裏モノ日記

裏モノ採集は一見平凡で怠惰なる日常の積み重ねの成果である。

26日

日曜日

司法書記爺さん掘ったれば

自分の土地であっても掘って出た大判小判は届け出が必要じゃな。朝9時半起床。7時前にちょっと目が覚めた。入浴、洗顔、服薬如例。朝食珍しくいつもの時間。豆スープカップ半杯、同じくカップ半杯の卵入り味噌汁。今日はある意味地獄の三連チャン。体力保つよう、というかテンション保つよう留意せねば。

1時まで日記つけなどやって、新宿へ。いい気候、いい天気。桜の花も8分咲き。お花見もかなり長いこと行っていない。3月には年度末の〆切り攻勢や新連載、連載終了、新番組など出版や放送の仕事をしているといろんなことがワッと一気にやってきてドタバタし、花見どころじゃなくなってしまうのだ。

人混みの中、東口交番前で待つうち庵野秀明似の三才ブックスSさん来る。二人で雑談しながらしばらく待つが、おぐりいっかな来ない。オノから電話で、もう6階の有隣堂に、おぐりと入っているという。交番前集合って言ったじゃないか、と呆れてすぐ6階へ。控室におぐり入って、書展用のサイン本にサインしている。案の定、おとつい青葉で話したことは全部忘れていた。まあ、おぐりだからしゃあない。かなり緊張しているようで、サイン本あと数冊残して食事をとろうとしたり、またサインしようとしたり連絡誰かにとろうとしたりと落ち着かない。舞台度胸はあんなにある子なのに一人だとどうしてこう緊張癖がとれないのかな、と苦笑。アウェイに慣れてこそ本当の女優なのだよ。

団員の久保田くんがいろいろ付き人的に動いている。今日の記録係のモナぽさんもサンダル履きで来る。他にも三才の人たち何人か来て、いろいろ作業。ラジオライフのTくんをおぐり、毎度々々
「Sさん」
と間違える。
「TさんてどうもSさん顔なんですよね」
と、何言ってんだかわかんないがおもしろい。

書店の担当者の人と挨拶。有隣堂さんはこのマイシティ6階で長年やってきた山下書店の後に入ってまだ一年、なんとかお客さんを定着させたいというところらしく、今回サイン会を急遽引き受けてくれたのもその一環らしい。おぐりが、コーナーにずらりと『魂食!』を並べてくれているのを見て驚いていた。

マイシティは4月から“ルミネエスト”になるそうだ。感慨はそう深くない。そもそも私にとってはここはいまだ“新宿駅ビル”であり、マイシティなどというスカした名前になったのを苦々しく思っていたのだ。今さらどう変わろうとかまわない。ただ、このサイン会は“有隣堂新宿マイシティ店”最後のサイン会になるわけでそういうのは面白い。

3時サイン会開始、シェフ帽姿のおぐりと並び、ちょっと挨拶して開始。サイン希望者を椅子に座らせてじっくり話などしながらサインする方式で、まず第一番は“このサイン会のために”札幌から飛んできたというでんたるさん。そらからも、主に並んでくれたのはブジオに書き込みしていてくれた人とか、こないだのロフトに来てくれていた人とか、おぐりの追っかけ的な人が多くて、私単独のファンは少なし。おぐりゆか初の単著サイン会ということでこれはいいことであると思う。病気を押して出てきてくれたという方も二人もいた。二見のYさん(『雑学授業』の担当)が来てくれていたのには驚く。こないだの二見でのおぐりサイン会には三才のSくんTくんが並んでいたので、そのお返しか。

中で、私の日記を読んでおぐりのファンになり(ついでに快楽亭やトンデモ落語のファンになり)公演のポスターを新宿の行きつけの店に貼りますので受け取ります、という女性がいた。このあいだのブジオの書き込みに、ちょっと記憶に残る文章を書いていた人だったので、会えて嬉しかった。

1時間カッキリやって、花束や四つ葉のクローバー(だけの)鉢植え、お菓子など差し入れを受け取り、楽屋へ。書店用のサインをする。おぐりのサインは何か正体のわからないヘンな動物の腹に“おぐりゆか”と名前が書かれているもので、みんなでそのサインをのぞきこんで
「これ、何なんだろうねえ」
と言ったらおぐり、こともなげに
「犬です」
というのでみな、驚愕。私などはケンミジンコだとばかり思っていたのだが哺乳類だったとは。
「だって体がないじゃん」
「ついてますよー、これ」
「え、このシッポだとばかり思っていたのが体?」などとしばし楽屋内騒然。

