまる揚げ、大将から白子天ぷら、けんちん汁などどんどん差し入れがある。9時過ぎてやっとK子、引き上げてくる。そこからまた酒。サービスで『百年の孤独』『爆弾ハナタレ』などの焼酎をショットで飲ませてもらう。ハナタレとはふるった名前だが、要するに一番絞りのこと。今度メニューに加えるという、豚肉の天ぷらも試食。“とんぷらおろし”と命名。結局、今日はオゴリオゴリで腹一杯になり、いつもの半分くらいのお 値段ですんだ。

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