裏モノ日記

裏モノ採集は一見平凡で怠惰なる日常の積み重ねの成果である。

15日

土曜日

カーッときたウルトラマン

てめえ怪獣、なんだその口の利き方は。

朝8時半起床。思ったより体にもガタ来ず、ノドも枯れず。まだ若いな、と満足。9時朝食、スープにバナナ、ブドー。バナナよりスイカが食いたい暑さ。

本日は久しぶりに午前中ゆっくりで13時小屋集合。と思ってのんびり仕事をしていたら、あっと言う間に12時半になってしまい、仰天して池袋までタクシー。奮発したつもりだったが、土曜のくせに大混み、しかも工事中。いつもなら30分かからずに着く距離に45分かかった。しかも、運転手(初老のおじさん)の顔が貧相なのであちゃあと思う。

貧相が悪いというのでなく、乗ってバックミラーに映るその表情を見たときに、
「ああ、この人はたぶん、人生において、人と争って勝ったことというのがなかろうなあ。こういう人は競争が下手だろうなあ」
と思ってしまったのだが、その予感的中で、信号運にしろ割り込み運にしろ最悪。車線を移ると、移った車線はさっぱり進まず、元の車線の流れが急にスムーズになるという具合。とうとう15分遅刻した。行くとすでに舞台上に全員集まってダメ出し中であった。私は昨日の“コムテツ早くしろい!”の遅れを注意された。とはいえ、ここの劇団はそういう注意にもみんな冗談を飛ばし(特に親川)、笑いが絶えない。

ダンスシーンのみ合わせあり。最後の“伝説の楽曲演奏”のところで、ウトゥーの子分のバズ(助川玲)を盾にしているキネッタ(親川)が、助川くんのシャツをまくりあげて乳首をいじる。これを稽古のたび必ずやる。舞台での配置上、見ざるを得ない菊ちゃんや明希子ちゃんが“なにやってんのー!”と呆れながらも笑っている。

本日は公演中唯一のマチネあり、二回公演の日である。楽屋の雰囲気もみんな、心なしかテンション高い。佐々木さんが空気乾燥防止用のスプレーで、水を誰彼の衣装にかまわず吹きかけようとしていて、わーっとあわてて制止する。そのときあげた私の声が面白かった、と岡っち(岡田竜二)にウケていた。

jyamaさんから魚肉ソーセージ差し入れあり。彼女が来るのは明日なのだが、千秋楽では差し入れが余るだろうから、と、前日に持ってきてくれた。気配りに感謝。渡辺克己さんが例のいい声で
「魚肉ソーセージは好物なんだ」
と言ってさっそく食べている。この人、常に楽屋で無意味に何かしゃべるか歌うかしており、
「覚醒剤でもやってんじゃないのか」
とみんなに言われているが、その内容が
「痔になると肛門をあまり充血させられないから、一回で出せるウンチの量が制限されるんだよなあ」
などというもので、佐々木さんから
「そういう誰も知りたくない知識を口にすんじゃねえよ親父!」
とツッコミが入っていた。

外に出てきたメンバーから、雨がかなり降って雷が鳴っていると報告があった。しかも中央線だか山手線だかが止まっているという。受付に確認すると、開演5分前でまだ来ていない前売りが20枚以上あるという。雨は小降りになってきたので、急遽、開演を15分オシにして、橋沢さんが前説でその間をつなぐ。これが出来るのがこの劇団の強みだな。しかし蒸す。早坂さんが劇場にもっとエアコンを効かせるようにと頼んだら、これが限界で、表の扉を開けていると、外の熱気と湿気がいくらエアコンを効かせても入り込んでくるのだそうである。

マチネ公演、やっとセリフも入り、動きにも余裕が出来てきて結構だが、気の緩みもあるのか、凡ミス続出(私ばかりでなく)。橋沢さんが控室でダメ出し用のメモをモニターにらみつつとっている。私のミスは家宅捜索のところのきっかけをちょっとタイミングずらしてしまったこと。も少し奥の芝居でいろんなことやろうと思っていたのが裏目に出た。進行に支障はなかったけれど。

この回の最大のウケはアイドルおっかけオタク三人組のリーダー(萩原幹大)による“絶対領域解説”。拍手が来た。楽屋のモニター見ていた全員に大ウケ。じつはこの回に、ヤングジャンプ増刊『慢革』で『あいどるDays』の原作を書いている北原雅紀さんが来てくださっていたのだが、やはりここがツボだったようで、彼らの描かれ方が
「参考になりそう」
と日記に書いてくれていた。あと、ヴィダルとモンローが
「きれいどころの女優さんなのに弾けっぷりが」
凄い、とのこと。

終ってすぐお客出し。雨にも関わらずよく入ってくれた。イニャハラさんも来てくれて、梅干しを差し入れ。それと、なぜか、昨日までほとんど売れなかった単行本がよくハケた。時間オシだったんで告知出来なかったにも関わらず。なぜか?

