裏モノ日記

裏モノ採集は一見平凡で怠惰なる日常の積み重ねの成果である。

18日

木曜日

今日の仕事はテラコッタ

 エトルリアの職人。朝7時50分起き。朝食、イチジクとヨーグルト、豆スープ。大雨になる、と聞いていたのだが小雨程度。日記つけ、風呂入りという雑事すまし、仕事にかかる。週末が金沢(講演と旅行)なので前倒しのもの、いろいろ。午前中にと、まず返し厳守のアスペクトの対談集の赤入れ。しかし相手が村崎百郎だけにもう無茶苦茶に鬼畜。右翼からも左翼からもねらわれかねない。村崎さんは顔を隠しているからいいけど、私は素なんだからね。

 SFマガジンの図版用ブツ、探そうとするときに限ってみつからない。書棚は今年の5月に徹底して整理したはずなんだが、半年でもう、何がどこにあるか、まったく不明の状態。まあ、本を死蔵せず、いろいろ使っているという証拠なのだろうが、しかし使ったら元へもどしておけよ自分、とつくづく我が身の整理能力のなさに嫌気がさす。なんとか次善のものでごまかすことにし、バイク便で編集部へ郵送。

 アスペクトのKくんに電話、こちらはバイク便をだしてもらうことにする。まだ時間に余裕があるので外へ出て、らんぷ亭でおろし牛肉セットを食べ、パルコブックセンターで買い物。角川書店が在庫本の半額セールを行っている。新刊書店でこういうことをやっているのは初めて見た。そろそろ日本も欧米並みになってきたか。なをきが英会話本の表紙まで描いているのを見つけて驚いた。家を建てるって金がいるんだなあ、と、しみじみ思う。私ら夫婦は持ち家を持たぬ主義なのでそこらへん、気楽。

 帰って原稿、モノマガジン。フィギュア王は次回は特集号なので連載陣は全て一回休み。これはありがたい。モノマガはやっぱり資料本見つからず、ネットで検索した資料のみでヤッツケル。ネットというもの、しかしこちらが探している情報に限って見つからない。曽野綾子のように“何の役にも立たない”と言い切るつもりはないが情報がどのような形で流通しているかを見るにはいいが、事典・辞書代わりに使うにはよほどのテクニックがいる。

 スタジオDNAなるところ(の、下請け編集プロダクション)から電話。なをきの企画で、講談社版の『蒸気王』など唐沢商会(兄弟)名義作品で未刊行のものをまとめてお蔵出しで出したいという。それはかまわないが、まだ未刊行の原稿が50枚くらい、俊一さんのところにあるそうで、と聞いて驚く。そんなものはないぞ。急いでなをきに電話し、詳細を訊く。50枚というのはムコウの勘違いらしい。来週あたり打ち合わせをすることに。

 バイク便にアスペクトのゲラ渡し、北海道新聞夕刊コラム一本、リキ入れて書き出し、45分でアゲ。早いのに我ながら驚いた。オタク史を通説から説き起こし直す、という趣向のもので、回を追うに連れ自説が過激になってくる。予定では週イチで四ケ月、計16回連載なのだが、それで現在の状況にまでたどりつくかどうか、不安になってきた。10回目でやっとファーストガンダムである。もともと、メディアワークスのオルタブックスで出すオタク概論の心覚えのメモ代わりになるか、と思って引き受けた連載なのだが、オルタブックスが解散することになってしまい、企画が宙に浮いて、自然、こっちの方に力が入ることになったのである。新聞連載なのでオタクの性コンプレックスまでは語れまい。そこらを書き足して、どこかに単行本の企画を持っていこう。

 7時、家を出て幡ヶ谷、チャイナハウス。後楽園の協力御礼と、虎の子の萩原夫婦にここを試させる会。……だが、やはりご亭主、仕事が忙しくて来られない。奥さんのみである。それに植木不等式をお誘いした。原稿書き上げてスグ出てきたので、私の方も、トッパナからやたらテンション高く、植木さんとダジャレ合戦になり、萩原さんにアキレられる。上海ガニのシーズン。うう、うう、とうめきながらミソを啜り感涙にむせぶ。あと、キヌガサタケの炒めもの、ナスの中華風揚げびたしなど、ひさしぶりでどれも美味。今回一番の珍味は、揚げびたしに使ったナスの皮と鹿肉をあわせて炒めたもの。強火で短時間で火を通すため、皮の歯ざわりがまだ生きていて、それが鹿肉の濃厚な味にマッチして、いくらでも食べられる。体を冷やすナスと温める鹿肉との取り合わせも合理的。コレハよろしい。今回は萩原さんのリクエストもあって二皿ほどいつもより多くとり、腹もふくれた、酒もすすんだ。

 植木さんからいろいろ、テロがらみのへんてこな画像などを見せてもらう。アメリカ人サイトの、みんな仲良くしよう! とアメリカ市民たちが呼びかけ、ビンラディンが涙を流して感動したところで、だまし討ちにして皆殺しにして、パウエルとアラブ穏健派の代表(絵がヘタで誰かわからぬ)がよっしゃあ! とハイタッチして終わるアニメが大笑い。あと“ビンラディンを攻撃しよう”ゲームで、三種類武器が選べるのだが、それが“ロケット花火”“爆竹”“核兵器”の三種なのがなんともアホらしくてよろし。アメリカにも報復賛成派ばかりではない、反対派もいれば、すぐアホらしいギャグを考える方に走る、裏モノ派もたくさんいるのである。

Copyright 2006 Shunichi Karasawa