裏モノ日記

裏モノ採集は一見平凡で怠惰なる日常の積み重ねの成果である。

31日

水曜日

ここはホックニーを何百里

 デビッド・ホックニー回顧展。朝7時半、起床。午前中は風邪っ気か、いまいち調子悪し。朝食、シーフードのピタパンサンド。それと紅玉。シャワー浴びていたら電話あり、東京国際映画祭での金子ゴジラのチケットが手に入ったとの報告。1時半からだと記憶していたので、見終わってオタクアミーゴス公演、十分駆け付けられると踏んでいたら、後で調べたら2時20分から。オタアミの昼の部は4時からなので、ちょっと間に合わない。ちぇっ。……まあ、見れば必ず怒るだろうから、いいんだけれど。

 K子に弁当、キツネウドン用のアゲの冷凍があったので、アゲ入り卵焼きを作る。K子には少し甘過ぎるかもしれない。道新原稿チェック。資料調べ、いろいろやらねばならぬことがあるのだが、仕事場がとっ散らかりすぎていて、何もする気が起きない。困ったものである。快楽亭とプロデュースすることになっている池袋新・文芸座のオールナイトのトンデモ時代劇特集、決まったら詳細をお知らせしますからというきりでナンにも言ってこない。しびれを切らして文芸座のサイトを見たら、すでに上がっていた。林家正蔵(彦六)の、妖怪よりコワい顔が見られる『妖怪百物語』、今では絶対テレビで放映できない主人公の『吃七捕物帳・一番手柄』、それから風間杜夫のスケベ義経の怪演がスゴい『壇の浦夜枕合戦記』、それに私のビデオ紹介を見ながらの快楽亭とのトーク。映画のチョイスはだいぶショボいものになったが(東映系がほとんどダメ、東宝もほとんど探してくれない)、まあ夜枕が見つかっただけいいか。イベント欄への詳細アップを井上デザインにメール(それにしても、ミッキー・カーチスはこのサナカに3日のトークに出られるのか?)。

 昼はシオカラとシオコブでお茶漬けを一杯かっこみ、東銀座のヘラルド試写室へ。フランス映画『トマ・トマ』試写。ヒッキーの主人公がのぞきこんでいるテレビ電話の画面のみで構成された(だから主人公は出てこない)、映画祭ではウケるが一般公開ではどうも困ったことになった、という感じの映画。ストーリィ展開はわかりやすいのだが、主人公が広場恐怖症になって8年も部屋に閉じこもって暮らしている、その原因がいまいちよく説明されていないので(話の全てが主人公の視点で語られるため)、言いたいことがつかみにくい印象を受ける。途中で主人公が振り回される女の子がいわゆる不思議少女系。ポエムビデオを作るのが趣味で、生活感というものを軽蔑していて、自分の内面が何より重要で、人間性の結びつき、なんてことをしじゅう口にして、そのくせセックスには抵抗感なくて、というタイプ。こういう女を見ると殴ってやりたくなるのだが、私は。

 少し買い物して地下鉄で帰宅。風邪っ気で地下鉄の中でもアクビ連発。薬局でユンケル一本飲んで、気合入れる。いつも服用する麻黄附子細辛湯が切れているので、からさわ薬局に注文。原稿をシコシコと書く。飽きると未見のビデオ等をいろいろ掘り出して、オタアミ、文芸座のトークの材料を考える。

 朝方などはさすがに冷えるが、日中は汗ばむほどで、今日も試写から帰宅して、Tシャツを取り替えた。明日から11月だというのになんであるか。北海道も、雪虫が飛んだにもかかわらずなかなか初雪にならぬという。ところで、ユキムシという存在を、東京の人間は知っているのか。以前、中田の秀生兄に雪虫のことを話して信じてもらえなかったことがある。体から白い分泌物を出して、それが綿のような形状になり、ふわふわと飛ぶところが雪のように見え、また晩秋のギリギリに発生するので、これが飛ぶとそろそろ雪が降る前触れになる、というので雪虫。虫の形状が雪に似ている、というだけならありがちだが、それが雪の前触れの季節に飛ぶ、というのはどういう自然の中の配置だろうか、と不思議に思う。飛び方まで雪片そっくりで、子供のころ捕まえてみた感じではアブラムシの一種ではないか、と思ったが、調べてみるとやはりそうで、白腺物質を体表から分泌する種類(トドノネオオワタムシやリンゴワタムシ)の総称、とある。北国だけかと思ったら京都でも見られるそうで、あちらでは“白子屋のお駒はん”といういかにも京都らしい名で呼ばれるとか。お駒忠七の話にこの虫が何か関係あるとは思えないので、単に白い虫との連想で白子屋、お駒となったものだろう。調べて意外だったのは井上靖の『しろばんば』のタイトルが、伊豆地方でのこの虫の呼び名である、ということだった。『しろばんば』は恥ずかしながら読んだことがなかったので、今まで知らずにいた。考えてみれば、名作と呼ばれている作品で、タイトルだけ知っていて目を通していないもの、これからも一生読まないで終わりそうなものがたくさんあるなあ、と、雪虫から変なところに考えが行ってしまった。

 9時、東武ホテルロビーにてOTC及びサイゾー編集部のI氏と待ち合わせ。岡田さん、オタキングYくんも来て、パンドレッタ年末特別番組の打ち合わせをする。この時間になったのは岡田さんが『BSマンガ夜話』の収録があるから。やってきた岡田さん、大丈夫かというくらいクタビレているが、話している最中からテンションが上がっていつもの岡田斗司夫になってくる。知人友人で、テレビに出演した人に訊くと、たけしや志の輔などという売れっ子も、控室などではだいたい、心配になるくらい疲れているそうだ。売れっ子というのは疲れと二人三脚が宿命なのであろう。打ち合わせの方はいろいろキチクな案が出る。どこまで通るかだが。岡田さんに“大月隆寛に、早く『本の雑誌』に訂正原稿載せろと言っておいてよ”と言うと、“あの番組の出演者はみんなビミョーな緊張状態の中でバランスをとっているんで、そんなこと言えませンよ”と笑いながらビビっていた。

 まだ入りにはだいぶ時間があるので少し岡田さんとデマ交換(Tの奥さんばなしなど)でもしようと思ったが、K子が腹をへらして機嫌悪くしていると思うので別れて電話し、パパズアンドママサンへ行く。が、満席。じゃあ花菜で、と思ったがここも満席。月末だからか? K子が思いついて、クリクリへ行く。ここも入れ代わり立ち代わり客が来ていたが、まあ座れる。ルンピア、野菜焼き、イワシ揚げ、羊ローストと食べて、まだ足りないっぽいので自家製パスタ。南アの何とかいうワイン、香り高くて一本、すぐ空けてしまう。絵里さんに“少し痩せた”と言われる。ヤツレたのではないかと思うのだが。

Copyright 2006 Shunichi Karasawa