裏モノ日記

裏モノ採集は一見平凡で怠惰なる日常の積み重ねの成果である。

13日

火曜日

日本ちんつぶ

 あのボーイズラブコミックの名作を小松左京が小説化!(マジに読んでみたいですな)。朝6時45分まで寝る。と、言うか、気絶状態。起きると頭がクラクラして、足元が定まらない。とはいえ、スピリッツの酔いなので、ワインなどでの二日酔い的な苦しさはなし。ないが変な感じ。朝食、ミニトマトとコーンのサラダ。コーンは仙 台野菜で、甘い々々。
http://limbo54.exblog.jp/m2004-04-01/

 チェックしたゲラと図版資料をパイデザに、お弁当と一緒に渡してもらうよう、母に委託。着替えて通勤。昨日、帰ってきた記憶も定かでないながら、ちゃんとズボンをシワにならぬようズボンかけにかけているのが神妙というか何というか。8時25分のバスでいつも通り通勤。仕事場についた段階でもう、汗でTシャツがぐしょ濡れになっている。パンツまで含めて全部脱いで仕事着に着替える。濡れたものを身につ けながら仕事するのが一番体力を奪うような気がする。

 仕事着に着替えて原稿、『FRIDAY』四コマネタとコラム一気に。それから、昨日書きかけのSFマガジン原稿にかかる。毎日々々、この日記を読んでいる人にはカラサワという男は文字ばかり書いている人間だと思われるだろうが、小説とは違い雑文書きであるから、本数は多くとも枚数的にはそれほど多くない。連載原稿だけでいけば月平均70枚。これに書き下ろしが同量程度加わり、飛び込み原稿がナラシで月10枚というところ。合わせて月産で400字詰め150枚、一日にすると5枚平均である。大したことないようにも見えるし、大したもののようにも見える。それにこの日記を合わせるとまず、かなりの文字量を毎日書き流していることは確か。

 弁当、ナスと肉のはさみ揚げ。2時にSFマガジン完成させて編集部にメール、2時に着替えて外出、東武ホテルで待ち合わせて時間割へ移動、ミリオンのS氏と打ち合わせ、リニューアル『GON!』の件。先日はH編集長と特集記事執筆の件での打ち合わせであったが、今回は連載コラム原稿の件で。Sさんはウルトラセブン関係のコレクターとしては日本で五本の指に入るとされる人物であり、レトロ系オタクでもある(セブン関係も、今のフィギュア等にはあまり興味がなく、あくまで放映当時のものにこだわっている)。話は当然、合う。さらに企画として、ユニーク人物伝というものも考えているそうで、うわの空のティーチャ佐川真さんの話をしたら非常に興味を持ち、いろいろと訊いてくる。今度の公演のどの日でも、観に行って取材をした いとのこと。

 打ち合わせ終えて帰宅、また全部服を着替える。うわの空事務所のツチダマさんに『GON!』の件、問い合わせ。パイデザから同人誌の図版が足りないと言われたので、追加図版を選定する。鶴岡から電話、企画をどこかに売りたいというので、さっ き会ったばかりのSさんのメールアドレスを教える。

 6時45分、タクシーで新宿ロフトプラスワンへ。『創』の執筆者、関係者によるトークライブ。S山さんが店先で待っているので一緒に入る。今日は私は単なるゲストである。渡辺やよいさんと、まんだらけ原稿流出事件について語ってくれないかというので、渡辺さんとの義理もあって引き受けた。一緒に壇上にあがるのは山本夜羽音氏。この二人が壇上で一緒に並ぶと言うのも奇観と言える。楽屋で山本氏と挨拶。“いろいろ外野が騒いでるようですねえ”と山本氏苦笑。それを期待する者が多いらしいが、そんな風にわれわれが騒動を起こせば、渡辺氏にどれだけの迷惑がかかるか ということは考えないのかね、とか答える。

 二人で山本氏の向精神薬話とか、無難な世間話(まあ、政治向きの討論よりは無難であろう)をしていたら、平野店長が“ヨウ、久しぶり”と入ってきて、ご機嫌な様子で、話題を政治向きの方に持って行こうとする。郡山氏(今日の、最後のコーナーに出演する)のビデオの話などをし、山本氏と私が意見を言うと、
「このオッサン(私のことである)は、いつでも素直じゃなくって、ナナメからものごとを斬るからねエ」
 などと言って笑っている。ある意味ハッピーな親父だ。社会というものは混乱・混沌としたものの方が面白い、という一点が、彼と私の唯一の共通認識項だろう。彼はその混乱・混沌を世界を変革する出発点と見、私は全ての方向性や目的性を失い、た だ乱雑さのみが残った終末期の段階と見る、という違いがあるが。

