裏モノ日記

裏モノ採集は一見平凡で怠惰なる日常の積み重ねの成果である。

3日

土曜日

幸福の黄色い三が日

正月には出所して帰るから……。

※寝正月 食事会

『立川談志10時間』、弟子たちの話の途中で限界になり
就寝。4時ころか。朝食を10時にしてもらっていて助かった。
食事のときにホッピー二杯飲んだきりで、4時頃まで缶ジュース
一本飲んだきりでアルコール類なし。
そのせいか、久しぶりに、酔いでない、自然な眠気で就寝できて
いい気分。

10時、起き出す。
凧揚げをしたいような好天。朝食。またいつものジュース食事に戻る。
NHKで正月クラシック番組。
毎年、正月らしいユニークな演出の演奏を見せてくれる。
今回はハイドンの『告別』。演奏しながら、どんどん楽団員が
帰っていってしまうというもので演出はコミカルなものだが
正月にこの選曲はどうかね。

自室に戻り、まだ風邪が本調子にならぬのでじっくり休養。
ドナルド・ウェストレイク死去、75歳。
やたらに作品が映画化された人で、それがまた60年代末〜70年代の
ニュー・シネマの最盛期に合致したのが幸運だった。
リー・マーヴィンが悪党バーカー(映画では名前が異る)を演じた
『殺しの分け前/ポイント・ブランク』(67年)、ロバート・デュバル
が同じくバーカー(やはり名が異る)を演じた『組織』(73年)、
そしてロバート・レッドフォードがまぬけな泥棒ドートマンダーを
演じた『ホット・ロック』(72年)が、それぞれジョン・ブアマン、
ジョン・フリン、ピーター・イェーツの演出で、スタイリッシュな
B級アクションの快作に仕上がっている。私はいずれも映画の方を
先に見て、それから原作を買って読んだのだが、映画の印象から原作も
ポップでスタイリッシュなものだと思っていたら、案外きちんと
書き込まれた正統派犯罪ものだったのに驚いた記憶がある。
上記の監督たちはいずれも、70年代末には失速してしまうが、
ウェストレイクは我関せず焉でそれからもバーカー・シリーズや
ドートマンダー・シリーズを書き続けていた。

私のお気に入りは1980年のスラップスティックもの
『空中楼閣を盗め!(Castle in the Air)』。ミステリ・マガジンの
“海外の新作”欄で紹介されていたときから読みたくて、
翻訳が出るのを待ってすぐに買って読んだ記憶がある作品だ。
南米の独裁者が亡命のため、自分の居城に莫大な財産を隠し、それを
バラバラに分解してパリの万国博に出展という名目で国外への持ちだしを
謀る。その情報を得た主人公ユースタス・デンチが、その城をまるごと
いただく計画を立て、英・仏・独・伊の各国の超一流怪盗たちを
集合させてチームを作り、強奪にかかるが……という話。
城を分解して引こうで運ぶというアイデアと、お国差別感覚バリバリの
各国の怪盗チームのキャラクターたちの造形が何とも楽しい。
タイトルのキャッスル・イン・ジ・エアーはもちろん、城が飛行機で
運ばれてくることと、“途方もない計画”という二つの意味をかけて
いるが、もうひとつ、バベルの塔もイメージさせており、
各国の怪盗たちの間で言葉が通じず、打ち合わせが大混乱になる
シーンがあり、リーダーのデンチが
「何でみんな英語を使わないんだ? こんなにいい言葉なのに」
と嘆くシーンは爆笑ものだった。新作がもう読めないのは悲しい。
黙祷。

自室で調べモノ。
いろいろと書庫と自宅を探し回ったのだが5冊あるはずの資料の一冊
しか見つからず、結局また古書店に再注文してしまう。
こういう無駄をはぶくために整理が必要なのだ。

DVDでジョン・セバスチャン『原始惑星への旅』。
監督のジョン・セバスチャンをはじめ出演のマーク・シャノン、
クリストファー・ブランド、オープニングにずらりと
並ぶ人名はほとんどデタラメ。ロジャー・コーマンがソ連から
買った映画を勝手に編集し、登場人物からスタッフまでほぼ全て
アメリカ名にしている(プロダクション・マネージャーに
ゲイリー・カーツの名前がある)。
ストーリィその他は例によりエロの冒険者さんのサイトで見ればわかるが
http://homepage3.nifty.com/housei/gennshiwakusei.htm
まず、作品を見たほとんどの人たちが、“ひどい”“Z級”“何だ
これは”などと言っているのに、原作の映画である『火を噴く惑星』
を配給しているロシア映画社だけが大絶賛しているのが笑える。
http://www.saturn.dti.ne.jp/~rus-eiga/arc/films/h/hiwofuku/index.htm
……曰く
「そして何よりSFファンを唸らせるのは、シリウスやヴェガの有人
宇宙探査船、水陸両用車など、メカニックの造型であろう。極めつけは、
二足歩行の惑星探査補助ロボット"ジョン"で、溶岩流にも耐える強固な
ボディにウィンチなどの仕掛けを持つが、敬語でしか命令を受け付けない。
しかも、叛乱を起こし、自分の身を守るために人間を犠牲にしようとし、
内蔵の音楽再生装置からはビッグバンドの演奏が鳴りだす。これは、
後年の『2001年宇宙の旅』のコンピューターHALを彷彿とさせる
ものがある」
……そうかあ?

