裏モノ日記

裏モノ採集は一見平凡で怠惰なる日常の積み重ねの成果である。

15日

日曜日

一行(いっこう)知識掲示板

 古谷一行さんについてのトリビアを書き込んでくださいね。ゆうべ帰宅したのが、1時半。ひさびさの午前様である(しかしこの午前様といい、日本人はうまい言葉を作るねえ。日本語がダメになったのは、シャレを低級なものとして見るようになったからではないかと思う。もちろん、そう見られるようなどうしようもないシャレを連 発した親父族が悪いんだが)。おかげで今日はひさびさに8時起き。

 朝食は唐辛子パスタを中華風スープで。あと、ブラッドオレンジ。服薬入浴洗顔歯磨等、例の如し。ミリオン出版の販促用ポップ二十枚を書く。二十枚となると、なかなかの作業量。それでも、某書店などは一〇〇冊単位での注文も来ているとか。営業さんがきちんと働いてくれている、という感じで好ましい。

 母からカレーと、最後のクルミ、届く。母は“なんかねえ、困ったことに、この家(札幌の実家)が無くなるということに、何にも感傷がないのよねえ”と、言っている。札幌の建築というのは、冬の雪や寒さに備えた実用一辺倒な作りであり、感傷が生まれにくいのかもしれない。感傷という情動は、無駄なもの、不必要なもの、しかしなぜかずっと身近にあったものの消失に付与する性質のものなのではないか。

 昼は青山で買い物。ケンタッキーフライドチキンを買って帰り、ビデオのダビングをしながらムシャつく。一年に一回くらいならうまい。メールで、軍事マニアの知人から、次回と学会例会に参加希望の件。軍事マニアらしく“どうかご許可願いたくあります”と書いてきているのが可笑しい。この言い回し、このあいだの産経新聞掲載の『ピーナッツ』でも、スヌーピーの兄(弟?)のスパイクが、塹壕の兵隊という設定(まあ、自分内世界なのだろうが)で“したくあります”と使っていた。こういう言葉使いがスッと出るのは谷川俊太郎だからであって、若い翻訳者には出来ない芸な のではないだろうか(軍事マニアでないかぎり)。

 今夜の短歌ライブに発表する短歌をいくつか作ろうとするが、どうもテンションが上がらず、結局いつもの通り“まあ、その場のアドリブでなんとかなるさ”と出かける。最も悪い癖である。楽屋に6時半入る。まだ笹さんも川上さんも来場せず、銀河ステーション(笹さんプロデュースのアイドルグループ)の日野誠さんが来ていた。斎藤さんに、“お疲れですか”と言われる。別に疲れているわけではないのだが。また早々と開田あやさんが同人誌を売り場に陣取っていた。エロ小説朗読のCD−ロムを作っている女性の方に紹介される。視覚障害者の人たちへのボランティアなのだがこれ、別な意味での需要があるのではないか、と思う。談之助夫妻も来てくれていた ので、ちょっといろいろ打ち合わせ。

 やがて、川上さん(紺のセーラー服姿)、笹さん来て、今日の構成最終打ち合わせをする。ノッケに銀河ステーションを出して歌わせることにする。引かれる危険性はあるが、まあ今日の客なら大丈夫だろう、という感じで。全体の時間が、7時半開始で、深夜イベントがあるので10時45分には撤去しないといけない。3時間15分の持ち時間だが、今日は笹さんも川上さんも自著を売る時間を多くとりたいだろうから、それに30分使うとなると、実質、壇上でのトークは2時間45分である。昔はロフトでのトークと言えば4時間が基本だった。トシをとって、時間が短いのは疲れないから有り難くはあるが、ちょっと物足りない。2時間くらいが過ぎてから、テン ションがグーッと上がるという場合もあるんである。

 6時半開演、銀河ステーション、まずまずの受け。特に39歳のアイドルというウリのMASAKIの異様な存在感に客が驚いていた模様。存在感というより異物感であるか。その後、まず前半は短歌の世界ってどうよ、的な概論。両者の短歌を朗読してもらったが、さすが女優で情念たっぷりに歌いあげる川上さんと、ブッキラボーに 早口で詠み進めていく笹さんの対比が妙。

 五七五七七のリズムの魅力の謎、にもちょっと迫りたかったが、時間がなくてそこまでは行けず。私も脳がホントに働かず、いつものようにヒョイヒョイと実例の歌が出てこない。それでも『ウルトラマン万葉集』などをネタに、即興で作ったナウシカ 短歌
「金の野に青き衣の少女立ち ランランララ ランラララララ」
 などというアホなものを詠んでまず、笑いはとる。

 休み時間は本の販売とサイン会。私は今回は売るものがないので見ていただけだったが、両者共に購買とサインの列がずっととぎれない。これは凄い。後半は実作編。お題をこちらが出して、お客さんにそのテーマでとりあえず、短歌を作ってもらう。こういう観客参加型のライブを、私はあまりやったことがない。反応が悪くて、ほとんど作ってくれる人がいないという場合の気まずさがライブのテンションをやたら下げる危険性があるためである(中学校の修学旅行で、バスガイドさんが“みなさんで川柳を作ってみましょう!”と呼びかけたことがあり、そのときのシラケぶりの悲惨さがトラウマになっているのかもしれない)。今回はまあ、この三人のメンツであればそういう場合でも何とかつなげるだろうと思ってやってみたのだが、これが思わぬ活況を呈し、どんどんとお客さんから反応がある。鶴岡の弟子だという(私の孫弟子か、すると?)モリヤマくんという人をはじめ、自分も短歌を詠んでいるという人たちが、何人も客席に来てくれていたため、らしい。開田さんたちもいろいろと発表し てくれた。有り難し。

 11時45分、時間通りにお開き。いい具合に盛り上がったので、ぜひ次回もやりましょう、ということになり、それまでのお題を出す。『恋』『ロボット』『赤子』のどれかを詠んだ歌を、ロフトプラスワンのサイトに近々、応募コーナーが設けられるそうなので、そこに書き込んでいただきたい(コーナーが出来たらトップページに 告知)。次回は5月に行う予定。

 終わった後も、なお本は売れ続けている。二人とも、持ってきた本は完売、川上さんなどは、壇上で紹介したデビュー短歌集が欲しいという人もいたので、それを売っていた。QPさん、IPPANさん、S山などの他に、珍しくぐれいすさんなども来場してくれていた。打ち上げには元・明和伝記の土佐正道ん、漫画家の杉木ヤスコさんなど、総勢20名近くが来てくれたので、入れる店の定番を、ということで久しぶりに『炙屋』へ。ワイワイ話して、何がなにやら。ふと気がついたら1時半。連夜の 午前様であった。こういうのも結構。

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