裏モノ日記

裏モノ採集は一見平凡で怠惰なる日常の積み重ねの成果である。

1日

木曜日

打ち合わせとサイン会、の記

朝8時半起床。夏バテ解消を目的に11時間寝た。数限りない夢を見た気がするが、明確に覚えているのは二つ。ひとつは宮崎アニメで、19世紀ベル・エポックのパリを舞台に巨大戦闘飛行船をめぐる陰謀があり、万能自転車を駆る主人公とその飼い猫が活躍する話。もうひとつはミュージカルの舞台に出るのだが出番で急いで袖口に行こうとするも劇場がやたら複雑な作りで迷ってしまい、とうとう出番を逸してしまうというもの。まあ夢の定番。どちらも色は非常に美しかったなあ。

入浴より先に朝食。バナナ、ナシ、スープ。こないだ電話インタビューした『札幌人』の原稿ゲラメールにチェック入れて返送。サイン会の件でおぐりからメール。

二見書房から“もし人数が少ないときは劇団のスタッフにさくらで並んでもらうかも”とメールが来たらしく、
「ひょっとして整理券がはけていないのでしょうか」
と不安になっている。はさみこむチラシの件でもナーバスになっているようなのでメールではラチがあかぬと思い電話。

大丈夫、最低でも50人はくると思うよとなぐさめておいて、Y田くんには
「初めてのサイン会で神経質になっている子を脅かすようなことを言わないように」
とかなりキツく叱るメールだしておく。

Y田くんからはすぐ釈明メールきて、言葉の行き違いとのことだったが、
「でも、サイン会は講演会以上に読めなくて恐いんですよ〜」
と、こっちもナーバス。有楽町三省堂は三省堂各店の中でもサイン会などを頻繁に行って慣れているところであり、まかせておけば大丈夫。

おぐりが必要以上に神経質になっているのはファスティングで腹が減っているせいだろう。1時、そのまま京王プラザ。

『猫三味線』の件で佳声先生と制作会社顔合わせ。15分前についたが、もうエースデュースのK社長来ていた。佳声先生も来ている。早いね、みんな。

佳枝さん(佳声先生の娘さん)、製作委員会のSくんと四人、喫茶店で挨拶し、今後のこと。佳枝さん、敏腕マネージャーの面を見せていて頼もし。現在、このプロジェクトに対する出資者がかなり集まっており、10月頭にでも、その出資者を集めて制作委員会の発会式をやりましょう、とSくん。ちょっと興奮する。佳声先生もいろいろ今後の企画案を持っており、それが大変に魅力的な安ではあるが資金が必要。その件も考えましょうと答えておく。

1時間程話して佳声先生送り、その後Sくん、K社長とちょっと今後の打ち合わせヒソヒソ話。企画自体は景気いいが、今回のDVDの制作費はキツキツなので、どう算段するかという話。

とてもさっきまでデカい話をしていたのと同一線上とは思えない金額の話がいろいろ出て、苦笑。もちろん景気いい話もいろいろ。アメリカ側の出資者には、すでに担当のものが説明に今日、飛んだところだとか(早!)。
Sくんの提出した、売り方二案に対し、こういう風に分けて両面作戦で行ったら、とサジェスチョン。Sくんの持つ思いがけないルートが役立つかも、ということで、思いがけない組織の名前が出る。そこで私が大きい顔をしたらヒステリー起こすひとたちが多そうなところでもある。Sくんも話しながら
「なんか、自分がいま、すごいプロジェクト動かしているんだという実感がわいて興奮してきました」
と。頑張ってくれたまい。

別れて、西口まで歩く途中、蕎麦屋が開いていたので蕎麦を食う。昼メニューと夜からのメニューの切り替え時でお客との間にトラブル多し。しかもおばさんの説明拙劣。出てきた蕎麦も、生蕎麦のはずなのに干し蕎麦にしか思えぬほど。タクシーで渋谷の仕事場へ。

アサ芸ゲラ戻し一本。と学会に関連するMLで今後の展開が面白そうなものあり。5時45分、出て有楽町へ。

交通会館3階『JUNE』でサイン会待ち合わせ。もう三省堂の店長さんと二見の営業のYさん来ていた。それからツチダさん、おぐり、金沢くんら若手陣。Y田くんいつもの通りワタワタしながら来て、チラシ折り込みを若手とやっている。二見は公演予告チラシを、各書店に回って挟み込ませてくれるそうで、その好意に感謝。

