裏モノ日記

裏モノ採集は一見平凡で怠惰なる日常の積み重ねの成果である。

8日

土曜日

イカくさ物語

男4人兄弟だと部屋がイカ臭いなあ。

※産経新聞インタビュー 紙芝居復元上演会 アンドナウの会打ち合わせ

朝9時半起床
朝食バナナジュース、パンプキンスープ。
食べて日記つける間もなく11時、家を出て新中野駅前
ヴェローチェ。産経新聞インタビュー。
ほとんど昨日話したようなこと繰り返しだが、
さらにちょっと文化人類学的な部分にまで踏み込んで。
これ、こういう形で少し発展していけば面白いことになりそう。

一時間以上気がついたら話していた。
写真を店内で撮影し、別れてそのまま地下鉄で新宿、
山手線で目白。東京教育専門学校で紙芝居の研究会があるというので
佳声先生のお誘いで伺うことにしたのだが、目白駅前で交番の
お巡りさんに、ここどう行きます、と訊いたら、一言のもとに
「それは高田馬場だ!」
と。いえ、しかし案内にも目白五分とあるのですが、と
抗弁したが、イヤ高田馬場だ、との繰り返し。
仕方なく高田馬場に戻ったが、携帯ネットで調べたらやはり目白。
なんなんだ、と腹が立つ。
味一でラーメン食って(濃厚だが美味)、タクシーで目的地。
ワンメーターでついた。

窓口で受付の人に名乗ると、私のこと知っていたようで
「唐沢さんなら、きっとすごく気に入ります!」
と言われる。佳声先生父娘と、スズキスズくんが来ていた。
幼稚園の講堂くらいの会場にお客さんは150人ほど。
高崎大学の石山幸弘先生の、写し絵、立ち絵、鏡立ち絵紹介と
その実演。

だるまの写し絵は以前、NHKの番組で見たことのあるもの。
日露戦争の写し絵など貴重なものの紹介の他、立ち絵芝居では
『一本刀土俵入り』、『国定忠次』などの新作が披露される。
石山先生の講演の中に出てきた、左翼紙芝居、また絵葉書大で
こっそり見せていたというアダルト紙芝居など、紙芝居の豊かな
バリエーション紹介が非常に興味深い。

休息時間、展示されている紙芝居に多くの人が集まって写真など
撮っている。私は以前『紙芝居読本』の中で紹介されていた
『蛇男』の原版を見られたのにちょっと興奮。
スズくんに、こないだ思いがけないところで見たスタレヴィッチの
話をする。

後半は佳声先生おなじみの『マンガ ゴクウ』と『ライオンマン』
の口演。お爺さんお婆さんの世代の観客が多かったが、みな
爆笑していた。袈裟を取って逃げた黒大王を追いかけた悟空の台詞が
「その袈裟素直に渡さばよし、嫌だなんぞとぬかすが最後、
とっつかまえてギュウ、ひっつかまえてグウ」
といきなり鷺坂伴内もどきになるところなど、相変わらず自由自在。

その後が、佳江さんに“ぜひ聞いておいた方がいい”と言われた
右手和子さん。私の世代には『悟空の大冒険』でおなじみ。
右手さんの父上は右手悟浄と言ってかつて街頭紙芝居師であり、
和子氏は父上のその業を継いで、文芸紙芝居の口演を続けているという。
悟浄の娘が悟空をやっていたのか。
戦中の文芸紙芝居、『うづら』を見事に口演、感服。

会の主宰の方々が次々挨拶に来てくださり、石山先生などに
紹介してくださる。懇親会にまでぜひ、と誘われ、近くの
事務所まで歩く。目白の街を歩くのは初めてかも。
懇親会ではなんと乾杯の音頭をとらせられる。
紙芝居界では私は『猫三味線』のプロデューサーとして
知られているらしい。

結局、なんだかんだと6時過ぎまで。
酒もかなり飲まされた(佳声先生が、自分が飲みたいので
私にどんどん注ぐ。佳江さんがヤメナサイとその度に止めるのが
親子漫才のよう。ところが、佳声先生もようやくあきらめたところに
隣のテーブルから来た石山先生が“先生、まあまあ”とたっぷり
注いでしまうというオチ。スズくんと二人で大笑いした。

この酒の銘柄が“イチ”、蔵元の名が“世界一統”。
ちょっとトンデモがかっていないか、と思ったが、実は
和歌山の酒で、かの南方熊楠の父親が作った蔵元だそうな。
で、“世界一統”の名付け親は大隈重信だという。

6時過ぎ、佳声先生を見送って、中野へ。
アンドナウの会打ち合わせ。
いろいろ、個々のプロデュースに対するイメージの差異の
調整が喫緊の課題かという感じ。

9時半帰宅。肉の会の店の予約を12月ということで。
昼に食い損ねた弁当を食い、
黒ホッピー飲みつつ、クライトン追悼で映画『アンドロメダ……』
を見る。医者の役で作者のクライトンがワンシーン、特出している。
背の高い、いかにもアメリカ人的な“いい男”。
天は二物も三物も与えるところには与えるということ。

※写真は『蛇男』。蛇を殺した復讐で侍が食い殺され、その生首
を見て妊娠中の妻は復讐を誓う。やがて生れた男の子は、母と
忠義な飼い猫によって育てられ、蛇男と対決する。
父の位牌に祈る母子の後ろで猫まで手を合わせているのが実にいい。

Copyright 2006 Shunichi Karasawa