裏モノ日記

裏モノ採集は一見平凡で怠惰なる日常の積み重ねの成果である。

16日

日曜日

T/O切開

タイトル:切って産みます。

朝7時半起き。このところの体調、毎日起床時が一番悪い。胃がムカつき、ノドがいがらっぽく、しぶり腹で足が攣る。入浴して炭酸水のんで、朝食食べてやっと本調子になる。逆に言えばその後一日、体調に関してはまず不都合を感じないのがなんともありがたい。芝居については、とにかく声をつぶさず楽日を迎えられたのが何よりうれしい。

朝食、スイカが出る。うれしい。母に今日の芝居の時間を告げる。11時までに雑用すませ、12時5分前に池袋・東京芸術劇場小ホール1楽屋に到着。楽日にして初めて遅刻ナシ。

ブタカン早坂さんからバラシに関する指示、そのあと橋沢座長からダメ出しいくつかあり、私のセリフが昨日は声を厳しくしようとしたあまり怖すぎたので、も少しコミカルに、という指示。とにかく千秋楽、楽しんでいきましょう! と。打ち合わせやら稽古やらに一ヶ月半、長いと思っていたがそれも含めてあっという間だった。まさに実に、あっという間だった。

パルム役の麻衣夢ちゃんの、本当に小柄なのにパワフルな動きと声量、このギャップのかもしだすキャラの魅力。

コムテツというタイトルにピンとこない人でも、彼が出てきたとたんに“あっ”と思うであろうなり切り様の佐々木輝之の融通無碍な芝居。

コメディエンヌ演技が初めてとはとても思えぬヴィダル役の原田明希子の底力。
スリムというよりスキニーな体格から爆発的なキャラが発散する大村琴重。
NCという芸名がニュークリアを意味するのもむべなるかな、と思える破壊的ギャグの男、NC赤英が純情な青年マネージャー役に最後に変身するという、意外性もいいところのキャスティング。
本人の性格とは真逆の高圧的な役柄なのに、なぜかぴたりと決まっていた菊田貴公。抜群の舞台感覚と運動神経でギャグシーンもアクションシーンも全てをホームとしてしまう天才・親川幸世。
長い手足とその美貌(?)一度見たら絶対に忘れられない印象を残す特大個性の持ち主、偉大なる乾恭子。
重厚な声とややギクシャクなダンスのギャップそれ自体が笑いを誘って、何やらうらやましかった渡辺克己。
時に稽古中厳しい意見を述べつつ、あぁルナには珍しい、徹底した悪役を見事に演じていた小林?里。
猫の役、ってのが地でいける動きを見せる樋口かずえ。
犬の役とは思えぬ体形が今回一番の儲け役と思える松山幸次。
対照的なガリガリ体形を武器に、オタク的知識が炸裂というこれも一度見たら忘れられない特異キャラ、モヤシこと萩原幹大。
小柄で童顔で真面目でボクシングの二回戦ボーイで、この劇団のカラーとは違うように思えるんだけど、それがぴたりとハマる助川玲。
やや影は薄いが顔は二枚目で、その薄さを個性にすれば武器になると思う岡田竜二。
反対に個性の塊みたいな外見とは裏腹に繊細な伊藤誠吾。
いきなりこういう劇団に加わって浮かないか心配だったのだが、そこは新人の強みでどうどうおいしいところをさらっていったブサイコロジカルの水波桂。
美加子はじめとするダンサーたちのはつらつとした動きの魅力。
これら個性の塊みたいなメンバーを、自在に泳がせ、遊ばせながら、締めるところをきちっと締めてチームを構築する“ブラジルサッカー”的なやり方で劇団をまとめる橋沢進一の演出力。勉強になりました。