この雰囲気に今回の担当者さんも三才の営業さんも、完全におぐりファンになっていた。彼女にこういう風に間近身近で接すると、たいていの人がファンになる。得難い才能だろう。しかし、いまはまだ、そのベクトルは内側向けだ。その距離を少しづつ広げて、またカメラやマイクを通してもその魅力が完全に伝わるようにすれば、誰にも負けない大スターになれる。それがおぐりファン全員の願いであるはずだ。
店を出て、食事に。日曜の午後でどこも一杯で一、二軒断られ、通り沿いの青竜門に入る。何やら秘密の地下蔵といった迷路みたいな暗い通路を通って店内に入るつくり。結局、私はこれで中華四日続きとなり、おぐりはまたエビチリを頼んで、土曜一日おいて三日連続のエビチリとなる。

なんだかんだぐだぐだ話していたら、もう5時過ぎになり、次の予定である6時の笑門入りが間に合わなくなる。中央線に飛び乗って、6時15分吉祥寺。半に笑門入り。すでにお客さんはいっぱい。バーバラも待っていたが、なんと岡田さんもいた。二人の会話を聞くとそのまま漫才である。

そして、有隣堂でお会いした(ポスター受け取っていた)女性(jyamaさん)が着替えて来てくれていた。あれから家に帰って、急いで夫と子供と姑用の食事を作り、着替えてかけつけてくれたそうである。この情熱は何、と思って少し話をする。

「おぐりさんを初めてライブで見たとき、これは天才だと確信しました。これから彼女が大女優になるまでを見届けようと思います」とのこと。思わず“よろしくお願いします!”と頭を下げる。名刺貰ったが、某一流企業(完全な非オタ系)の、危機管理の仕事をしているとか。ある意味、おぐりに惚れ込むということはそれ自体危機みたいなものなので(笑)、最適の人選かも、と思う。

トーク開始、前半は本についてのこと、子供時代の食のこと、などロフトでの前半トークをなぞるようなもの。ちょっと笑いも散発的でダレたかな、と思ったので、飛び道具としてチャイナハウスの蟻酒(こないだみみんあいさんがブジオのスタジオに持ってきてくれたもの)をお客さんにふるまうと、果然、これが大ウケ。カップルのお客さんで、二人で飲んでキャアキャアと楽しんだかパニックしているんだかはしゃいでいる人もいた。
「やだ、歯に蟻がついてる!」
と女性が男性の口元を見て言うので
「はい、たこ焼きを食べると歯に青ノリがつきますが
このお酒は歯に蟻がつきます」
と言う。

サイン会と販売用の休息をはさんで、後半はおぐりの料理話に。これがよくて、おぐりの言葉のいちいちに笑いがはじける。ふむ、次は食べ歩きではなく料理本かな、と頭に浮かぶ。発想がそのまま商品になる子は強い。

9時、予定通りトーク終了。笑門の御主人にお礼と挨拶。おぐりがファンにサインしたりしているのを待つうち、表で何人かに握手や写真撮影を求められる。次はここから渋谷に行き、スカイパーフェクTVの『チャンネル北野』内『タカベガス』コーナーへの出演。おぐりも、タカさんにUWANOBON手渡したいというのでついてくることになっているが、時間がかなりギリギリ、というかこの時点で遅刻必至。オノがかなりイラついて電話するが、向こうも前の収録(叶俊太郎さん)が押しているというのでやや安心。

渋谷まで井の頭線、だがここでトラブル。タカさんに渡したり番組で告知に使うものなど持たせていた久保田くんと駅ではぐれてしまった。どうも、来たときがそうだったから、というのでJRの方に乗ってしまったらしい。連絡をすぐとろうとするが、こういうときにおぐりの携帯が電源切れ。

jyamaさんが協力を申し出てくれて、渋谷に到着したらすぐスタジオで連絡とり、私が渋谷のハチ公前で待っているので、そこで久保田くんを拾いましょう、と。おぐりが、あせりまくった顔で
「いえ、そこまで御迷惑かけるわけにいかないので」
と辞退しようとしたが、
「おぐりさん、いまは何とか善後策を立てなければならない状況で、そこにある程度自由に動ける私という人物がいます。こういうときにはそれを使うのがベストの選択ですし、ファンの好意は素直に受けた方が女優らしいです。そういうことにしましょう」
と、教師が生徒に教え諭すように、やさしく、しかしぴしりと言う。さすが、危機管理職というのは伊達でない。すぐ、オノと彼女で携帯を教えあって、連絡とれるようにする。

人妻であるjyamaさんにこういうことを言うとやや不穏当に聞こえるかもしれないが、上記の言を聞いて、彼女に“惚れた”。これは少なくとも今までのおぐりファンにはいなかった種類の人であるし、まさに今のおぐりゆかには、こういう種類のファンが必要なのではないか。心の中で何度も膝を叩く。

