裏モノ日記

裏モノ採集は一見平凡で怠惰なる日常の積み重ねの成果である。

5日

木曜日

エンサイクロペドフィリア

 ロリ・ショタ百科事典(あれば買います)。朝7時起き。朝食、チリコンカンと田舎パン。昨日来た郵便物をチェック。菊池秀行さんから、『とても変なまんが』の丁寧な感想の葉書をいただく。氏の妖魔シリーズの“念法”は白井豊士の『マンモスを倒せ』から取ったものだったとか。他に、こちらの記述ミスの指摘もいただき、大いに感謝。

 今日は夜からの神田陽司との会の準備に一日全部を使うため、原稿執筆は一切休むことにする。各社、ことに福音館はあせっていると思うが、全部明日以降回し。講談調に仕上げた原稿(カストリ雑誌からとったネタ)を読み上げる練習。

 昼は六本木に出て、トツゲキラーメン。胃の調子イマイチなので、三分の一ほど残す。ユンケルと胃腸薬ドリンクをのむ。銀行で原稿料入金を確認。帰って、しばらくベッドで横になる。ネコがやたらにスリよってきて、右手の甲のあたりをベロベロと舐める。あとでヨダレが乾いて、カユくなって弱った。

 鶴岡から電話。『ブンカザツロン』、発売一週間のデータがかなりよろしく、某J書店からは全支店から追加注文が来たという。ホントかどうかしらないが、景気いい話で結構。早川書房A氏からも電話、『薬局通』また重版させてくれということ。何か春らしく、どんどん景気いい話が入ってきてめでたい。スケールがなんとも小さいが、景気が悪い話よりはハルカにいい。早川とは、次の単行本のことでも打ち合わせをしなくてはならない。

 もっと練習をすべきなのだが、原稿読み、2回半くらいで放擲。徹底して練習するのが本来なのだろうが、私は基本的にアドリブ人間で、完全な練習というのが出来ない。意識下では、完全に練習することで自分の芸の未熟さや才能のなさを自覚するのがイヤなのかもしれない。で、“練習不足では不完全な出来でも仕方ない”と自分に言い訳をしているのかもしれない。しかし、一発本番というのはアドレナリンがワッと分泌され、快感であることは快感なのである。そのため、故意に練習中は全力を出さない、という部分もある。完全練習型の人とはどうもそこらへん、ソリが合わないようで、以前、パントマイムの吉沢忠さんと銀座小劇場の舞台に立ったときは、練習中、忠さんに“お願いですから台本を覚えてください”と泣かれたものである。忠さんは、徹底練習人間なのだ。で、本番をなんとかアドリブで無事こなした後、忠さんに、“なんでそれを練習でやってくれないんですか”と、また怒られた。本番で全力出したんだからいいじゃないか、というリクツは、練習派には通じないらしい。

 6時、家を出て、地下鉄乗り継いで上野広小路亭。陽司さんと雑談。ファンです、という若いお客さんに挨拶される。花見時分で客の煎りが薄いことを陽司さん、恐縮していたが、これは私のロフトとカブってしまったという責任もある。それでも、最初十数人しか入ってなかった客席が開演前にはやや、埋まってくれてホッとする。前座のすみ丸さんが『真田入城』、陽司さんが『へ組の喧嘩』、その後で私が朗読カストリ講談『鬼女情慾の狂乱』、対談があってトリにまた陽司さんで『元禄聖魔伝』。最初、何分くらいやります、と訊かれて、十五分くらい、と言ったら、エッ、そんな短いんですかと言われる。落語なら十五分で普通なのだが、講談の席は三十分くらい当然らしい。中盤の部分でカットするつもりだったエピソードを急遽復活させて、倍くらいの長さにすることにした。高座はトークと違ってライトが熱い。汗が出る。十数年前、イッセーの舞台のマエセツに上がって、ライトの熱で汗をかき、メガネがズリ落ちそうになって弱ったことを思い出してセツなくなる。もっとも、もう私もあの頃にくらべれば甲羅を経ているから、別段アガることもなく、勤められる。

 陽司さんから借りた張り扇は慣れてないのでまったく鳴らない。これは不体裁。とはいえ、朗読は気持よくできる。声が途中で枯れないかと心配していたが、それは大丈夫であった。前半はいいが、やはり中盤とラスト、復活させた部分がレロってしまう。客席からは笑いもなんとか取れたので、やや安心。とはいえ、出来は45点、赤スレスレというところ。楽屋で談之助さんと講談ばなし。客席に講談社のIくんや、裏モノのトリケラさん、QPハニー氏、NHKのYくんなどの姿も見える。陽司さんの調子はさすがにプロ。

 終わって、陽司さん、水民玉蘭さんとゲームデザイナーの浅川さん、世界文化社のDさん、それに官能倶楽部のメンバーなどで打ち上げ。上野市場と、焼肉の大昌苑。スタッフでもなんでもないのに談之助師匠が注文から何から立ち働かせてしまって、大恐縮。三十分近く声ハリあげて、枯れないかと心配したが何ということもなし。

Copyright 2006 Shunichi Karasawa