 で、肝心の渡辺さんが、交通渋滞に巻き込まれたとかでなかなか到着しない。とやかくするうちに時間になったので、仕方なく私と山本氏のみで壇上に上がる(司会はS田編集長)。山本氏曰く“今日はグーパンチとかはしません”、私“この二人が並ぶ光景はなかなか見られないので貴重かも”と。で、S田さんとしばらく話すうちに渡辺さんも到着して登壇。私は、以前にもこのロフトで『創』はまんだらけ問題をとりあげているので、観客もこの件とその経過についてはある程度熟知していると思っていたら、そこらへんを押さえている人は三割くらいに過ぎなかった。改めて一から解説するには、持ち時間があまりに不足である。仕方なく、そっちの方はざっと流し て、エロ漫画業界の現状を山本さんと漫才のように話す。
「例えば、官憲が山本夜羽音の漫画を敵視してブラック・リストに載っけるなんてことになったら、山本さんみたいな人には勲章でしょ?」
「喜んじゃいますね、そうなったら」
 なんて会話。

 あと、S田編集長はこういう問題を特集していながら、レディース・コミックなど の世界には詳しくないらしく、渡辺さんに
「ああいうのって、みんな作者の体験談なの?」
 という、セクハラ一歩手前のような質問を繰り返し、聞いていてハラハラする。
「体験談であれだけの数の作品、書けるわけないでしょう。レディース・ブームのとき、私なんか、ありとあらゆる職業の男との不倫話をとにかく毎日考えては書いていたんだから」
 と脇から言うが、それでもなお、“わかんないな、体験なしに描けるの?”などと言い続けている。最初与えられていた時間は30分だったが、次のコーナーの出演者の田代まさし氏が大幅に遅れたため、結局一時間ほどしゃべる。質疑応答で、女性向けのエロには、例えば“眼鏡っ子”萌え、みたいなものは出てこないのか、と言う質問があったので、眼鏡萌えのようなフェチズムは極めて男性性の強いものであることを説明(女性でフェチ系の趣味に傾むく場合は、“オタク”という、性差とは別の次元のファクターが必要になる)。山本氏、女性向けエロでフェチ漫画が出てきたときがひとつの性メディアの革命になるのではないか、と。酔っぱらいのからみ上戸みたいなヘンな質問者が最前列にいて、クダ巻くようにわめいてうるさかったので、
「『創』の客層ってこんなのがいつもいるんですか」
 と言うと、山本氏、
「いや、こういう客はロフトの伝統だから」
 と言うので、
「私のイベントのときにはいないよ!」
 と叫ぶ。後で、来ていた斎藤さんから、この発言で拍手しちゃいました、と言われた。最後は山本氏が、
「えー、ご存じの通りわたし、趣味で反戦活動をやってまして」
 と(趣味で、というのが私を意識していたのかどうか、とにかく笑える)、先日のワールドピースナウのデモで逮捕されたメンバーの釈放運動にカンパを求める。

 さて帰るかと楽屋にカバンを取りに戻ったら、郡山氏がいて、当然ながらこっちがどういう人間だか知らずに、“お疲れさまです”とか挨拶してきた。私も挨拶して、“壇上はかなり暑いですよ”と言う。せっかくだから、も少し何か話そうかと一瞬思うが、K子から“待っているのよ、早く帰って!”という携帯の連絡があり、また、氏のその表情の、あまりにイノセントなこと(“きょとん”という表現が最も適当しているような顔つきだった)にちょっと驚いて、なるほど、と(ナニがなるほど、なのかはまた後日どこかに書くが)思い、そのまま帰る。『創』のKさんには、盛り上 がってよかった、と喜ばれた。

 S山さんと店を出る。久しぶりに山本氏と会ったわけだが、生き方の不器用さが個性になっている人というのは歳がいくと難儀だろうなあ、という感想であった。ファンなのか、店から追っかけてきてサイン求められる。タクシーで急いで新中野まで。I矢くん、ナンビョー鈴木くんが来宅していた。肉のつけ揚げ、コーンと青マメのフライ、鰻パン巻き、チーズコロッケなど夏向きの料理。ビール進む。あと、仙台キャベツと鶏肉のポトフでワイン。話題は次回の東京大会のことなど。来年は司会は談之 助さんに譲って、私は裏方でと言うと、I矢くんから、
「いや、カラサワさんや談之助師匠のように、壇上での安定感を観客に与えるタイプ は、やはり表の方に出ていてもらわないと」
 と言われる。確かに、どちらで私がより有能かというと、壇上の方において、ではあるが。要はI矢くんの権限を大幅に強化することが最善の方法なのかも知れぬ、と思う。鈴木くんは自転車で来ていた。以前、盗まれたやつを執念で取り戻したのだと か。

Copyright 2006 Shunichi Karasawa