そのあと、全員舞台衣装のまま、写真撮影。ソワレまでの時間、外に出る。雨はもうやんでいたがさすがに蒸す。歩いて手打ち麺のラーメン屋を見つけて入るが、まあまあといった味で特筆すべきものなし。チャーシューが柔らかすぎ、大きすぎ。受付のところで(この劇場は楽屋、廊下に電波が届かない。これだけが難である)モバイルでmixiやっていたら麻衣夢ちゃんを見つけた。原田明希子ちゃんもmixiにいるというがまだ見つからない。

デブ犬役の松山幸次くん、その体形を裏切らず楽屋でしょっちゅう差し入れのお菓子類など何かかにかを食べている。渡辺さんがそれを見てツッコミを必ず入れて
「そうしょっちゅう食ってんじゃないよ、少しは胃を休めろよ」
「休めてるよ」
「いねえよ、しかも甘いもんばかりだろ。だから太るんだよ」
「余計なお世話だよ」
「でーぶ」
「はーげ」
などと、小学生みたいなやりとりを41と31の男同士がやっているのを聞いていると笑えて仕方ない。

若手のお肉くん(伊藤誠吾。この前の下北でやった『コムテツ』でマンガ肉のかぶりものをかぶって出演したのでそれ以来“お肉”と呼ばれている)からちょっと相談事受けて、ロビーで話す。いろいろとものを書いているそうなので、読んで欲しいとのこと。ノートにメモ的に書いたものを見せてくれる。ちょっと面白い。しかし断片ではダメ、まとめるということが一番大事なんだよと教えて、完成させて“人に読んでもらう形にして”くること、とレクチャー。

で、夜の部。やっと芝居が堂に入って来たという感じで、もう明日ワンステージで終わり、というのがどうにもこうにも惜しい。舞台裏のモニターでみんな、ダンスシーンになると振り付けの真似をしている。オタクダンスや『セルフコントロール』のところは私もつい、体が動く。ラストの佐々木、親川をモニターで見ていた橋沢さんが
「贔屓目かも知れないけど、こいつら本当に面白いと思うんですよ。なんで売れないのかと思うくらい」
とつぶやいた。私も同感。今回近場で見てさらにその思いは強い。力になれれば、と切に思う。

夜の部、河崎実監督、佐藤祐一さん、Yくんなどが来てくれていた。佐藤さんに“楽しそうでしたねえ!”と言われる。今回の私の演技を見た人の最大公約数の感想が
「リラックスして楽しそう」
であった。全ての共演者のおかげ、であろう。河崎監督、“使えそうな役者がいろいろいるねえ!”と喜んでいた。橋沢さんに紹介。

監督は今日は連れがいるので、と帰るが佐藤さん、Yくんは打ち上げに。みんな誘って和民に。佐藤さん、オノ、橋沢さんは以前、ところもこの池袋のノタガで羊食った中。オノと橋沢さんの掛け合いが不思議なくらい息が合っている。橋沢さん、“では乾杯の音頭をオノさんに”とふったり、それでまたオノが、“では明日もがんばりましょう”などと音頭とってしまったり、他のメンバーもそれで納得してしまったり。融通無碍な劇団である。

飛び込んできたニュースは赤塚真知子さんが死去というもの。眠り続ける赤塚不二夫に声をかけながら見守る愛妻、として武井記者の『赤塚不二夫のことを書いたのだ』にも登場。一度だけ、『フィギュア王』のインタビューで下落合の仕事場にお邪魔した。真知子さんが応対に出て、広い、ほとんど何もない部屋の隅っこで、毛布にくるまって寝ていた夫を起こしてくれた姿が印象的。眠る夫より先に逝くとは。しかし、それとは別に聞いてアッ、と思う。昨日、渋谷から池袋へ向かう途中、落合の路上で暑いさなか黒いスーツとネクタイに身を包んだ藤子不二雄A氏を見かけたのである。あれはこの密葬だったのであろう。

ワイワイ話し、騒ぎ、かつ飲み、今日も午前様、どころか3時過ぎる。こんなに連日飲みまくった一ヶ月も珍しい。途中で同じ和民の別フロアで飲んでいた美加子ちゃん(ダンサーのリーダー)、親川くんなども参加。親川くんとはちょっと真面目な話もし、劇団への彼の深い思いを聞いて心動かされる。決して、耳に心地いい言葉ではない。いまのここの劇団の置かれた状況の、思いと裏腹にうまく行っていない部分を的確に認識し、それを自分たちの力だけではどうにもできないこととして、いらだちはもちろんありながらも、前向きに改善していきたい、という意志のある“意見”である。大きくうなづき、公演後、きちんと対策を考え具申することを約束する。

そろそろ帰る参段。オノがてきぱきとそれぞれ帰宅の方向をチェックして、タクシー2台相乗りでということにして、
「先生、××円出してください」
と分乗組へのタクシー代を請求してくる。

「なんか、ハタから見てると私がカツアゲしているようですが」
と。親川、オノ組となり、さっきの話の続きをしながら帰宅する。考えることいろいろあり。

Copyright 2006 Shunichi Karasawa