裏モノ日記

裏モノ採集は一見平凡で怠惰なる日常の積み重ねの成果である。

4日

水曜日

カリオカな、帰るのよそうかな

 わが故郷リオデジャネイロ。朝5時半目が覚める。落語関係のサイトなどウォッチングなどしてつぶす。立川流、快楽亭のところはまだ、オトナしい。談生のところ、相変わらず鬼畜で最高。キウイのところ、やたら自己卑下の激しい日記がイラつくというかたまらなくサド心をくすぐるというか。志加吾のところ、こないだ殺された女性マンガ家のことを掲示板でモーニングの担当さんが訪ねていたが、同人誌作家とわかったとたんの熱の冷め方が、いかにも講談社の編集さんという感じでホホエマしい(笑)。7時半、朝食。チキンクネーデルサンド、ガスパチョ。10時にお掃除のおばちゃんが来る。私も一応、仕事机の回りを片付ける。ローマで買ったリュックサック、ようやく中味を全部あけて、押入にしまう。底の方にガムのようなものがくっつ いているが、ガム買った記憶はなし。

 11時半、まだ掃除を続いているが、出なければならないので飯を食う。おばちゃんが持ってきてくれた栗おこわ。ゆうべのアツアゲの残りで食う。それから銀座へ出て、1時、ヘラルド試写室でマイク水野こと水野晴郎監督脚本主演『シベリア超特急2』試写。水野氏本人がいて、上映前に挨拶。会場、六○席弱だが八割の入り。そのうち二五人くらいは水野氏の旧知であろう爺さん連。十五人くらいは若い、映画秘宝的期待を持って見に来ている奴ら(私もその中の一員か)。あと、芸能関係者らしい顔(春日三球が何故かいた)がちらほら。露骨な二丁目系美少年も二人ほど、いた。

 映画は第一作のカルトなテイストが残念ながら薄れて、前回のように観終わって、観客全員が腐ったハマグリみたいに口をポカンと開けていたような珍景はなし。淡島千景、草笛光子、加茂さくら等の大ベテラン女優共演の和気あいあいの学芸会といった様相。どこかのレトロが売り物のホテルを借り切って撮影しているのだろうが、レトロはあくまでレトロ風であって、エアコンあり、サッシ窓あり、オートロックキーありで、戦前のホテルとはまったく見えず、それだけで興ざめである。女優陣はそれぞれ大芝居で楽しそうにやっているが、彼女たち名女優のどんな力演も、水野・奉文 大将の気の抜けた(第一作の演技に比べ悪慣れした)、
「んー、まー、そーじゃのー、わしゃのー」
 というセリフ回しに、全て食われる。会場からなんべんも笑いと拍手が飛ぶ。素人の演技にはプロは絶対かなわないのである。あと、一場受けたのはラストの、“山下 大将は『シベリア超特急3』で帰ってきます!”の字幕。作る気か。

 試写終わって、出口に立っている水野監督に、みんな挨拶。私も“大変楽しませていただきました”と言う。ウソではない。中には“前作など比べものにならないよ。よかったよ!”と言っている爺さんもいる。みな、曰く言い難い微笑を浮かべてエレベーターを待ち、中に乗り込んでドアが閉まったとたん、一人が聞こえよがしに
「・・・・・・恥を知らない人間にはかなわないよなあ」
 とつぶやき、ハコの中の全員、無言でうなづく。さよう、人生、結局勝つのは恥を知らない素人なのである。そういう時代だ。勉強になった映画だった。

 そこから渋谷にとって返し、3時半、神南デンタルオフィス。左下奥歯の根の治療続き。クスリで徐々に腐らせながら、根を底の方まで削っていく。こないだ“目をつぶっていてください”と言われたことを書いたが、あれは根を腐らせるクスリを注入しているとき、それが間違って飛んで目に入ると怖いからであるらしい。開口器で口をアケッパナシにされて、口中が乾いて困った。

 5時、時間割でNHKのYくんと会う。今日は実にスケジュールが整然と並ぶ。尤も別に仕事の打ち合わせでなく、Yくんの近況というかグチというかを聞くためである。『ウィークエンドジョイ』から歌謡番組製作に移らされて、トンデモ落語会にも来られぬほどの忙しさで結構と思っていたら、二週間徹夜で企画作らされてた年末・新年の番組総計7時間ほどが“やらない”ことになったそうで、なにやら逆ハイ状態になっている。いろいろな内部ばなしも聞くがさすがに日記には書けないことばかり であった。うひひひ。

 今日、飲みませんか(と、言っても彼はアルコールダメ)というので、丁度、K子と外で食事することになっているから、一緒に、と誘い、一旦私は家に、彼は局に帰り、改めて落ち合うことにする。K子に連絡したら、これまた丁度、今日映画のアフレコだった睦月さんとあやさん、ひえださんの三人と落ち合って飲むことになったとのこと。家で原稿チェックしたり(こないだのギリギリ某誌、間に合ったようで、ヤレよかったとホッとする)、メール送ったり。スタジオ・ボイスから映画評依頼一本あり、試写会予定がFAXされる。最近、映画評論家づいていることである。

 7時、三人落ち合い、京王にYくんをつきあわせて、ズボン一本誂え。腹をへこませねばならん。そこから東口の鯨料理居酒屋樽一。すでにお三方はかなり出来上がっている。Yくんの奥さんが美人だとかいう話など。Yくんの話によると、山下大将というのは、実際軍人らしくないしゃべり方をした人であるらしい。もっとも、水野晴郎調だったかどうかはさだかではないが。鯨刺身、赤身、ベーコン、美脂、睾丸、たけり(ペニス)など。皮が珍味。あとはホッキ貝にずんだ餅小片二ツ食った記憶があるが、他に何を口にしたか、はっきり覚えていない。ビールジョッキ2ハイ。

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