裏モノ日記

裏モノ採集は一見平凡で怠惰なる日常の積み重ねの成果である。

20日

金曜日

しわがれモンスターズ

日記参照。

※ダーリン先生宅弔問 『黄昏モンスターズ』四日目

朝9時半起床するも、昨日の酒のせいでゼイゼイヒューヒュー
ひどく、咳までおまけにゴホゴホと。
先日は痰に血が混じり、結核か? とオゾケをふるったが
それは一時的なものだった模様。
安眠に支障なく、起きだすとゴホゴホというのは、何か
神経系の呼吸障害か。

10時半、朝食。
バナナジュースとスープ。
弁当(シャケ粕漬け)を作ってもらい、日記などつけ、
連絡事項をいろいろ。

足にかなりキている。
ゆうべ、ウィルソンをマチソワで続けたからだろう。
中腰の同じ姿勢で五分以上、ずっとそのままでいないと
いけないのである。
今日は一回公演、しかもカメオのマネージャー役なので
楽と言えば楽、もの足りずといえばもの足りず。

弁当使い、まだゼイゼイ言いながら家を出て、
地下鉄乗り継ぎ、田原町まで。ご自宅のマンションは
去年の暮れ、近くの病院に入院されていた前田先生を
見舞いにいったとき、ノリローさんに
「あそこです」
と教えられて知っていた(一応、確認にさだやん師匠にも
聞いた)。田原町の駅を下りて向かっていたら、
向うから歩いてきたおばさんが
「前田先生のところですか。今、私も拝んできました」
と話しかけてきた。ダーリンギャルズの一人だったかな、
と思ったが、後から考えたら『東京かわら版』の木村万里さん
だった。

マンションを訊ね、お弟子さんたち、ノリローさんに挨拶。
さっそく線香をあげ、お顔を拝ませていただく。
ニコッと満足げに微笑まれた、とてもいい顔だった。
満足げなのも当然で、さだやん師匠たちや談奈くん、お弟子さんたちに
囲まれ、奥様の手を握りしめて逝かれたそうである。
こう言っちゃなんだがうらやましいなあ。最高の死に方である。
もっといろんなことをお聞きしたかったです。先生、今度はあちらで
(もう肝臓のことも気にしないでいいでしょうから)一杯やりながら。
「あの世にも 加賀屋のもつ煮があるかしら」

ゆうべ無理して伺わなくてよかったのは、もう昨日は自宅に
帰ってから立錐の余地もない弔問客の連続で、夜はお弟子さんたち
ドガジャカで飲んで騒いでいた状態だったらしい。
ゆっくりと、ではお別れ会で、と挨拶し、辞去。

肉体も精神も、くたくたにくたびれている。
女優の川上史津子さんからメールで、自分も近親の死の後に
出た芝居で、舞台の袖で出を待っている間に、故人の面影が
ふと浮かんで出とちりしてしまった経験があるのでお気をつけて、
と、俳優ならではの経験からのメッセージあり。感謝。

時間がハンチクなので、新宿駅で足裏マッサージでも受けるか
と思ったが満床。しかたなくそのまま下北入り。
駅を下りてケンタで中食用のメシを確保、
劇場に向かう途中、サングラスかけた怪しげなオッサンに
「あれ、先生じゃないの!」
と声をかけられる。
知り合いの中にはこういう人の記憶なく、
テレビかなんかで知った顔なんで声をかけてきたんだろう。
「こんなとこで何やってんの」
となれなれしく聞いてくるので
「この先でちょっと芝居を」
「ふうん、じゃチケットばらまいてんだ」
「ばらまいちゃいません、売ってます」
「俺ね、さっき宝くじで百万円、あたっちゃった。いま、
換金してきたとこ」
「へえ、そりゃうらやましいですなあ」
と別れたが、いったいなんだったのか。
それが言いたかっただけなのかね。
自分だったら、競馬に勝ったとか宝くじに当たったとか
いう話を人にしたら、自慢代として、たとえ来なくても
チケット10枚くらい買うんだがな、と思いつつ
小屋入り。

ざっとした打ち合わせの後、今日はシャツに着替え、
その上に(寒いので)コートを羽織って出番を待つ。
途中から、音響・照明の脇に陣取って、舞台を見る。
さすがで、昨日の反省をもとにテンポがかなり速くなって
お客のノリも素晴らしくいい。
麻衣夢のファンクラブの人が来ていて、この女性がかなり
笑いのナビゲーターになってくれている。

で、私の出番で麻衣夢とからむが、声が最初全然出ず、
かすれているのに自分で驚く。ガラガラのしわがれ声のマネージャー
というのもヘン。仕方ないのでアドリブで、
「すいません、ほら、ゆうべあの劇団のハゲの座長に
飲まされて、二日酔いなんで」
とやったらウケたこと。

無事ハネ、来てくれていたまるさん、はれつさんなどに
挨拶。麻衣夢ママ、今日は泣いた、とか。
菊ちゃんのお母さまも来ていて、
「東京新聞読んでます」
と。2年間やって、
「朝日の書評欄読んでます」
と言われたのは業界内でのみだったが、東京新聞コラムは
たった9回なのに、みんなに言われる言われる。

今日はそのまま帰る気でいたが、シヴヲさんが
「飲みましょうよ」
というので、別府明華ちゃんと豊田くんも誘い、
『新雪園』へ。

アサリ紹興酒漬け、鶏唐揚げ甘酢あんかけなど数品とって、
今回の芝居の話、人物月旦、食べ物ばなし、映画を作ろうという
話など、いろいろ雑談。何か解放感あり、非常に楽しく
疲れのとれる飲み会だった。途中から菊ちゃん加わり、
またいろんな話。
そろそろ電車最終、というので外へ出たら、同じく最終の
時間に合わせて出てきたらしい麻衣夢一行と出会う。
「すごい偶然。運命ですね〜」
と言うので、いや、それは運命じゃなく終電のせいというだけ
だろ、と。

私は菊ちゃん途中まで乗せてタクシーで。
ザムザ阿佐谷の小屋の作りの話など。
1時帰宅。

Copyright 2006 Shunichi Karasawa