裏モノ日記

裏モノ採集は一見平凡で怠惰なる日常の積み重ねの成果である。

5日

木曜日

ゲルショッカー怪人“トラウマ“

「日本人に忘れられない嫌な思い出を植え付けるのだ!」(ブラック将軍)

※東京新聞ゲラ、D社原稿、『社会派くん』ゲラ直し

朝8時半起床、寝床読書。
ゼイゼイゴホゴホがひどい。
昨日の書評委員会でゴホゴホとMさんが咳をしていて
その隣の席でいろいろ話したが、それがうつったか?
ベリコデをのむ。
ゴホゴホは直ったがヒューヒュー。

亡くなった泡坂妻夫氏のことを考える。
http://www.jiji.com/jc/c?g=obt_30&k=2009020400476
私の中の、ミステリの常識を、デビュー作一作で変えてしまった
人だった。つまり、ミステリというのは論理の文学で、
そのためには、名探偵こそ多少奇矯なキャラクターでも、
周囲の容疑者たちは、完全殺人を計画するという一点以外では
常識人でなければならない(なぜなら、容疑者が変人であったら
“変人だからこういうことをするのも仕方ない“と
いうことになってしまい、合理的な動機が成り立たなくなるら)、
と思っていた。

多くのミステリは、一見、奇想天外に思える状況に、どう、
それが常識的判断のつみかさねの理由であるかを説明することに
腐心していたと言える。

ところが、この人の亜愛一郎(知らない人のために言っておくと
姓が亜、愛一郎が名前)シリーズの犯人たちは、これすべて
常識外れの癖や思考パターンを持った変人奇人ばかり。
亜愛一郎の推理は、
「一般人ならこう考えるが、もしこれこれの思考パターンを
持った奇人だったら、どう考えるだろうか?」
に集約され、人間というものの思考や行動のフリンジを
かいまみせてくれた。限りなくファンタジックな論理の世界
であって、しかもそれでいながら快傑が論理的という、
まずそれまでほとんど読んだことのないシリーズだったのだ。

あの辛口書評の『風』こと百目鬼恭三郎をして、
「ダールの読後感にも似ている」
と絶賛せしめた亜愛一郎シリーズ、まあ、最終回が最終回だけに
再開は難しいシリーズだったが、淡い期待は抱いていた。
本当にもう、読めないんだなあ。
三角形の顔の老婆が懐かしい。

9時半、朝食。
バナナジュース、アオマメのスープ。
携帯のアドレスを変更してから、これまで一日に50通は
来ていたスパムメールが一通もこない。この心地よさ。
旧事務所からの郵便物転送、電話類の転送、これもほぼ、
スムーズに行くようになった。

東京新聞連載(9回連載の原稿を一度に入れた)の
ゲラFAX、届く。
赤を入れて返すが、やはり一度にまとめて書くと文章が
粗雑になる。いろいろ手を入れる。

それからD社原稿、意外に手間取る。
〆切に全部を間に合わせるのがかなりキツくなってきた。
昼は弁当、茄子のそぼろ煮。
メールやりとりでちょっとブルーになったり。

NHKの『私の一冊、日本の百冊』に出演するのだが、
その候補本を三冊ほど送った返事。
一番書評したい本を向うも選んでくれたので喜ぶ。
と、いうか、私の紹介したい一冊(日本人の著作に限るという
シバリあり)をチョイスして確認すると、どれもこれも絶版
品切れ本ばかりなのに愕然としたことであった(現在も手に入る
本、というシバリあり)。

原稿、だいたいの目星がついたあたりで阿佐谷ロフトへ。
ルナの『コント考現学』。やまぐちんさんがいたので、7月の
映画祭について少し話す。
お客の入りが心配だったが7時になって三々五々入り、恥ずかしくない
入りになったのは幸い。T田くんやS崎くんなど、私経由でこの
劇団に深入りするようになってしまった編集者が何人もいるのは
ちょっと苦笑。東京三世社のAくんも来ていたが、彼もそのうち……。
こないだぴんでんさんとの馬え田との会に来ていた方が律義にも
足を運んでくださった。感謝。

コント3連発に続き、三題ばなしのコーナーがまたあり。
こないだの楽園はさすがにお題もまっとうだったが、
サブカルの聖地ロフトではお客もひねりがあるというか、
「イカのいろり焼き(今日のロフトのおすすめおつまみ)」
「脳梗塞」
「中大兄皇子」
というスゴい三題。

藤田由美子ちゃんやじゅんじゅん、琴重ちゃんが苦戦し、
ハッシーもなかなかオチが決まらない模様。
私もかなり楽屋で七転八倒するが、何とかまとめる。
※※
大化の改新で蘇我入鹿を倒した中大兄皇子はその後天智天皇と
なって国を治め、善政につとめたが、寄る年波で、軽い脳梗塞を
起して倒れる。酒の肴にしたイカのいろり焼きに当たったかと
侍医は診断する。天皇は寝床で誰かに会いたい、とうわごとを言って
いるが、誰にも語ろうとしないので、この人になら話すだろうと、
かつて大化の改新で蘇我氏と戦った忠臣の藤原鎌足が呼ばれる。
天智天皇は、鎌足に、わしの一生は充実しておったが、ロマンスが
なかった。あこがれの人に会いたかった、それだけが心残りだ、と言う。
誰でございますか、と鎌足が訊くと、天皇の身として恥ずかしいが
女優だ、という。その名前を聴いて鎌足は驚き、侍医のところに戻って
「天皇の病気はあこがれの女優に会いたいという気持が凝ってのものだ」
と伝える。
「ほう、イカではなかったですか。で、その女優というのは?」
「それが、石原真理子だというんだな」
「石原真理子? ああ、脳梗塞だけに、好きな女優もプッツン」
※※
ま、3〜4分くらいで作った噺なんで、図抜け大一番の早桶
じゃないが、急場に間に合わせたというところでご勘弁。
天智天皇にはちゃんと額田王とのロマンスがあったのだが、
そのことは忘れていた。

ハッシーに、〆切があるので、と言ってそこでロフトAを出て、
新中野に帰宅。D社続きをやろうと思ったら、『社会派くん』
のテープ起しが来ていた。明日までというんでそっちを先に。
これが11時までかかる。

そのあと、腹が減ったので、昨日のサエズリ煮の汁に
バタをちょっと加え、ご飯にぶっかけて食べる。
天智天皇じゃないが、脳梗塞になりそうな食事、しかしンまい。
ホッピー飲んで2時過ぎまでいろいろ。

Copyright 2006 Shunichi Karasawa