裏モノ日記

裏モノ採集は一見平凡で怠惰なる日常の積み重ねの成果である。

7日

火曜日

着床オンエアバトル

誰が最初に女を妊娠させてできちゃった婚できるか、若手お笑い芸人たちが繰り広げる熱いバトル!

朝、8時起床。寝が足りてない割にはさわやかな目覚め。しかし空はどんより気味である。K子はやはり二日酔いでまだ寝ている。

入浴、洗顔、歯磨等すませて9時朝食。トマトのどろりとしたスープ、ミカン、イチゴ。今日は事務所に掃除が入るのでオノを休ませたが、その掃除のおばさんが、K子と連絡がつかなかった(寝ていた)ので今日は来ないことになる。なんなんだ。

今日は珍しく外出の打ち合せ等なし(快楽亭との対談の予定がトンだ)。原稿、たまっているものを片づけねばと、急いでかかる。フィギュア王の原稿(7枚)用に書いたダレン・マクギャビン追悼の初稿を日記に上げる。書き上げてメールボックスを見たら、いまさっき編集から催促のあったところ。速攻で送る。向こうは驚いたろう。

それから『アサヒ芸能』7枚。先日のヨコハマメリーのことから、街の顔のことに及ぶ。3時半、完成させてメール。ここらで体力一時使い果たし、ベッドでしばらく休む。ロンブローゾ『天才論』(改造社・昭和5年)が最近の寝床読書。

5時ころ、携帯に電話。アサ芸K元氏で、原稿中にあった“パンパン”という表記が、アサヒ芸能誌では規定で使えないのでそこの部分を差し替えて欲しいとのこと。アサ芸という雑誌、こう言っては失礼だがかなりの大衆誌なのに、学習誌なみのNGワードがあるのである。書き直しくらいは簡単だが、パンパンの雑学を述べた部分で、私らしい箇所なのでちょっと残念。ここに転載しておく。

「パンパンというのは、戦後、進駐してきた米軍相手に商売をした日本人娼婦のことで、語源は英語の出来ない彼女らが客の注意を引くためにパンパンと手を叩いたから、とも、またインドネシア語で“女”を意味する“プロムパン”がなまったもの、とも言われている。以前この連載でも取り上げたハーフの落語家・快楽亭ブラックの母親がこのパンパンなのだが、本人の前で言うと“パンパンじゃない、オンリーだ!”と訂正してくる。パンパンは兵隊なら誰にでも声をかけるが、高級将校専門の女たちもいて、このクラスになると一人の情夫を決めたらそれ以外では客をとらない。そのため彼女らは“オンリーさん”と呼ばれて区別されていた。米兵なら誰でも、いや、日本人でもかまわずに客を取るパンパンもいて、こういうのは“バタフライ”と言う。花(客)から花へ飛び回る、夜の蝶の意である」

FAXを受け取らねばならないのですぐ事務所に行かねばならないが、かなりクタビレているので、もうしばらく寝て、6時半になってやっと家を出て渋谷へ。送られた雑誌『GLAMOUROUS』を見る。掲載紙在中とあるのだが記憶になく、そうか、確かツンデレのことを電話でインタビューされたんだと思い出すが、なんべんページを繰っても、それらしき記事発見できず。ひさびさにここまで持ち重りのする雑誌を読んでそれはそれで面白かったが(ページに化粧品のサンプルが貼り付けてあったりする)。

アサ芸修正個所、あっと言う間に直して(しかしこういう作業は逆に燃える)メール。それから週プレ『名もニュー』原稿、体調悪化の中、5枚、なんとか書き上げてメール。これで10時。

タクシーで帰って、家でホッピー飲みながらメシ。サントクで買った豆もやし、パスタサラダ、油揚(千切りにして炒め、大根おろしとポン酢で)、海鮮丼。ホッピー2本。海外ものDVD数本と、コロンボ『歌声の消えた海』。コロンボが豪華客船の旅でアカプルコに行く話。今見るとユルユルなストーリィだが、それもコロンボ。珍しく愛人のいる犯人が、妻でなく愛人を殺す。殺される愛人役のプペ・ボーカーが下品な顔でよし。犯人が『ナポレオン・ソロ』のロバート・ボーン、船長が『おしゃれ探偵』のパトリック・マクニー、パーサー役がこのシリーズの『ロンドンの傘』で警部役で出ていたバーナード・フォックスと、妙に豪華。容疑をかけられるバンドのピアニストが『砂の惑星』のドクター・ユエことディーン・ストックウェル、そのバンドのリーダーが『遊星からの物体X』のピーター・マロニー(あの、“ウォーン”と鳴いて燃やされる人)と、SF的にも妙に豪華(?)な配役。