彼女をハチ公前に残し、我々はタクシーで渋谷ビデオスタジオ。私の仕事場のマンションのちょうど裏手、である。10年このスタジオの前を通っていて、入るのは初めて。と、いうかてっきりここは貸しスタジオだとばかり思っていた。見るとフジテレビが所有しているスタジオなのであった。

一応守衛らしい人はいるが、頼りないお爺さんで、ほとんどなんのチェックもなく通される。スタジオで制作会社イーストライツのIさんに挨拶、すぐ携帯を電源につないで久保田くんに連絡。私はディレクターと打ち合せ。メイク終えて戻ると、無事、久保田くん、jyamaさんと到着。おぐりが世にもホッとした顔をしていた。

……ところが、まだトラブルは終わってなかった。番組の終わりに、『魂食!』の告知をする予定なのだが、私もおぐりも、本を手元に持っていなかった!今日はずっと三才ブックスさんがついていると安心していたので、ここまでは気が回らなかった。蒼くなるところを、サイン会で本を購入してくれたjyamaさんが、カバンの中から一冊とり出して
「これ、使ってください」
と。平身低頭、助かった。

逆に井の頭線の中でjyamaさんの申し出を断って彼女を帰してしまっていれば、万事休すだったわけである。これを思っても、人の好意には甘えるべき。

番組開始、ガダルカナル・タカがマスターのカジノ・バーという設定で、私が自分の人生について話し、そこに放送作家の関秀章氏と林家いっ平氏がからみ、彼らの知人関係で私と接点がないかどうかをチェックするという趣向らしい。

いっ平氏に、リハのとき、伯父が小野栄一であることを告げると案の定驚愕していた。
「あーっ、小野センセイ! 楽屋に自分の昔の写真とか持ってきて、仲間ウチに自慢話するんですよねえ」
と。大笑いである。

話はどんどん進み、1時間半回しの予定が2時間に延び、終わったのは12時ちょうど。控室にもどるタカさんといっ平さんに、おぐりが走っていって名乗り、UWANOBONを渡していた。

控室に戻り、jyamaさんに本を返し、御礼代わりにおごらせてください、と申し出る。まったく、酒でもあおりたい気分である。おぐりは今から走れば最終に間に合うから、と先に出ていったが、私たち三人がスタッフに挨拶終えてスタジオを出たら、
「やっぱりつきあわせてもらいます」
と、外で待っていた。

一軒、この時間でも大丈夫なおしゃれな居酒屋に入ろうとするが、応対があまりよくないので出て、新楽飯店に入る。途中、中年の男性が、
「……ひょっとしてテレビ出ている人ですよね? カルトの?」
と問い掛けてきて、写真を一緒に撮らせてくれ、と使い捨てカメラで私の写真を撮る。オノに聞いたら、スタジオを出てすぐあたりのところで私に気づき、何回か顔見をして、近くのコンビニに走ってカメラを買い、声をかけてきたとか。

新楽飯店、青島ビールで長き一日に乾杯。ここに至ってまだ会話の中で三才のTくんの名前を覚えず
「Sさん(同僚のSくん)、いやYさん(二見書房のYくん)、いやTさん(単なる間違い)、イエイエTさん」
とやっているおぐりに、jyamaさんが
「これもまた天才の証拠ですね」
と感服したように言う。何をやってもおかしい。しかしよほど疲れていたのだろう(連日の稽古と今日の三連チャンだ)、ビールから紹興酒に切り替えたあたりですぐウトウトしはじめ、壁によりかかって眠ってしまう。帰してやればよかったかもしれないが、電車の中で寝て寝過ごすよりは、と思う。

jyamaさん、オノと、寝ている本人を前にその売り出しばなし。jyamaさんがまだほんの数回しかおぐりを見ていないにも関わらず、その才能の本質から欠点から、ちゃんと押さえているのに驚く。これからのおぐりの課題は、彼女をどう有効(友好)利用できるかにありそうだ。みんな、本当に心底、きみの成功を願っているんだよ、だからがんばれよ、とその寝顔に向かってつぶやく。

イカボール、大根餅、大根卵、腸詰めなどの定番の他、豚足煮込みを食べて、残りの汁をご飯にかけてかき込む。途中で目を覚ましたおぐり、ちゃんとエビチリを頼んで食べ、“ここのが一番おいしい!”と驚いていた。確かに頭まで使っているのはここだけ。これで今日は昼夜二回エビチリを食べた。23日からのエビチリロードの終幕にふさわしい味だった。

3時、店を出る。午前様も4日目である。おぐりを近くの終夜ネットカフェまで送り、タクシー分乗で帰宅、ネットだけ確認して寝る。お疲れさま。

Copyright 2006 Shunichi Karasawa