裏モノ日記

裏モノ採集は一見平凡で怠惰なる日常の積み重ねの成果である。

28日

土曜日

まんがいじめて物語

 あ、モグタン、もっといじめて!(Mのお姉さん) 朝7時15分起き。このところ、見る夢を片端から忘れる。夢を覚えている体調とかいうのもあるらしい。朝食、ダイエットスープに煮卵一ケ、バナナ。昨日の日記で安達Oさんの日記の中の文章を間違えて引用していた。正しくは“天才の天才ゆえの天才だから出来る天才の作品”である。この意見に異存はない。ただし、私は天才に非ざる者の味方なのである。

 今朝の読売新聞に、東映動画が『西遊記』で手塚治虫を招いたとき、手塚がこれを日本初の大悲劇アニメーションにする、と言って、“日本中の子供に泣いて映画館を出ていかせるつもりか”と、東映スタッフの大反対にあった話が載っている。手塚自身もこのことは著書に書いているが、これはいまだ虫プロでアニメ製作を始めておらず、キューブリックの招聘すら“私には食べさせなければならない子供がたくさんいるので”と断った時代以前の、手塚が自らの天才性を統御しないですんでいた、よき時代のエピソードだろう。やがて、人は“人を食べさせていかなければならない”責任を背中にしょいこみ、オトナになっていく。『アヴァロン』は結局、天才少年に与えられたオモチャ、という気がするのである。もちろん、オーソン・ウェルズの昔から、フィルムをオモチャにするのは天才の特権なのであるが。

 11月のスケジュールを見ると、仕事も娯楽もギチギチという感じでつまっておりうひゃあ、と思う。9日の網走での撮影は、快楽亭の芸術祭とカチ合うので日を変えてもらった。

 まだしつこく“ラレル”問題だが、今朝パラパラと読んでいたら、わが文章の師匠(勝手に言ってるだけだが)森卓也まで『アニメーション入門』の中で“『白蛇伝』が案外観れる”と、観れるに傍点つきとは言え、使用しているのを発見した。なるほど、古くから普及していたのだなあ。古くから、で思い出した一行知識。     ・“マブい姉ちゃん”のマブいは、江戸時代からある言葉である。

 その一行知識掲示板、いやトメドない書き込み数。ありがたいやらチェックが大変やら。とりあえず、100発言ほど、ひとまず保管しておく。どういうものかパソコンの動作が重い。2ちゃんねるに私についてのスレッドが出来ていて、悪口がいっぱい書かれている。怒りのあまりモニター画面にパンチを浴びせ、くやしくて机をひっくりかえし、畜生々々と叫びながら仕事場に積んである本に蹴りを入れて散乱させ、歯ぎしりをして奥歯を三本折り、発作的に風呂場で手首を切ろうとするがうちは安全カミソリなのであきらめ、みんながいじめるよう、とママに電話し、泣きながら外へ飛び出す。飛びだしついでに新宿に出てマイシティのいづ味で昼飯。割子そば五重。九割そばとかで、ボソボソしてすすりこみにくいが、食べたあとの息が新そばの香りで心地いい。ビデオをちょっと見て回り、さらにさくらやAV館に行ってデッキを見る。安くなったものだが、こちらの欲しい機能すべて揃えているのはやはり、お高うございますな。

 7時、渋谷に戻り、パルコ前で待合せ。睦月さん、安達Bさん、ひえださんの常連(岡田斗司夫に、あんなにいっつも会ってるなら、なんで官能倶楽部で家建って一緒に住まないんですか、と言われた)に加え、カメラマンの伊奈浩太郎さん。タイすきでメシ食ってから、アップリンク『死化粧師オロスコ』の、釣崎監督トークライブ。立ち見が出るほどの盛況となる。上映は二度目だが、やはりオロスコの顔がいい。釣崎監督はアナーキーもやってるお坊っちゃん、というイメージ。“死体にも尊厳はある。それは、死体を取り扱う人間の尊厳だ”と繰り返していたが、ここまでモノとしての死体を山ほど映しておいてそれはどうですかね、という感じ。しかし、こちらの質問(Bさんが音響のことを訊いていたのは流石。私はヤギとセックスする男について)にもいちいち誠実に答えてくれる、いい人であった。

 11時に出て、睦月さんが“焼肉食べたくなったなあ”と言うので(笑)、蛸焼き坂の焼肉“げんかや”(朝4時まで営業)に行く。ここ、出来たときに“けんかや”と読んで、主人がケンカっぱやいのか、と思っていたが、精肉卸の店が経営していて肉を原価で売る、という意味の店名であった。睦月さんと伊奈さんの食うこと食うこと。ガーリックライスを頼んだら180円でドンブリいっぱい来た。肉をもう食べてしまっていたので、残っていたニンニク焼きをオカズにガーリックライスを食べる、という荒業をやる。12時半帰宅、K子が“歩いて帰れるところで死体映画を観られるなんて!”と感動していた。

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