裏モノ日記

裏モノ採集は一見平凡で怠惰なる日常の積み重ねの成果である。

12日

火曜日

竜馬万札

新・一万円札の肖像に坂本竜馬決定!

※雑用いろいろ

9時までぐっすり。
朝食9時15分。
母の室に行く前に新聞を取ってくるのが習慣で、
つい今日も郵便受けのところに取りにいくが、
休刊日であった。
朝食、イチゴ大2粒、リンゴ5切。アオマメのスープ。

仙台の知人から電話、大阪のTくんからは父君逝去の報、
人生いろいろあり。長野のヒコクさん、それから佳江さんから、
佳声先生と狂志さんの会は大成功に終わったという報告。
佳江さんまかせにしてしまったので、心配していたが
ホッとする。客も大入り、佳声先生も終始御機嫌であったとか。
夏に伊賀良では人形劇フェスタが毎年開催されて、それに
佳声先生は例年出演されている。
ちょうど佳声自伝のからみもあり、今度は私もついていくはず。

あと、仕事がらみも多々、多々。
まずは大急ぎで週刊現代に行を削ったメール、
それからラジオライフのゲラチェック。
小学館クリエイティブのSさんから電話、今週中に打ち合せ。

遅ればせながら、だが、10日のロイ・シャイダーの死去の報に
感慨深し。この人、私のテレビと二番館での洋画追っかけと共に
偉くなっていったという感のある人で、『フレンチコネクション』
ではジーン・ハックマンのよき相棒、『ザ・セブンアップス』では
そのルッソ刑事のキャラをそのまま借りた感じで地味ながら主役、
そして大学受験の最中に観た『ジョーズ』でブレイク、
『オール・ザット・ジャズ』で名優の仲間入り、という具合である。
私の洋画好きのひとつの要因となったことは間違いない俳優であった。

しかし、私の見るところ、彼の演技者としての本領は70年代で
出尽くしてしまった感がある。80年代以降の彼の役柄は、
『2010年』のフロイド博士(前作のウィリアム・シルベスターとの
違和感ありすぎ)も、『裸のランチ』のベンウェイ博士の怪演も、
どこか“ホームでない居心地の悪さ”を感じさせていた。
『脇役グラフィティ』(ブロンズ社)で川本三郎も言っていたが、
やはり彼には生粋の都会的キャラクターが似合うのである。
人種の坩堝の大都会の中で、いろんな矛盾や不条理を悲しげに
背負いながらも気丈に生きているタフ・ガイのイメージが、
顔の作りに出ているのである。

『ジョーズ』のブロディ署長は、都会育ちの彼が田舎の観光地に
左遷された、という設定で、原作ではその彼の、左遷への不満や
田舎独特の込み入った人間関係への嫌悪、さらには若い海洋学者と
妻との不倫疑惑など、心の底にわだかまったドロドロが具現して
彼の前に現れた存在として巨大なサメが描かれていた。
スピルバーグはそのあたりを全てすっ飛ばして単純明快な
サメ退治映画として映画化し、その結果大ヒットとなったが、
ブロディ役にシャイダーを起用した意味はあまりなくなってしまっていた。
彼にとって惜しむらくは、この大ヒットですぐ企画された
どっしようもない続編『ジョーズ2』の契約のために、次の転機に
なるかもしれなかった大きな役をロバート・デ・ニーロにとられて
しまったことだ。『ディア・ハンター』である。
シャイダーの80年代以降の失速(こう書くことにちょっと抵抗が
なくもないが、作品歴から見ればあきらかに失速である)は
ニューヨーク系監督たちによるニューシネマが衰退し(皮肉なこと
に彼を大スターの位置に押し上げたスピルバーグら新世代監督たち
によって)、ニューヨークやロサンゼルスといった“都会”が
舞台であり主役である映画群が衰退したことによる。
その都会派からの脱皮の、『ディア・ハンター』はきっかけになり得た
映画だった。あの主役マイケルをもし、シャイダーがやっていたら、
その後の彼の役者人生はどう変わっていっただろうか。
いや、そりゃ『オール・ザット・ジャズ』もいいけども……。

とはいえ、私の中のシャイダーのベスト演技はやはり『ジョーズ』の
中にある。サメ退治に乗り出すべきかどうか悩んで、その父の
苦悩を察知してぐずる幼い子供の前で、おどけて百面相をしてみせる
その表情の豊かさ、達者さ。後に何だったか日本の企業のCMで
「僕と一緒にいれば、一生退屈なんかさせない」
というコピーでシャイダーが出ていたが、まさにこのときの
父親・ブロディは、そんな感じ横溢だった。
私に豊かな70年代を与えてくれた名優に感謝。

昼はゆうべ残ったメダイの刺身をわさび醤油で和えてメダイ茶漬け。
幻冬舎Nくんから感動的なメールと共に、超多忙な中、企画引き受けて
くれるという返事。オトコとして燃える。

なんだかんだで気がつくと5時になっていた。
地下鉄で新宿まで行き、小田急で買い物。
途中で週刊朝日立ち読み。記事そのものはそんなに大きい扱いで
ないが、表紙で謳っているのが強い。事務所までタクシー。
寒々とした仕事場で雑用片づけ。
資料ビデオ類をちょっとビデオ棚から探す。
DVDデラックスKくんから電話、次の〆切等について。

8時、バスで帰宅。
牛肉ワイン煮、魚介のマリネなどで酒。
ビデオで『GO!GO! ガジェット』見る。
マシュー・ブロデリック主演の、アニメの実写化であるが
案外の拾い物。
「おい言葉に気をつけろ、これはディズニー映画だぞ」
「それはアニメの『ガジェット警部』の見過ぎだ。これは実写だ」
などというセリフがポンポン飛び交うパロディで、完全に
気を抜いて作ってあるところがいい。1999年当時の、まだ
ぎこちないCGが見ていて微笑ましい。
ルパート・エヴェレットがもう、ワルノリで楽しげに悪役を
演じてブロデリックを食っていた。
目立ちたがりの女性市長役のチェリ・オテリ(『サタデー・
ナイト・ライブ』出身のコメディエンヌ)が大友恵理ちゃんそっくり。
顔も、役柄も。

Copyright 2006 Shunichi Karasawa