裏モノ日記

裏モノ採集は一見平凡で怠惰なる日常の積み重ねの成果である。

6日

火曜日

このガザをたためば

僕(イスラエル人)はびしょぬれの
神を好きだと思うただの男になる

※『社会派くん』ゲラチェック 『パイパー』観劇

朝9時半起床。
少し頭がボーッとしている感じ。
トイレへ行ったら急に嘔吐感に襲われる。
二日酔いか。
三が日も過ぎているのに、ゲー春とか、吐きましておめでとう
でもないだろうと必死で我慢する。

朝食が飲み物ばかりで助かる。
バナナジュース他、如例。
ただし、午前中トイレ頻々。痔になるかと思う。

『バットマン』『バットマン・リターンズ』など4作品で
ゴードン警視総監を演じた俳優、パット・ヒングル3日に死去、
84歳。ブロードウェイの舞台で活躍、映画やテレビにも
初期から出演、私はクリント・イーストウッドの『ガントレット』
(77)で名前を覚えた。。イーストウッドはヒングルや
ジョン・ラーチ、ロイヤル・ダーノといったベテラン俳優を必ず
自分の作品に出演させ、映画に厚みを持たせようとしていたフシがある。
ジョン・カーペンターが撮ったプレスリーの伝記映画『ザ・シンガー』
(78)では悪徳マネージャーのパーカー大佐をアクの強い芝居で
演じていた。
舞台での弟子にショーン・ペンがいる。

『社会派くん』年末の対談ゲラが上がってきたので、それに
とりあえず手を入れる。
昼は明太子がかなり余っていたので明太子スパ。
皮をとった明太子に、おろしニンニク(チューブ)、ダシ醤油を
加えて混ぜる。茹で上がったパスタにバターを溶かし、明太子を
全体にからめたら上に刻みノリを乗せて。

風邪はほぼ、抜けたがまだ体調万全とは言えず。
少し暖く(暑く)した寝室でベッドに横になって安静にしている。
少しストレッチもした。

4時半、家を出て新宿まで。紀伊國屋でちょっと買い物。
それから渋谷へ向かう。事務所でちょっと探し物。
それから、歩いて文化村まで。
ゆめすけさんのお誘いで、シアターコクーンにて野田秀樹の
NODA・MAP公演『パイパー』。
チケットを受付に預けておいてくれたので、それを受け取って。
館内で落ち合う。
私「昨日は酔っぱらってすいません」
ゆ「そんなにお酔いでしたか?」
私「何しゃべってました?」
ゆ「小朝擁護論とか」
私「あ、じゃかなり酔ってましたよ(笑)」
とか会話。

前情報まったくなしで観たので、『パイパー』とは笛吹きの
ことだとばかり思っていて、ハーメルンの話かと思っていたら
“パイプ(管)人”という意味のパイパーであった。
SFであったのにびっくりした。
火星に移住した人間たちはロボット(?)のパイパーたちにより
守られ、開拓に従事する。住民たちは“パイパー値”と呼ばれる数字
を目標にがんばった。パイパー値は幸福の度合を示す数値で、
その数値の最高値、8888への上昇こそが人類の究極の目標であった。
ところが、何故かパイパーたちは叛乱を起し、パイパー値を入植時
のレベルに戻そうとしはじめる。人類はパイパーたちと戦うが
敵ではなく、入植から900年後、荒れ果てた火星には、わずかな
人々しか生き残っていなかった。その中で、食品店を守って生きて
いるフォボスとデイモスの姉妹は、父のワタナベが自分たちより若い女
とその息子を連れ込むということに大反対する。しかし、その息子の
キムは天才少年で、ワタナベは、彼に火星入植者たちの鎖骨のビーズを
見せてやる。火星入植者たちは、生れたときに鎖骨に特殊なビーズを
埋め込み、自分の体験や見聞をすべてそのビーズに記録する。
入植者が死ぬとそのビーズは取り出され、他の人間がそのビーズを
自分の鎖骨に当てると、その死者の記憶を追体験することが出来る。
ワタナベはこのビーズを使って火星の食文化を研究しているが、
キムは入植以来、なぜ火星がこのように衰退したか、その理由を
知りたがる……。

はっきり言ってテーマやストーリィが、私がよく行くような
小劇団の芝居に比べて格段に優れているとは思えず、90人以上の
登場人物や凝った衣装、舞台装置も
「あーあー、メジャーになると金かかってるねえ、いいねえ」
程度の認識だった。だが、観ているうちにぐんぐん引き込まれるのは
時間と空間の使い方である。そして、役者たちの力量である。
フォボスが宮沢りえ、デイモスが松たか子、ワタナベが橋爪功、
キムが大倉孝二。いずれも膨大なセリフを(何ヶ所か噛みはしたが)
完璧にこなし、900年にわたる火星の興亡史をつむぎだす。
クライマックスで宮沢と松が、広い舞台に二人きりで、滅亡した火星の
都市の模様を、割りゼリフで10分以上かけて語るシーン(照明が
上からでなく、横から二人を照らす)では背中に冷たいものが走った。
ワタナベが連れ込もうとしている“胸の大きい”女性、マトリョーシカ
役が誰かと思ったら佐藤江梨子だったのに驚いた。
これはゆめすけさんも全然気づかなかったそうで、言ったら
「え、じゃあれはサトエリの生谷間でしたか」
と。ナンという贅沢。

いろいろ考えながら劇場を出る。
ゆめすけさんをお礼にどこかいい店にお連れしようと思うが、
渋谷にはもう、連れていきたいような店がなし。
「唐沢さんが普段メシに使っているような店へ行きたい」
と言うので、では、と中野に向かい、アボットチョイスへ。
金竜門も考えたが、昨日の今日で中華続きもどうかと思い。
幸い、ギネスもエールも、シェパーズパイやフィッシュ&チップスも
気に入ってもらえた。
カウンターでダイスをやっていた常連の女性が、
「ご本いつも拝見してます」
と挨拶してくれた。

話題は怪談ばなしのテクニックや地方の寄席のこと、『楽』の
サイン帳のことなど。つくづくいい店だった。
あと、耳寄りなバイアグラ情報もいただく。役に立つかどうかしらないが。
話に熱が入り、ふと気がつくともう12時。
別れて、自宅に戻り、ちょっとメールして寝る。

Copyright 2006 Shunichi Karasawa