裏モノ日記

裏モノ採集は一見平凡で怠惰なる日常の積み重ねの成果である。

16日

月曜日

ミッチャムみちみち

 やーい、ロバートのエンガチョ。朝8時起床。朝食、スープスパ。クイーンズシェフで買ったタモギタケをどっさり入れる。札幌の薬局から便秘薬が届く。私は便秘ではないのだが、ダイエット用として。勅使河原宏監督死去。『砂の女』を学生時代、千石の三百人劇場で観て、そのあまりの観念的映像にヘキエキした記憶があり、それから十数年たって、『利休』を観て、前衛的部分がこれっぱかしもないのに肩すかしをくった記憶がある。ジーン・ハックマンが、最も好きな映画に『砂の女』を挙げていて、その取り合わせの似合っていないことに驚いたことも。

 原稿書き。デジタル・トウキョーのMLに載せる、お仕事日記を書く。最初はこうやって書いてる日記からそのまま抜粋して送ればいいや、と思っていたのだが、なにしろこの日記は長文のため、一回を仕事中心に平均800字におさめるというのは、ほとんど書き下ろしと同じ労力を費やす。4月1日から15日分をまとめて、メールする。

 昼は釜あげうどん。すすりこんで、タクシーに飛び乗り、芝スタジオ。フジBSコンテンツ・ファンド収録日。今日からブレーンメンバー一部入れ替えで、鈴木さんに変わって日経クリック編集長の川上真さん。女の子席の子も、二回とも新人になる。簡単に打ち合わせ、あとはいつもの通りだが、一部音楽なども入るようになり、かなり臨場感は出るようになった。岡田さん、昨日は大阪でモー娘。のコンサートに言ってライト振ってきて、腕が痛いと言っていた。おまけにプライベートだそうである。元気な人やなあ。司会の勝村さん、“あ、カラサワさん、これどうぞ”と、メガギラスのTシャツをくれた。

 考えてみれば、この番組の収録がある日は一日四食になる。朝食べて、昼食べて、#11と12の合間に弁当が出て、収録終わったあと、K子とメシを食う。次回からは弁当はヌいた方が体重のためにはいいかもしれぬ。ただし、食事時間の情報交換は楽しいものである。今日も西山さん、川上さんとバカばなし。ネットバトルのことなど。某ゲームクリエイター会社の社長は、2ちゃんねるで自分の誹謗スレッドが下がりはじめると、自分で煽りを書き込んで、スレageをはかるそうである。

 今回もクリエイターの質はおしなべて高い。#11がデザイナーの前田麦さん、クリエイター集団のFoxy colors、イラストレーターのオノチンさん。続いて#12がデジタルソフト企画会社DDL、イラストレーターのきょう之助さん、そして美術教師の大竹浩介さん。最近の若いクリエイターの感覚は何かもう日本を飛び出して西海岸とか、ニューヨークのセンスに近いものがあり、私や岡田さんは大評価するのだが、バイヤーさんたちにはちょっと、先を行きすぎていて、すぐには手が出せない、というものになっているようだ。

 いい例が#11の前田麦さん、#12の大竹浩介さんで、麦さんのキャラクターはアメリカでならすぐにコミック、アニメ、そしてキャラクターグッズと市場が広がっていくと思われる(スタン・サカイの『ウサギ・ヨージンボー』を連想させるが、それよりセンスがいい)のに、アダプトランプは要交渉が一社のみ。大竹さんに至っては、岡田斗司夫が“キミ、村上隆の三倍才能あるわ”と太鼓判を押したのをはじめ、われわれブレーン一同、天才出現か、と沸き立ったにもかかわらず、ついにランプなしというありさま。思わず口をついて“バカ共!”という言葉が出た。はっきり言うが、二人とも、日本にいるべき人ではないかも。

 大竹さんは27才、両親ともアート関係の仕事についていて、東京芸大卒業後、都内の女子高の美術の先生をやっており、細面の美青年、しかも彼女は元教え子の19歳だというメグマレぶりに、司会の勝村さんが“もういいや、今日はやめ!”などとブチ切れ司会をやって、ウケるウケる。まさか、その嫉妬心でランプが点かなかったわけではあるまいが、流動体のようなモチーフのキャラクターデザインと世界観は、これまで日本になかった斬新性を持っている。ひょっとして、彼の出現で日本の“カワイイ”の概念が変わるかもしれない、とすら思う。

 番組が終わったあと、ブレーンスタッフ揃ってタクシー待ちをしていたら、廊下で今日、ランプをつけなかったバイヤーたちが、大竹さんを取り囲んで名刺を渡したりしているではないか。他社のランプがつかなかったということで、それではわが社が先物買いを、ということか。あるいは、影でコッソリと、ということか。川上さんが苦笑しながら、“大人は汚いなあ!”。私も急いで大竹さんと名刺交換。“古屋兎丸くんにタイプが似てますねえ”と言ったら、なんと“彼とは大学時代の知り合いなんです”とのこと。若いカノジョを持つのは、東京芸大出身美術教師のお家芸ですか。うーむ。

 他のブレーン三人とタクシー相乗りで浜松町へ。車中の話題はもちろん、大竹さんが教え子に手をつけたのはいつのことか、ということ(笑)。三人を浜松町でおろして、東新宿まで。車内の電光ニュースで河島英五の死去と、皇太子妃懐妊(の、可能性)を知る。幸永でK子と待ち合わせ。すぐ座れて、例のごとくホッピーでホルモン三昧。食べていたら、店員さんがやってきて、すいません、韓国のテレビ局が取材に来ているんですが、撮影させてもらっていいですか、という。どうぞどうぞ、と許可したら、ディレクターが、テーブルの上が寂しいから、と、ナムルだの豚バラスライスだのサンチュだのを取って並べてくれ、どうぞ食べてください、と言う。サンチュ につつんで肉をほうばってください、とか言われて、K子が食べる口元を大写しにし ていた。韓国在住でこの日記読んでる方で、放映を見たという人がいたら連絡乞う。おかげで腹がいっぱいになり、冷麺はひとつを二人で分けて食った。何か得した気分だが、夜中に腹が張って困った。

Copyright 2006 Shunichi Karasawa