裏モノ日記

裏モノ採集は一見平凡で怠惰なる日常の積み重ねの成果である。

28日

金曜日

俺たちゃ東海人間なのさ

闇に隠れて生きるでなも。

朝8時起床。ノド、消炎剤の効果が切れてまた痛むが、それほどでなし。入浴、髭剃り、如例。9時朝食、コーンスープとスイカとバナナ。今日も空はどんより、なれど雨降らぬだけで昨今は“いい天気”と思える。母を今夜の談笑の会に誘う。談志がゲストということもあるし。

午前中に講談社モウラ原稿アゲ。転載ぶんコピーも含めてK子に預けて処理してもらう。日記つけ、メールやりとり。仕事頼み先にもいろいろ諸事情あり、それをどうクリアするか。

風邪まだ抜けず。弁当使った後で1時間ほど横になる。4時ころ、事務所へ。暑中見舞いコメント書き、半分ほど。名古屋のホテル等の手配をオノにやってもらう。朝食がセットされていないホテルをとって、朝は名古屋名物“モーニング”を試みてみるつもり也。

6 時、銀座へ。新宿でちょっと雑用、それから地下鉄。ヤマハホール。ついたら長野のヒコク氏がいた。文芸座の永田支配人がいたので、IPPANさんと引き合わせ、トンデモ映画界の企画につき、打ち合わせ日の算段をまかせる。キウイにも挨拶される。相変わらずにぎやかに売り子手伝いをしていた。

その他知り合い、常連多々。ひえだオンまゆらさんにも会った。ご両親が事故に遭われたと聞いていたのでお見舞いを述べる。今日はさすがに混み合い、ラジオライフTくんやアスペクトKくんたちは二階席だとか。ヒコクさん、jyamaさんを母と合わせる。jyamaさんを見て母、
「ああ、ギョニソの人」
と。

さていよいよ楽日、開口一番は志の吉、『桃太郎』。それから談笑で『天災』、紅羅坊名丸を“ペニ棒をなめる”とやるような他はオーソドックスに。と、言っても八五郎が母親にかかと落としを決めたり、八五郎を広野の夕立で追いつめた名丸が八五郎にどつかれて鼻血を出したりという談笑風演出はあるが。

そしていよいよ、家元登場、かすれ声、より顕著になり、
「片耳が聞こえなくて」
とか体調のグチを言いついつ、『二階ぞめき』をみっちり演じる。ただし力演というより力抜き演。途中でふい、と地に戻って解説をしたり(しかも地の部分と演じている部分に口調の差がほとんどないから、聞きなれないと、どこからが地なのかわからない)、上下も人の演じ分けも故意に無視したりという、すでに枯淡の境地というような語り口。それで破綻しないのは談志の存在自体がすでに落語と一体化している、ということか。談志自身もそれを意識して楽しんでいる。いいものを聞いた、とは思うが、やはり長すぎ。また談笑、持ち時間10分かと思ってちょっと聞きながらいらつく。ここらへん、寄席の感覚から離れて久しいためか、それとも弟子への試練のつもりか。

休息時間(これも年配客が多いのと、CD等を売るために縮められない)の後、口上の幕があくと、驚いたことに、
「なぜか司会のためだけに呼ばれました」
と、談之助が並んでいた。例の調子で
「裏金、裏技、裏攻略で見事真打となりまして」
というあたりで談志も苦笑していた。

で、その談志の口上。妙にごきげんなのが印象的で、これは裏技の効果か。

「さっきの俺の噺の最中いびきかいていた奴がいたそうだけど」
と笑っていた。ヒコクさんが客席にいると知ってのサービスかもしれない。しかし、確かに私の隣の席の女性は舟を漕いでいた。まあ、若い人にはわからんで当然。
「観たいというより観ておかないと気になって、観続けてしまう存在」
と、談笑の魅力をまさに一言で切ってみせたのはさすが。

「×太や×緑なんかよりゃはるかに面白い」
とは言いも言ったり、私みたいな者が言っても反発をくらうだけだろうが、家元のオスミツキ、心中でこの一言のために今回の披露目はあったかも、と(本人には迷惑だろうが)Vサイン。