Y田くんも、藤本さんの描く私とおぐりの似顔イラストをシャチハタのハンコにして用意してくれるという準備のよさ。『JUNE』の店長のおばさんにも頼まれて店に飾る色紙にサイン。サイン会開始6時半。

書店にすでにモナぽさんなどいる。
「もうすごく並んでいますよ」
と言われてみると、店の外に本を持った人たちが長蛇の列。まずホッとした。さすが慣れているというか、女店員さんから紹介があり、マイク渡されて二人で挨拶。さて、サインにかかる。50人くらいと朝、おぐりに言ったがそれから1時間半途切れずずっと続いた。整理券ナンバーでは80人ということだったが、一人で三冊も持ってくる人や、別に色紙にも、と言ってくる人もいて、だいたい100冊以上にはサインした。

1時間半で止めたのも書店の都合で、最後までやっていたら150人以上にはなったろう。二見書房がここに納入していた冊数では足りず、あわててY田さんが神保町に取りにいかせたくらいだった。おぐりの友だちの人が何人も来てくれていたが、これは朝の段階で不安になったおぐりが召集をかけたもの。暑い中並んでもらうことになってしまって申し訳ない。私の知人・友人もたくさん。談笑さんカワハラさんの二人は挨拶だけで帰ってしまったが、後でカワハラさんのメールに曰く、談笑さんの言
「(カラサワさん見ていると)高所恐怖症になる」
……それほどじゃアリマセン。幻冬舎のMさんが来たので、おぐりに紹介すると
「トテビジじゃないですかー! トテカワのYさんといい、幻冬舎ってそういう会社ですか」
と。また、装丁の山下さんが列に並んでくれていた。他に三才ブックスTさんSさん、なぜか二見のF津くん、カラン卿さん、ルーさん、一斗茶太さん、ペンパル募集さん力丸さんなどなど。こちらもあまりの人数にサインし続けて頭がボーッとなり、碌な応対できぬままになってしまった。サイン会とかはこれが難である。

藤本さんも来てくれて、いつの間にかサインしている後ろに立っている。
「これこれ、こんなものを!」
とおぐりがスタンプを見せたら驚いていた。1時間半後、“最後に並ぼうな!”と決意していたという三才ブックスのTくんSくんにサインして、無事終了。

いきなり“では、サインに関する雑学を”と店長にふられてオタついてしまったが、脳が疲れていたんだろう。盛況で店も出版社も大喜びで、まず面目をほどこした。各方面への顔つなぎさせるためにおぐりを打ち上げに誘いたかったがファスティングの調整期間だというのでおかゆ以外食べられない。残念だがそのまま返して、じゃ、今日はウチワだけでと、Y田さん、それから会社がこの近くのTくんSくんに案内させ、交通会館ビル地下の『千鳥』という漁師居酒屋へ。

Sさんお勧めの店。藤本さんは行方不明。
『千鳥』店内、南極観測船の写真とペンギンの剥製がもう何十年もという感じで飾ってある。その隣にはなぜかワニの剥製。ざっかけない、昭和の匂い芬々の居酒屋で嬉しい。サラリーマン街にはこういう店が必要なのだ。

途中でおぐりからY田さんに携帯で、藤本さんとモナぽさんがさまよっている、というのでY田さん迎えに行き、総勢6名で改めて乾杯。

イワシの刺身、鯵のなめろう、いかのわた焼き、マンボウの腸煮など魚類大変おいしい。みんなはビールだったが私だけ冷酒頼んで、いい気分で酔いつつ話題いろいろ。Y田さん、Sさん、三省堂の仕切りのうまさに感心していた。

「マイクで挨拶してもらえれば聞いた人がテレビでのあの声を思い出すから」
という店長のアイデアもまさに適中だったし、あの時間帯(夕方6時半から)というのが最初不安だったが見事、サラリーマン層の帰宅時間帯にピッタリだったと。そう言えばこれほどお客さんのネクタイ率の高いサイン会も初めてかも。

これまでは何かオタクっぽい大学生あたりが主流だったのである。課長か部長クラスであろう人が
「同い年です」
と言ってサイン求めてきて、ちょっとダアとなった一幕もあった。営業のY本さんにも言われたが、若い感覚でいられるというのはフリー商売の特権かも。他にTさんのラジオライフ連載のベ鬼のイラストで笑った話などして、10時半の看板までい続けた。帰宅してシャワー浴びて飲み直しつつ、カワハラさん、それから佳声先生の娘さんなどにメール。

Copyright 2006 Shunichi Karasawa