昼はお茶漬け。イカの塩辛とつぼ漬けで。
ただ食欲なく、一口残してしまった。
ベッドに寝転がって読書。

置き出してだらだら。
4時から『プライミーバル』第二夜。登場怪獣(笑)は
第3話がモササウルス、第4話がドードー鳥に寄生していた寄生虫。
こういう連中がウヨウヨしている世界と現代が異次元断層で
つながっている、という設定だが、“出てくる怪獣は一回につき
一種類が原則”という基本に忠実なところがいい。

ワンシーズン6回という小規模なものだが、第3話はストレートな
怪獣もの、4話目は寄生虫に神経系を乗っ取られた男が凶暴化する
というホラーテイストと、一回ごとに工夫をこらしているのに感心し、
それに全話を通じて主人公ニックの、8年前異次元に消えた妻が握る
秘密、そしてさらに脇スジとして、ニックと内務省の女性職員
クローディアとの微妙な恋愛関係、調査チームの女性隊員、
アビーをめぐっての男性隊員二人のサヤ当てなどのエピソードも
回を超えてからむ。オタク青年や頭の固い政府責任者など、
人物設定はまことに定番極まりないのに古く感じないのは、
配置の仕方がうまいからである。定型を壊すのではなく、定型を
守りながらバリエーションを考えているのである。
私はエコな連中がどうも嫌いなので、消えたニックの妻(これがまた
自分勝手で理想家で物言いにトゲがある)の言い草というのがちょっと
神経にさわり、クローディアに応援したくなってしまう。
さて、明日の最終回二話も楽しみだ。

ちなみに、女性隊員のアビーを演じているハナ・スピアリットという
女優は、もとアイドル歌手ユニット“Sクラブ”のメンバー
だったそうな。日本で言えばモー娘。のメンバーがウルトラシリーズ
に出ているようなもので、こういうキャスティングは日本のテレビだけじゃ
ないのだね。まあ、使い方に差があるんだ、と言えばそうなんだが。
http://jp.youtube.com/watch?v=Fn17TLTzZJ8&feature=PlayList&p=9DB19F6BDAA4392E&playnext=1&index=28

6時半、ルナのメンバー中、乾ちゃん、岡っち、NC、じゅんじゅん
の4名が年始の挨拶に来てくれる。乾ちゃんの独立祝いでもある。
母の室でご馳走しながら、いや、いろんな話で盛り上がる。
母も役者さんたちだと喜んで話に加わり、独演会みたいになる一幕も。
こういうノリも珍しい。NCが来てくれるのは珍しいので、
私もワイワイとノリをよくする。料理はいずれも大好評。
紙カツサンド、大根と貝柱の煮物、塩豚焼き、頬肉シチュー、
そして雑煮。

酒もビールから焼酎かなりいったが、私は話はハイになって
いろいろしたものの、食欲微塵もなく、ほとんど手をつけず。
11時半ころ、お開き。じゅんじゅんが“時間が早かったなあ”と
言ってくれた。

で、見送って自室に戻ったとたん、緊張がとけたか、
冷気に当たったせいか、急激に寒気とふるえに襲われる。
歯の根が合わずガチガチ、ガチガチと音を立て、これはいかんと
薬箱を開ける手がブルブルと震える。
マラリアにかかったみたいに見えたことだろう。
風邪薬のタブレットに、熱冷ましがわりの喉の粉薬、それと
漢方薬を合わせて服用。さらにジュースを一気のみして、
その間に寝室をカンカンに暖めておき、寝巻の上にカーディガン
を羽織って布団にくるまる。何か、こういう症状が出ると、
それをどう克服するかのゲームみたいな感覚になる。

しばらく胎児のように丸まってじっとしていたら、1時間くらい
して症状おさまり、少し寝る。2時ころ、暑くて目が覚めるが、
しばらく室温はそのままに、やがて汗が猛烈に噴き出してきて、
襟元などピショビショと音を立てるほどになる。起き出して、
パンツからシャツから全部新しいものに取り換え、再び
ベッドの中に。もう大丈夫という安心感ですぐ寝入ってしまう。
しかしとんだ寝正月になった。

Copyright 2006 Shunichi Karasawa