あと、緊張で汗びっしょりの談笑に
「お前、汗臭いぞ。きちんと洗っておけ。真打が臭くちゃいけねえ」
と、これも普通なかなか言えないことをよく指摘することよ、と感心。もっともこんな場所で言うことでもないが。

で、談笑、一席目で
「ひょっとしてトリの出ばやしが前座囃子になってたら楽屋で降格されたものと思って……」
と心細いことを言っていたが無事、そんなこともなく。トリネタは何と新作、それも『猿の夢』。私的には拍手だがさて今日の客層にどうか? と思ったがバカ受けで驚いた。母まで大笑いしていた。単に奇をてらうだけでなく、演じ方にすでに風格が備わっているからだろう。風格で演じるネタか、というとまた別問題だが。いつもそこで会場とモメるタバコを吸うシーン、さすがに火はつけなかった。オチ前のところでオチと勘違いした拍手が起きるのは普通の話だとまずいのだがこのネタに限ってはそれも演出のひとつになっている感がある。

終って談之助さんとロビーで話す。夕方いきなり、
「前座だとしくじりそうなので司会をお願いしたい」
と電話があったそうだ。jyamaさん、ヒコク氏、Tくんと一緒に美弥へ。アスペクトのKさん、装丁のMさんも誘ったのだが途中ではぐれてしまった。美弥は混むだろうと思い、オエラガタの前で緊張しながら酒をのむのも嫌なので、出来れば他のところに行きたかったが一応談笑にも挨拶せねばならず、イヤな予感的中でいきなり家元の斜向かいの席に。

「あんた、俺の『らくだ』を……」
とまた言われる。これで5回目くらいか。

陳平さんの前に座らせられたjyamaさん、Tくんがカタマっているので、そっちに移動し、自己紹介のつもりで
「小野栄一の甥でございまして」
と言うが
「だから何?」
と言われる。脇にいたお客さんが
「『トリビアの泉』のスーパーバイザーですよ」
と紹介してくれた。そしたら
「そりゃ凄い。小野栄一の甥なんて自己紹介よりよっぽどバリューがあるじゃない」
と急に態度が変わった。

やがて談笑が入ってきて、談志の発声で乾杯。無事済んで本当によかった。シンタロウさんに挨拶。最近、あちこちで偶然におぐりゆかに会うんだよ〜と言っていた。彼の口からおぐりの名が出たことにjyamaさん驚いた表情。

家元はすぐ別の店へ行くが、陳平氏だけまた戻ってきた。志の吉に
「腹減ってんだろ? 食べな食べな」
とサンドイッチなどを勧めている。歳をとると若い者は常に貧乏で腹を空かせているというイメージを何故か持つらしい。あと、談笑と談之助で今、立てている某企画に私も一枚噛ませてもらうよう頼んでおく。jyamaさんはハードロック・ヘビメタ談義に加わっていた。

こっちもいつまでも美弥に居座っていてもしょうがない。腹も減ったし、談之助さんに声かけて、ヒコク、jyama、T田くんと出て、近所の焼き肉『トラジ』に。同じトラジでも中野のあそことは違った上品な店で、豚足など、懐石料理みたいな量。ほぼ談之助の独演会となり、私と古い落語家の月旦になる。これ、こんなとこでしゃべるのはもったいないからロフトで金とって聞かそうよ、と。

ヒコクと長野の花火の話、鯉の塩焼きの話。jyamaさんも花火マニアだそうで、ぜひ今度一緒に、と誘っておく。Tくんjyamaさんとまたいろんな話、獅篭の話なども。

談之助は明日の天気を心配していたので
「屋外での仕事?」
と訊いたら
「いや、近所の小学校のプール開き」
と。相変わらず危ない男だ。なんだかんだ盛り上がって2時お開き。タクシー相乗りで。毎晩連続で午前様。風邪の治癒するわけもない。

Copyright 2006 Shunichi Karasawa