配役のことなどを書きつけていたら、ダレン・マクギャビン死去の記事を見つけた。死亡記事にマクギャヴィン、などと表記していたんで見逃してしまっていた。2月27日、死去。『事件記者コルチャック』のコルチャックももう83歳だったか。
本放送のときタイトルだけ見て、オカルト番組とはツユ思わずたまたま見て仰天し、それからは毎回、全部番組を録音する(まだビデオなどがある時代ではなかったのだ)ほど入れ込んだ。

コルチャックはインディアンの精霊から吸血鬼、怨霊、殺人ロボット、甦った原始人、宇宙人などありとあらゆる超常的存在と対峙するわけだが、それらの怪物たちが20世紀のシカゴに出現する理由と、それらの性質を逆手にとった退治方法に毎回工夫がこらされており(その分、ストーリィには定型があって、見る方に余計な神経をつかわせない)、もう興奮ものだった。

怪物たちはたいてい、シカゴの最新鋭施設に現れる。失われていく影の世界の、現代科学に対する最後の抵抗、というのがこの番組のバックボーンに流れているテーマで、コルチャックは化け物を退治はするが、あきらかに自分もまた、先端科学思想の時代には身の置き所のない、さえない中年男なのであった。

パイロット版にあったコルチャックの恋人などという余計な存在もシリーズでは抹消されてしまっており、とにかく主人公と怪物たちの戦いに絞られているところが快感で、これは『刑事コロンボ』と一対であった。後に、この番組はマクギャビン自身がかなり力をいれてプロデュースしたものと知り、それまで単なるアメリカのテレビ、映画の渋い俳優とだけ思っていたマクギャビンは、われわれ数奇者の中で神格化された。

『X−FAIL』の原型とも言える番組であり、『X』にはこの『コルチャック』へのオマージュが各所にちりばめられていた。事件の黒幕でマクギャビンが特別出演する、という噂も流れていたことがあり、実現しなかったのが惜しまれる。

また、われわれを狂喜させたのは声をアテた大塚周夫の抜群のハマり様であり、以前、日記に
「これは大塚周夫の独演会である」
と書いたら、それをとり・みきさんが大塚さんに伝え、大塚さんの
「私、あの番組は大変に力を入れて演じたんです」
との証言を引き出している(『映画吹替王』)。その中で、大塚さんが言っているが、
「あの人(マクギャビン)は大変に演技が上手い人なんです。見ていると、アドリブのセリフをパッと言って、相手が一瞬、対応できなくなってとまどっているシーンがよくありますね」
という指摘も膝を打たせるものだった。

いわゆる捨てゼリフ名人であって、大塚さんはさらにその捨てゼリフにもない
「あ〜ヤダヤダ〜」
というような独白をコルチャックにさせ、結果、元番組にもない、日本独自のコルチャック像を作り出した。あまりにもそれが強烈だったので、例えばロバート・デュバルがアイゼンハワーを演じたドラマ『アイク』でマクギャビンがパットン将軍役で出てきたときなど、しばらく彼だと気がつかなかったくらいである。この時の声優は小林昭二で、それはそれなりにハマっていたのだが。

死亡記事によると彼は反骨精神の持ち主で、自分が以前出演して、いわば出世作となった『探偵マイク・ハマー』のことなどをクソミソに言っていたらしい。ロバート・レッドフォード主演の『ナチュラル』で、彼は“相手が今、ふところに持っている金の額をピッタリあてられる”オカルトみたいな能力の持ち主の悪役を演じて好演だったのだが、何故かキャスティング・ロールにマクギャビンの名がない。たぶん、このときもプロデューサーとケンカなどしたのではあるまいか。

私の究極の人生の目標は、ひょっとしてこの『事件記者コルチャック』を日本でリメイクすることかもしれない。死去の報に接して、少し急がねば、という気になってきた。まずは原作を書くか。ともあれ、深い々々悲しみと共に、黙祷。こういうニュースに接すると、
「あ〜、ヤダヤダ〜」
とつぶやいてしまう……。

Copyright 2006 Shunichi Karasawa