裏モノ日記

裏モノ採集は一見平凡で怠惰なる日常の積み重ねの成果である。

7日

水曜日

何もかも巨乳のことのように思い出されます

今はしなびちゃって影もないけどさ。

※書評委員会

朝の夢、勇ましとも勇まし。
姿を消した鞍馬天狗はトニー桃岡と名乗り、南極の海溝に秘かに
潜水艦基地を造ってその船団長になっていた!
勤王の志士たちの危機が迫るとき、トニー率いる潜水艦隊が出撃、
佐幕の犬たちを蹴散らかす!
……いくぶん川尻徹が入っている感はあるが。
ちなみに鞍馬天狗は何故かアラカンでなく市川右太衛門。
紋付姿で双眼鏡を握っていた。

9時半起床、もそもそと起き出して洗顔、朝食。
バナナリンゴジュース、アスパラガスのスープ。
自室にもどってメールを開くや、編集者三人から新年の挨拶と
さっそくの原稿催促。
「初荷は九日です」
とはちょっとうまい。

新年からずっと好天続き。
火事も多いはず。
世の中はいいことばかりではない。
裏面が必ずある。
螢の飛び交う川面には必ず薮蚊も飛び交うのである。

アマゾン(制作会社)からメール、それに関連して、前日にでも
最終打ち合わせをさせてくれと依頼。ゲストが多いので、
リードするこちらが進行をきちんと把握しておく必要あり。
あと、客席ゲストの私の人選の3人は、他とイレコミには
しないで私と一緒にスタジオ入りできるように、と頼んでおく。

昼は味噌むすび。日本人の原点みたいな味。
オノからメール、明日の赤坂スタジオ入り、17時とゆっくりなので
ホッとする。NTTから電話移転に関しての問い合わせ。
「プッシュホンでしょうか、黒電話でしょうか」
今どき黒電話って人がいるのか。いるのだろうな。

市川治氏死去の報あり。72歳。
もちろん、最初にその声を覚えたのは『スーパージェッター』で。
しかし、市川治、という名前と結びつけて覚えたのはそのすぐ後の
放送であった『宇宙家族ロビンソン』のウエスト少佐役で
あった。どちらの番組でも熊倉一雄さんと共演していたな。
誰もが指摘するだろうが、市川氏のその硬質の美声は、70年代、
『勇者ライディーン』のプリンス・シャーキンを元祖として、
その意外な女性人気を元に、女性ファン向けに意識的にクリエイトされた
『コン・バトラーV』のガルーダ、『ボルテスV』のプリンス・ハイネル、
『闘将ダイモス』のリヒテル提督と続く怒涛の美形敵方キャラの声優と
して異常な人気を博し、当初、メカと美少女という要素に群がる男だけの
“祭”だったアニメブームに、女性を新たな消費者として取り入れる
ことになり、女性オタクを多数輩出させた。そして彼女らは“やおい”
という、男性の立ち入れない聖域を日本文化の中に成立させてしまった
(もちろん、それ以前にトリトンや兜甲児などという元型はあったが)。
BLだの腐女史だのとさまざまに名を変化させながら現在も隆盛の
この文化を作り出したのは、市川治のあの声だったのである。

ダーリン先生の見舞に行きたいのだが、スタッフたちから
書庫整理を優先せよと言われて仕方なく4時、事務所に行く。
新書をバサバサ片づける。
本整理の基本は“いつか役に立つかもしれないと思う本はいつまで
たっても役に立たない”である。具体的な使用法が見えるもの以外は
どんどん処分。とはいえ、35年間、保存とかを考えずにどんどん
本を買いあさって、自宅が魔窟になることを素直に楽しめていた、
あの時代はよかったなあ。

5時、山を階段などに分散して歩行の便をはかり、家を出る。
新宿までタクシー、車中、NHKと電話打ち合わせ。
大江戸線で築地市場、今年初めての朝日新聞書評委員。
奥まった部屋に並ぶ本、さほど今回は多くなし。
任期の残りも考えて、あまりとらず、花丸の一点は押さえたが、
他の本のうち、欲しかったものはKさん、Sさんに取られた。
結局、落札は4点。

アラスカで編集者さんたちと雑談、軽口いろいろ飛ぶ。
ジュリーマニアの女性編集者さんいたり。
Hさんに公演参加のことをちょっと伝える。
Mさんとは犬鍋の話。
ハイヤーで送られ、都心の夜景楽しみつつ10時半、帰宅。
落札本に目を通しながら、ホッピー4ハイ。

Copyright 2006 Shunichi Karasawa