もちろん、ここの劇団が最高だとか他のところと比べてどうだこうだというつもりはないし、最近の演劇に無知な私にはそんな資格もない(あぁルナのことを褒めるのは実際にここが私にとり楽しいからであり、うわの空と比較しているわけではない)。第一、この劇団にしてからが、私の持つ演劇の価値観等とは(当然だが)異なっているところも多々ある。しかし、その距離感を保ちつつ、その上で実に楽しく参加できるという、ここのオトナ的なところが本当にうれしい。この距離感が許されず、座長の主義主張に自分自身の個性を滅してを融合することを強制されるところというのはどんなに芝居の内容が好きでも、すでに自己のアイデンティティが確立した者にはつらいのである。そういうのは劇団とはいわない。宗教団体である(あ、やはり嫌味になるか。なにぶんにもああいう形で離れた直後なので、そのような意識による比較が日記の記述に漏れ出るのはいたしかたない。うわの空ファンでそのような記述を読んで気分を害された方がいたらお詫びしておく。ただし、言わせてもらえばあそこにはホントに信じられない扱いを多々、された上での断絶なのである)。

ロフトのさいとうさんが楽屋に来てくれて、8/4の『渋い声ナイト』出演の件で橋沢さん、渡辺さんと名刺交換。渡辺さんの声を聞いたとたん、クラッときていた模様である。虫やしないに、とマクドナルドのチーズバーガーを買ってきたら、ダンサーの子たちに“カラサワさんもマック食べるんだー”と言われた。私は美食家のように思われているが、実はファーストフード、コンビニフードに関しては一家言あるのである。

舞台に関しては、演じていて楽しかった、という一事を除いて、あとは大いに自分を責めたい。本番に強い、を自覚していたのに、モヨるは噛むは。緊張感があまり気安い劇団だけに醸成されなかったのが因か。まあ、かろうじてトシの功の存在感くらいが見所か、といったくらい。恥ずかしい。

それでも無事に楽日挨拶までこぎつける。終ったあと全員に握手、急いでお客出し。QPさんやでんたるさん、FKJさんはチラと顔を見たくらい。うわの空の小林三十朗、それから金沢柱くんが観に来てくれていた。jyamaさん、rikiさん、と学会の植木さん、狩谷さん、大沢さん。それにはれつさん。さらには芦辺拓さんまで来てくれていて、母と話をしていた。母が来たとき、楽屋にわざわざお肉くんが楽屋に報告に来て、
「お若い方ですねえ!」
と言っていた。“奥さんかと最初思いました”って、それは言いすぎ。著書にサインする。さっかさんとライオンさんも買ってくれた。さっかさんは舞台というものを生で観たのはこれが初めてだそうだ。

それからすぐ、裏でバラシ開始。床はがし、トラックへの積み込みなどをちょっと手伝う。ダンサーや役者さんたちと、缶ビール飲みつつ、舞台裏の床にベタ座りして雑談。これが楽しく、いろいろ語る。あっという間に8時。小屋を出て、西口前やるき茶屋で打ち上げ。rikiさんとjyamaさんは連れ立ってやってきた。おれんち話で盛り上がっていたようである。

オノ、マド、コバーン、jyama、riki、はれつといった私関係が自然に固まるが、座長の乾杯の音頭で役者たち、全員立ち上がってお互いに乾杯、席を移動して乾杯々々。もうあとは無礼講。コバーン、相変わらず熱く語る。いかにも演劇人らしい。はれつ、jyamaさんともにヴィダルの原田さんの演技を褒めるので、彼女はこういうコメディエンヌ演技はこれまでやったことがない、と言ったらはれつさん驚愕していた。
途中で植木不等式さんも来る。何か60年代ぽい服装。ビートルズ関係者が太ったというような。菊ちゃん、美加子ちゃん、麻衣夢ちゃんなどとも話す。本当はこないだのバスキアに出演する予定だった、と言ったら麻衣夢ちゃん驚いていた。

11時ころ、jyamaさんが途中で酔って寝てしまった。この人には珍しい。いつもなら送っていくのだがこういう席ではそうもいかない。rikiさんには悪いが、タクシーで家まで送ってもらう。大丈夫か?

それから3時くらいまでみんなとあれこれダベり。菊ちゃんが私を“ブルちゃん、ブルちゃん”と呼んでくれるのがうれしい。

オノが明日から帰省なので、3時、名残惜しいが挨拶してタクシーで帰宅。嵐のような公演、これにて終了。明日は予定を何も入れていない。ゆっくりとバテを楽しむことにしよう。今回、これ関連で原稿〆切等で各位に大いに迷惑をかけた。因は全て私のスケジュール処理の甘さにある。お詫び申し上げます。

Copyright 2006 Shunichi Karasawa