裏モノ日記

裏モノ採集は一見平凡で怠惰なる日常の積み重ねの成果である。

15日

水曜日

シュードラ節

これじゃ身分がいいわきゃないよ。わかっちゃいるけどやめられねえ(カースト制だから)。アソレ、シュー、シュー、シュードララッタ、シュラシュラシュイシュイシューイ……。

朝、8時半起床。夢で何か三人組の演歌歌手グループの一人として歌っている。なんで三人組かというと、寝る前に映画関係の資料を読み、西遊記映画に登場する虎力、羊力、鹿力の三大仙の過去のキャスティングを調べたりしていたからだ、と思う。さてもマニアックな。

大映映画1952年製作の『大あばれ孫悟空』で虎力大仙を演じたのは光岡竜三郎で、この人は『赤胴鈴之助』シリーズで、どじメイクのまぬけな悪役・宝蔵院岳林坊を演じて記憶に残っているが、戦前は東亜映画の主役級スター。東亜等特院映画(マキノ正博が京都の等特院という寺の境内に作った撮影所)で膨大な数の映画に主演しているが代表作は坂妻の『雄呂血(おろち)』のパクリ映画『強狸羅(ごりら)』である。タイトルからしてスゴい。

9時朝食。ホウレンソウのスープ。葉緑素をそのまま体内に取り入れている、という感じ。皆神龍太郎さんからメール。某誌の原稿、皆神さん通しで依頼受けて、こないだ書いて担当者に渡したのだが、そのお礼。〆切を延ばしに延ばして担当Sさんを蒼くさせたが、出来についてはSさん大変気に入ってくれたようで、メールでの返信のテンションがかなり高かった。

新聞に民主党の謝罪広告。ここまで徹底的に負けるとかえって凄い。とはいえ
「あたかも三〇〇〇万円が武部勤氏の次男の金融機関の口座に送金され、ライブドアの資金が武部幹事長周辺に流れたと指摘しましたが」
という文章はヘンであろう。“あたかも”は“まるで”“さも”と同じ比喩の用法の語なので、“〜のように”“みたいに”と言った語を後ろに置かないとおさまりがつかない。この場合だと
「あたかも三〇〇〇万円が〜流れたかの如く指摘しましたが」
 という風にしないと。

 推敲の暇もなく出したんだろうということがわかって民主党内のゴタゴタしている様子がよくわかる文章だと言えるかも。あと、武部勤氏、とこっちに敬称をつけて、次男は次男と呼び捨てなのもバランスを欠く。“武部勤氏ご次男”としないと。そもそも、どうして名前が出せないのか?

今日はマンションの配水管清掃があり、オノはマンションにハリついていなければならない。出勤前に今日の『魂食!』完成打ち上げの八起ツアーに行く小田急ホームライナーの指定券を買っておいてと頼んでいたら、電話あり、予定していた時間の列車は相模大野に停らないらしいので、次発ので買ったと。驚いて、すぐ本日の打ち上げメンバーにメール。間際になっていろいろあるもの。

1時、タクシーで時間割。双葉社『EX大衆』インタビューで、昭和ガメラのことについて。よくこそ今の時期に来た。ライターさん、名刺を見て
「事務所の住所お変わりになりましたね」
というので、イエ、住居は移しましたが事務所は同じですがと言うと、
「前は参宮橋だったんじゃないですか」
と。十年以上前の話である。よくそのときの住所を覚えているものだ。

昭和ガメラの魅力を語るのは楽しいが、角川大映、制作発表トークや今回の湯浅本など、これだけ『小さき勇者たち』のパブに協力しているのに、試写の招待状もよこさぬ。話しているのを隣の席でじーっと聞いているおばさんがいて、何だろうこの人、と思っていたら、撮影のカメラマンさんだった。女性カメラマンは何人か知っているが、おばさんは初めて。

事務所のビデオ棚の前で写真を撮る。細かいゲラチェックなどの日時はオノに打ち合せさせる。ああ、楽だと思うが、もし彼女に万一のことがあれば私はまったく何も出来ない廃人同様になってしまうような。

