裏モノ日記

裏モノ採集は一見平凡で怠惰なる日常の積み重ねの成果である。

15日

日曜日

オフェリアせんのう

 ハムレット=長門勇。朝7時起床。K子は愛犬家殺人のドキュメント『共犯者』を読んでいて眠れなかったらしく、9時ころまで寝る。ピタパンに生ハムをはさんで食べる。三波春夫関連のニュースいろいろザッピング。『おまんたばやし』をやるかと期待していたが、コンニチハコンニチハばっかり。『ルパン音頭』とかも流せ。三波家と、ルパン三世の音楽を担当していた大野雄二氏とは、慶応つながりで(三波氏の長男の豊和氏が慶応出身)交友があり、ルパンでLP一枚分の歌を吹き込んでいた、と平岡正明だったかのエッセイで読んだことがある。結局、発売されたのは『ルパン音頭』と『銭形マーチ』のカップリングEPだけだったが、二曲とも大変な名曲。カラオケに『ルパン音頭』は入っているが、ぜひ『銭形マーチ』も入れてほしい。と、いうか、この際他の曲も含めて追悼盤CDでも出さないか。

 官能倶楽部パティオで睦月さんが、私の一昨日の日記に出てきたナレーチャンという名前から、大村麻梨子のDJに狂っていた時代を思い出しちゃった、と書き込み。今は携帯やネットがあるから、夜が夜中でも友人とコミュニケーションが取れるが、昔は深夜に電話をかけるわけにもいかず、孤独な勉強部屋で、ラジオの深夜放送だけが、世界と自分がつながっているということを確認するツールだったのだ。われわれの世代にとって、深夜放送のお姉さんというのは、夜のコミュニケーションを支配する巫女みたいな存在だったわけである。私の場合は、札幌在だったので、STVラジオ、“アタック・ヤング”の臼井佳子がそれ。当時模試に行った予備校のトイレに、“浪人生を食い物にする臼井佳子弾劾!”とか書かれていた。DJはそれぞれが合い言葉みたいなキャッチフレーズの挨拶を持っていて、大村麻梨子は“こんばんはこんばんは、もひとつおまけにこんばんは”(ナレーチャンも言っていた)、臼井佳子は“つねっちゃうぞー”。

 K子の弁当は鶏肉炒め。私は新宿に出て、アカシアのロールキャベツ。紀伊国屋に行って資料本探すが目当てのものがなく、マイシティの書店でやっと見つける。それからクイーンズ・シェフまで行って夕食の材料を買う。陽射しがもう、ものがなしい までに初夏。

 帰って、北海道新聞書評原稿。今回は五つ星に推せるのが残念ながらナシ。黒田信一さんが五つつけたという森達也『スプーン』、著者が監督したオウム真理教の荒木広報部長を追ったドキュメンタリー『A』もそうだったが、取材対象に誠実に向きあおうとするあまり、その対象が世間的にアヤシゲであればあるほど、つい無意識に、取材対象寄りの立場をとってしまう。いっそのこと最初から寄りの立場を明確にしていれば、まだ批判精神を持って読めるのだが、著者の足場が揺れているため、読後、どうも割り切れない感じだけが残ることになる。真面目な人間の書くものの欠点を露呈しているという感じ。

 書評原稿のあとは、K子用のサンマーク出版本のマンガ原作。今日はやらねばならぬことが六つくらいあったのだが、結局、やれたのが二つだけ。情けない。夕食の準備にかかる。フライパンパエージャと湯豆腐という、わけのわからぬ取り合わせ。食べながら、こないだに引き続いて新東宝映画『黒猫館に消えた男』。珍と言うなら、こないだの『花嫁吸血魔』以上の大珍作。『花嫁……』はまだ、怪奇映画として一貫していたが、こっちはもう、怪奇映画風に始まり、スリラーの展開になり、いきなりSF風コメディになり、ミュージカルシーンもあり、最後は財宝争奪の大ドタバタアクション映画となる(定番の、機械仕掛けで壁が動いて人を押しつぶす部屋、などというのもちゃんと出てくる)という、とにかく何でも脈絡なく詰め込んでしまえ、という娯楽精神に満ち満ちた(?)作品。宇津井健のクソマジメな顔でのコメディ演技も妙だし、丹波哲郎の無闇矢鱈にダンディなトップ屋も奇。悪役が益田キートン、ヒロインが宮城まり子というだけで一見の価値アリ、である。大笑いなのは、映画の中で突然、カメラが猫の視線になり、画面に猫の目型のフレームがかぶさる。市川崑が『吾輩は猫である』を撮ったときに、キネ旬の座談会で、猫の視線をどう表すかで苦心した、と言うと、迷亭役の伊丹十三と苦紗弥役の仲代達矢がこの映画の話を持ち出 し(何でも観てるんだネ、俳優というのは)、それを聞いた監督が        「しまった、もっと早く言ってくれれば」                   と、くやしがっていたのを思い出した。とにかく、私の長い映画観賞歴の中でも一、 二を争う珍品と言える。

Copyright 2006 Shunichi Karasawa