裏モノ日記

裏モノ採集は一見平凡で怠惰なる日常の積み重ねの成果である。

10日

水曜日

ロンよりジョージ

 まだブッシュでよかったよ、レーガン時代にこんなテロがあったら即、全面戦争だもんな。京都ロイヤルホテルの朝、目が覚めたらもう7時45分。普通、ホテルでは枕が変わったりなんだりでよく寝付かれず、明け方に目を覚ますのが常なのだが、昨日投宿が1時過ぎだったとはいえ、いやにぐっすり眠ったもんだ。隣が寺の大屋根であまり朝日が差し込まず、それで夜明けも気がつかなかったのかもしれない。急いでシャワー使って、K子と一階のレストランで朝飯。上品なバイキングだが、味はそれほどでもなし。雨がかなり強く降っている。

 部屋でBS1の世界のニュースを見る。どの国のニュースも、アフガニスタンへの米軍の攻撃のことを伝えているが、唯一中国のみが、辛亥革命90周年記念式典の模様のみで、一切テロ関係に触れていないのが印象的だった。韓国とドイツのニュースが最も大きく、タリバンの被害甚大と報じている。レストランで読んだ朝日新聞が、爆撃効果に疑問としていたのとえらい違いである。

 9時半、チェックアウト。駅までタクシーで5〜6分とふんでいたら、15分かかるというのであわてる。例によりおしゃべりな運転手さんだったが、5分もかからず到着。“関東ものと見てウソ教えたんじゃないか”とK子と笑う。オミヤゲ売り場で瀬田のしじみ佃煮を買う。10時6分ののぞみで帰京の途につく。

 車中で読んだ『週刊ポスト』10月19日号、“日本の新聞を読む”欄に立松和平氏が、“テロは酸鼻のかぎりであるが、タリバンに戦争を仕掛けるのはまた新たに酸鼻を重ねることである”とマスコミの好戦的論調に疑念を呈し、朝日新聞に載った加賀乙彦氏の、“日本がすべきことは、テロ撲滅のために戦争という最終的な暴力を用いてはいけないと、アメリカに忠告すべきだ(文章が少しおかしいが原文ママ)”という意見に賛成の意を示している。さすが文化人というのは違ったものだ、と感心する。6000人が殺された国にのこのこ出かけていって、戦争はいけません、報復は空しいです、と説教して、マトモに相手にされると本気で思ってるのだろうか。ふざけるな、と殴られかねないと“常識で”考えないか。観念と現実を混同した平和ボケ文化人は以前から散見されていたけれど、今回の事件以降、こういう現実性のないタワ言を堂々と新聞に発表する(大江健三郎氏なんかがその代表)人々の言を見聞きするたびに、平和という錦の御旗をかかげている限り、日本中、世界中の人間が自分の意見にひれふし、従わねばならんぞという、非常に傲慢な彼らの思い込みがその言辞からプンプン立ち上ってきて、吐き気すら覚えてしまう。それは、アメリカが自分たちの報復を“無限の正義”と主張したときに覚えた嫌悪感と、ベクトルこそ反対であれ、100パーセント重なるのである。ナニサマのつもりなのか。

 雨、ずっと新幹線にへばりついた形で東上。東京駅に到着してもなお、雨脚激し。タクシーで帰宅。昼は昨日中村でおみやげにもたせてくれたハモ寿司と鯖寿司。どちらもボリュームたっぷりで、二人で半分づつ食べただけでお腹がくちくなる。K子はさすがに疲れたか、床につく。私はWeb現代原稿。気圧揺れ動き、体調が時間と共に悪くなっていく。書きながら何度かキーボードの上に突っ伏しそうになる。粗原にまでなんとかまとめて、イラストのK子に渡し、新宿のマッサージに行く。

 マッサージは予約がうまく取れたが、サウナの方はえらい混雑。それもほとんどが外人客である。ジャグジーをドイツ人らしい二人連れが占領し、休息室にはどこのものやらわからぬ言葉で会話している一団(東欧系らしい)がいる。まったく落ち着けず、椅子でぼんやりマッサージの時間を待つ。揉まれながら、“ああ、ほとんど疲れもたまってませんし、腰の腫れもないですね”と言われてガッカリする。いや、ガッカリすることもないのだが、まるきりの健康体では、わざわざ金を払って揉まれるのがムダになるではないか。“どこか悪いところありませんか”と訊いて、“うーん、背中から肩にかけて、ちょっと固いなあ”と言われて、深く満足する。

 8時、家に帰って食事の準備。今日はもう、簡単に豚バラと白菜の常夜鍋、カニ足の酢の物。ビデオで中村幻児『巨根伝説〜美しき謎』を見る。三島由紀夫事件に材をとったカルトホモ映画である。今やテレビ・映画にひっぱりだこの大杉漣が三島ならぬ三谷麻起夫に扮して大怪演。カリスマ的な指導者が、弟子とのセックスではネコ役で、“先生!”と呼ぶ弟子に“……麻起夫、と呼んで!”と頼むところなど、爆笑。これ全編、三島の思想のカリカチュアライズで、ラストのオチの肩すかしに監督のねらいはあるのだが、後でネットで検索したら、このオチを“不真面目だ”と怒っていた映画ファンがいたのに呆れる。シャレのわからん奴っているんだねえ。

Copyright 2006 Shunichi Karasawa