昨日のブックマン社の本、最初は吾妻ひでおがイラストというので快楽亭とあじま先生のカップリングというのがよくわからなかった(結局多忙を理由に断られたそうだ)が昨日、帰りを梅山さんと一緒だったオノが聞いたところ、『失踪日記』にあやかって、最初は快楽亭ブラックの『借金破門離婚入院日記』みたいな本にするつもりだったらしい。なるほど、それでか、と疑問氷解。すごいこと考えるものだ。
ゲラチェックいくつかやって、背中がパンパンなので(いい天気なのだが、カラダはすでに明日の気圧の崩れに反応しているようだ)タントンに行き、マッサージしてもらう。ついた先生、
「今日は夜も仕事なんですか?」
と訊いてくるので
「イエ、仕事ではないけれど、本の打ち上げで焼肉屋さんへ」
「焼肉かあ、いいなあ。うちの嫁さんも焼肉大好きなんですよ。どこのお店にいくんですか」
「相模大野なんです」
「相模大野! ボク、厚木にいるんであそこらへん、行動範疇なんです。どこのお店なんですか?」
というので八起教えて置く。布教活動。

その後、渋谷近辺のグッズ屋回る。おぐりとバーバラにバレンタインデーのチョコを貰っているのでホワイトデーのお返し選出。二人のキャラに合ったものそれぞれ見つけて購入。やはりこういうときに渋谷は便利である。

6時20分、小田急新宿駅西口地上改札。三才ブックスSさん、写真の大内さん、装丁の岡田デザインさんとそこの事務所の女性と、遅れて参加のみずしなさん、バーバラをのぞき全員集合、のはずがおぐり来ない。携帯に電話、迷って南口に行ってしまったらしい。前に西口で待ち合わせたじゃないかー、とか言いながらドタバタするが、なんとか車内で落ち合えた。ホームライナー、車内紫煙濛々たり。目がチカチカするほど。まあ、経済大国日本を支えるためにせっせと働いて疲れた体で遠距離通勤の自宅まで帰るサラリーマン戦士たちのつかのまのリラックスタイムにケチをつけたくはないが、このケムリの濃さはなんぞやと思う。それにしても、車内でカップ酒をチーカマ肴に啜るおじさんたちの姿にはそぞろ哀れを感じる。これじゃサラリーマンという仕事に誇りは持てない。

車内で完成した『魂食!』、斎藤さんから配られる。写真が驚くほどいい。おぐりの顔というのは、写真によって別人ではないかと思えるほど違って写る(大内さんも岡田さんも“こりゃなんじゃー、と苦労した”と言っていた)のだが、その中でこれはいい、という顔ばかりちゃんと選んでいる。バーバラも笹木桃ちゃんもGJ。
35分ほどで相模大野、それから商店街歩いて八起。相変わらずのお父さん、相変わらずのお母さんに迎えられる。自家製キムチと生ビールで乾杯。それからはいつもの肉、肉、肉の饗宴。タン塩から始まってカルビ、ロース、レバ刺し、ブラタン、ユッケ、サービスのラムチョップ、ラム肉。レバ刺しの塩角切り、もう鼻血もの。岡田さんも大内さんもレバがダメな人だったのが食べられる、うまい! と驚いていた。岡田さんのところの女性はあまりおいしいので笑い出していた。最初に食べたときのおぐりと同じ反応。女の子というのはうまいものを口にすると笑い出すのか(この二人しか見たことがないが)。

遅れてきたみずしなさん、バーバラも無事合流、お客が今日は満員だが、女子大生らしい一群が「あ、『世界一受けたい授業』の先生だ!」と、握手と写真撮影を求めてきた。彼女たちの一団と写真撮影、さらにおぐりと一緒にポップ用の写真を撮影。お母さんが『魂食!』を買い上げてくれた。ポスターも貼ってくれるというし、えらい好意。まあ、いつも握手したり写真に混じったり、ここのお客さんにはサービスしているから(女子大生の他にもお客さんに握手いくつか求められる)、そのお返しかもしれない。ファンサービスは決して嫌がってはいけないものだ。

おぐりとバーバラにホワイトデーのプレゼント渡し、肉と酒に酔って11時、辞去。帰りの小田急線の中でも、“月桂冠の社員です”というファンに握手求められるので、みんなで『魂食!』一冊売りつけ(ひどいね)、ラジオも聞いたことがあるというのでおぐりとみずしなさんにサインさせる。バーバラが
「なるほど、これでは唐沢さん、タクシー使わざるを得ませんね」
と言っていたが、私もこんなに握手責めサイン責めにあったのは初めて。小田急線沿線に私のファンは集結しているのか?不思議である。

Copyright 2006 Shunichi Karasawa