裏モノ日記

裏モノ採集は一見平凡で怠惰なる日常の積み重ねの成果である。

19日

日曜日

バトン灯籠

●今、どこにいる?
新三郎さまの家の前
●今、一番近くに誰がいる?
乳母のお米
●今、どんな服装?
緋縮緬の振り袖にカランコロンと鳴る駒下駄。
●今、誰に会いたい?
萩原新三郎さま
●その人に伝えたいことは?
うらめしや〜。
朝、7時起床。感心に早い。小商人のせがれだったクセがまだ抜けず早起きが体のリズムなのである。モノカキとしては少数派に属するだろう。

日記つけ、何があろうとこれはディフォルト。このときのつけ忘れ。打ち上げには島敏光さん(黒澤明の甥、談之助の親友)が来ていて、
「ねえ唐沢さん、親父(笈田敏夫)は『恐怖奇形人間』のどこに出てるの? こないだ名画座にかかったんで観にいったら、満員札止めで入れなかったんだ」
と言われた。

ゆうべ停滞しているオモテ日記の補完をちょっとしたが、細かいこと忘れている忘れている。くしゃみが10回以上、立て続けに出る。花粉症ではなく、ゆうべの酒で体内に水分がたまっているのである。

トイレに3回以上行くのも朝の習慣。これも酒のせいである。毎晩よく飲む。
「体の疲れは甘味で、心の疲れは酒で癒す」
とは開高健の本で知ったフレーズだが、心の疲れも自分から背負っているようなものだから文句も言えない。Sさんなどから
「唐沢さん耐えすぎです」
などとなぐさめメールが送られてきて、なんとか保っている。とはいえ、酒を飲むとたとえヤケ酒でも、心から楽しいのである。酒飲みは仕方ない。

9時朝食、ひたし豆のスープと伊予柑、ブドウ。母から、某漢方系製剤の驚くべき効果(本来の効能とは全く別のところの)を聞いて、なるほど、と膝を叩く。去年のトンデモ本大賞で佳声先生が演じた『妖魂まだら狐』の記録DVDを見る。やはりさすが。

これを東急エージェンシーに参考として渡さないと、と思っていたら、西手新九郎でその東急エージェンシーK口さんから、今後の猫三味線展開についてメール。私の春からの新仕事にもからめてスポンサーを探しているらしい。さすがいろいろ動くな。

アサ芸原稿、ネタ記事などをいろいろ回って集めるがなかなか筆が進まず、明日回しにする。昼は弁当(シャケ、キノコの佃煮。この佃煮が案外うまい)。

WBCちょい見。参加国の偏りを見るだけでこのスポーツのマイナー性がわかる。こんなバカでかいスタジアムと結構な人数と膨大な専用器具を必要とし、ルールは複雑(だから審判の質が低いとこないだみたいなトラブルが起きる)、時間はかかる、展開はちんたらというスポーツが国際的になるわけもない。……もっとも、上記の条件すべてが高度経済成長期の日本においてその国民性にぴったり合い、国民的スポーツになったわけであるが、もはや旬は過ぎている。いい加減にみんなそれに気づきなさい、という感じ。

あと、TBSのサイトにあった『まんが日本昔ばなし』番組解説。
http://www.tbs.co.jp/program/mukashibanashi.html
「日本各地に伝わる民話をベースにした昔ばなしを二人の語り手が演じるというシンプルな作りにもかかわらず、1枚1枚のセル画をフィルムに撮影するという手の込んだ手法によるアニメーションの質の高さも好評を得、なんと、最高視聴率33.6パーセント(東京)という驚異的数字を叩き出した]
“1枚1枚のセル画をフィルムに撮影するという手の込んだ手法”ってねえ、当時はそんなことどこだってやってた、というか、そういう撮影法しかなかったのですが。そのうち現在のドラマが再放送されるときには
「実在の俳優がいちいちカメラの前で演技するという手の込んだ手法で撮影された」
とか言われる時代が来るんだろうな。

3時、家を出て新宿駅。山手線で鴬谷まで。鴬谷東京キネマ倶楽部にてポカスカジャン結成10周年記念ライブ『キング・オブ・ベスト』。東京キネマ倶楽部は日活映画に出てくるキャバレーみたいな昭和の雰囲気バリバリの会場。映画で使いたいくらい。『大女優宣言』のときのスタッフのみなさんがいて、二階の関係者席に通される。近くの席に吉川潮氏がいたので挨拶しようと思ったらいつの間にか離れた席に移っていた。やはりブラック一派の私は煙たい存在か(笑)。あと、文芸座の三浦さんとか。

