裏モノ日記

裏モノ採集は一見平凡で怠惰なる日常の積み重ねの成果である。

22日

土曜日

ゴスにゴサれぬ田原坂

ここでそぎゃんおろよか格好したらあからん!(デタラメ熊本弁)

※事務所整理等

明け方の夢。うなぎ屋に入って飯を食っていると、女将が
「ここの店は、昔トニー谷がうなぎ裂きの修業をしたところだ」
と言い出す。トニー谷がうなぎ職人の修業をしていたとは
知らなかった、と言うと、
「あの人もいろいろ苦労をしたのよ」
と言い、彼が免状をとったときの、裂いたうなぎの写真が
パネルになっていると言ってみせてくれる。
裂いたうなぎの身の脇に頭と肝がきちんと置かれていて、
これが免状を取るときに大事なことなのだと教えてくれる。

9時起床。
朝食、バナナジュース、コーンスープ、富有柿。
日記をつけ、資料読書。
喫緊にやらねばならない仕事が三つ平行してあり、足をからまれて
どれも進まず。ある件で専門の人に質問メールしようとメールを
書きかけるが、専門家には馬鹿にされそうな内容なので
途中でやめる。

おとつい、マルクス兄弟映画の脚本を手がけたアーヴィング・
ブレッチャーが死んだことを書いたが、今度はヒッチコックの
『裏窓』『泥棒成金』『ハリーの災難』『知り過ぎていた男』
の4作で脚本を担当したジョン・マイケル・ヘイズが19日に死去、
89歳。ヒッチコック作品の中でも上記4作はユーモアと
サスペンスが最も成功した形で融合しており、この面での
ヘイズの貢献はあきらかだろう。

20年ほど前に、これらの作品の面白さを熱弁する私に、映画マニアの
学生が“もう、こんな映画古いですよ”と反論して、討論になったことが
ある。4作とも、公開された50年代にはかなり斬新なアイデアに
富んだ作品で、それは今も変わらないと思うのだが、それを無理なく
エンタテインメントに消化してしまったヘイズの腕が、かえって若い世代には
“古い”と映ってしまうのかもしれない。これからの上記作品の“新しさ”
の再評価が必要になるのではあるまいか。

昼は弁当、カレイのムニエル。
食べてバスに乗り、新宿経由で渋谷へ。
今年初めて、マフラーを巻いての外出。
マンションの入り口で掃除に来ていた母とすれ違う。
図版ネタに使う本を物色、残念ながら見つからず、帰ろうか、と
台所の棚の扉を開けたらそこに3冊も揃って見つかった。

帰宅して、その3冊に眼を通すことで残りの時間をつぶす。
8時頃、夕食準備。残りの干しシイタケ、鶏肉、豚肉、白菜で
ピェンロー。この間のピェンローは実はあまりうまく出来なかった。
白菜を15分しか煮なかったからである。
今回は30分、薄切りの豚肉がとろけてしまうほど煮込む。
スープも濃厚になり、白菜はクタクタになってスープをよく吸い、
上等な出来になる。テレビをつけたら、いきなり元厚生事務次官
殺害の容疑者自首、というニュースが入って驚く。
そこは見逃したが、ニュース番組をやっていたのはTBSだけで、
コメンテーターの佐々淳行が“ラッキーですよあなた”と口走って
安住アナ大慌ての一場があったとか。笑える。
動機が“保健所にペットを殺されたことがある”という
にわかに納得できずらいもので、ネットでは替え玉説が沸き立って
いるようだが、かえってこういう動機なき動機の方が現代を
表わしているのではないか?

ビデオで『サン・フランシスコ殺人事件』(1945)。
ゆうべ見た『キングコング』から、ロバート・アームストロング
つながり。この映画ではアームストロングは口ひげをたくわえた
謎の組織の大物に扮する。

現代は『THE FALCON IN SAN FRANCISCO』。
日本では全く知られていないが40年代のアメリカでは
大人気シリーズだった名探偵ファルコンもの。
最初は『レベッカ』『光る眼』のジョージ・サンダース主演で
4作品作られていたが、サンダースが降りて、代わりに
4作目で主人公の兄、という設定で出演したトム・コンウェイ
(実際にサンダースの兄)を二代目ファルコンとして主役にして、
さらに9作作られたという(吉田広明『B級ノワール論』)。
何だか『悪魔くん』のメフィスト役の引き継ぎみたいだ。

冒頭のサンフランシスコ行きの豪華列車内の描写が楽しく、
子役のシャリン・モフェットとのやりとりもいい。
コンウェイの相棒(ドジなワトソン役)のエドワード・ブロフィが
税金対策のために結婚しなくては、とやたら女性に声をかけて
肘鉄を食らう繰り返しギャグも面白い。ただ、ミステリとしては
展開が唐突すぎて(上記吉田氏の本でも“物語は錯綜しており、
よくわからない”とサジを投げている)理解しにくく、
殺人事件のそもそもの動機となる謎も地味なのでスカッとしない。
ムードだけ味わうべき作品。

主演のトム・コンウェイは『海獣の霊を呼ぶ女』『女黄金鬼』
『私はゾンビと歩いた』などのホラーものでおなじみの顔。
エドワード・ブロフィとは共にディズニー映画で声を担当して
おり、コンウェイは『ピーター・パン』のナレーター。
ブロフィは『ダンボ』におけるネズミのティモシーである。

Copyright 2006 Shunichi Karasawa