階下の一般席を見るに、かなりな巨漢の男性たちの姿があったが、あれは省吾さんの追っかけか、と思ったり(いや、これは『大女優宣言』のときのギャグだ)。

今回は結成10周年記念ライブということで、これまで10年間で作ってきた400曲以上のネタのうちから代表作をアイウエオ順に一曲づつ披露するという趣向。WAHAHAのライブは基本的に長い、というのが相場だから驚かないが、出演者がバテないか心配になる。バックバンドはバンバンバザールだったが、それにピアノで『杉ちゃん&鉄平』の杉浦哲郎さんが加わっていた。

で、ライブ開始。ライブでの彼らは本当に生き生きしている。テレビでは放送できないネタが持ち芸だからだが、笑いのテクニックと音楽の才能はスゴイモノがあるので、テレビ側としても痛しかゆし、ではあろう。実際に省吾さんの多芸ぶりには舌をまいた。『大女優宣言』で、彼に一番いいホンが回って、実はくやしい思いをしていたのだが、今日、そのギャグの引き出しの豊富さを見て、ふむ、ハナっからかなわなかったのだなと再確認。
「君たちは最近mixiとやらで仲良くやっているようだな」
と大久保さんが言うのに笑う。こないだ、杉&哲のコンサートで大久保さんに“省吾さんとタマさんがマイミクになってくれて”と話したのは私だからである。

タッパがありしゃべりの大久保さん、芸達者な省吾さん、そして狂気の入っているタマさんと三人の取り合わせもいい。全部で3時間の長丁場だったが、WAHAHAらしく下ネタも満載。『バナナボート(情熱の露出狂)』では全員ブリーフ一丁になり、その股間からバナナを尽き出して、客に剥かせ、さらに食わせるという悪趣味この上ないネタで場内大パニック、大爆笑。大久保さんが二階席にまで上がってきて、三浦さんにバナナ剥かせていた。

さらにタマさんの『津軽ボサ(津軽弁のボサノバ)』でも露骨な下ネタ単語が(津軽弁だからぼやかされているが)出てきて、スカパーの収録があるのにいいのか、という感じ。「下ネタ、マイナーネタ、放送禁止ネタを恐れるな」という喰イズムが炸裂している。笑いの範疇にタブーを作るな、ということである。売れる、ということは(まず、必ずと言っていいほど)“タブーを破る”ということと同義なのである。お行儀がよくちゃ売れない。いろいろ学んだ3時間だった。

それにしても、アンコールの最後の最後まで熱唱曲を温存しておく三人の体力には脱帽。十年後の二十周年でもやはり脱いでくれるか、三時間やってくれるか。

終わって喰さんに挨拶、三浦さんと今度三人で企画を、という話をちょっと。7時15分といい時間だったので、すぐ辞去。新宿まで山手線で、その後タクシーで下北沢。

『虎の子』(ひさしぶり)でこないだ一乃谷でもらったさえずりのベーコンとあのつさんのみやげのソーセージを食べる会。しら〜、みなみ、mikipoo、私、それにK子。

ベーコン、美味この上なし。もちろんそればかりでなく虎の子の馬刺し、地鶏、牛筋煮込みなどもたっぷり。ふと見ると、奥のテーブルには竹中直人が女性と来ていた。だんだんここも有名人御用達の店になる。
話弾んでいたら、われわれのテーブルの隅に座ったおとなしそうな人が、アボカドとマグロのサラダを
「席の隅をお借りしているので、これを」
と差し出してくれる。
「先ほどから、お話を伺って感心するばかりで」
と言う。K子がすぐ
「あ、ねえねえ、じゃ簿記やらない?」
と薦める。
「何か資格持っているの、あなた?」
とさらに詰め寄ると、
「工学の博士号くらいで」
と言うのに驚く。

NTTで光ファイバーの開発をしているらしい。知人のF氏が富士通で同じ開発研究をしているのでライバルである。凄いエリートだと思うのだが、そういう人が酒の席でのわれわれのバカオタク話を聞いて(本心かどうかわからないが)ひたすら、
「凄いお話を聞けました」
と感心している。不思議なもの。

11時頃帰宅、“マイミクの”省吾さんとタマさんに御挨拶しなかった無礼を詫び、かつ10周年おめでとうございますのメールを打って、寝る。

Copyright 2006 Shunichi Karasawa