裏モノ日記

裏モノ採集は一見平凡で怠惰なる日常の積み重ねの成果である。

4日

水曜日

真田DO YOU SEE?

 いまの忍術を見たかい? 朝、寝床で博文館の繪本稗史小説(大正9年刊)第十巻『笠松峠鬼神敵討』を半分くらいまで読む。7時半起床。朝食、ソバ粉のパンケーキ に昨夜作っておいたリンゴソース、メイプルシロップ。

 午前中はずっと原稿書き。廣済堂出版のエッセイコラム集の書き下ろし。ただしこの本のコンセプトは、これまで雑誌などに単発で乗せた原稿の内容を、形式を統一させて新コラムに仕立てて活用する、というものなので、完全な書き下ろしではない。7枚半、書き上げたものをひとまず編集のIくんの元にメール、そのIくんとの打ち 合わせ用にプリントアウトしたものを持って、外出。

 買い物をすませて、兆楽で味噌ラーメン。スープに酢をジャブジャブ注いで。それから二時に時間割。Iくんに原稿を読んでもらい、それから、そろそろこの本の最終締切に関しての打ち合わせ。さらに『クルー』連載エッセイを廣済堂で発売してもらう件について、それから、かつて大和書房でIくんに編集してもらった『B級裏モノ 探偵団』の文庫化の話。一度に三冊の本の打ち合わせをした。

 雑談も少し。新中野のマンションの話も出る。Iくんはひとつ手前の中野坂上に住んでいるのだそうである。“しかしよく買えましたね”と言われる。私が買ったわけではない、女房が買ったのです、と答える。古川柳にも曰く“どこからか出して女房 帯を買ひ”というアレでありますな。

 少し街へ出ての用事もあったのだが、すぐ帰宅する。打ち合わせで『クルー』のことを話しているうち、その締切が昨日であったのを思い出したのであった。急いで書庫にもぐり、ネタ本を探し出してきて、執筆にかかる。ここの原稿は一回四○○字詰め2枚半という短いものだが、なかなか、2枚半にまとめて言いたいことを尽くすというのは難しい。2時半から2時間かけて、やっと一本原稿をアゲ、ついでにさっきIくんと打ち合わせた内容も併せて、4時半にメール。今朝の単行本用の原稿7枚半はリライトとはいえまるまる書き直して1時間かからずに書き上げたのだから、書きものというのは不思議である。

 快楽亭の師匠から久しぶりに電話。なんと、中野武蔵野ホール閉館、とのこと。日本映画の興行収入が過去最高になった、とマスコミは浮かれているが、その影で、若い映画クリエイターには発表の場を与え、古い映画ファンには滅多に観られない作品を上映し、と、地道に映画文化の土台を支えてきた、こういう小上映館がなくなっていく。寂しい。ちょっと閉館記念特集の企画に関わってほしい、という話。

 某出版社某くんからメール。最近の日記の内容が面白いが、“タダで読ませちゃいけません”とのこと。呵々。彼とも出版スケジュールの打ち合わせ。テンションが非常に上がってきた感じがメールのやりとりをしていて如実に感じる。昨日の日記の内 容に対し、こんな批評を書いてくれたサイトがあった。
「唐沢の論の盲点は、誰にでもすぐ判ると思うけど、肝心の日本政府は残念ながら唐沢氏の聡明な理性をはるかに下回るレベルで機能している、ということだ。日本の建設官僚は破綻するのが判っていても実際に破綻するまで道路を作り続けるだろうし、防衛族は大阪城か戦艦大和なみに実効性が疑わしい「ミサイル防衛計画」とやらを導入するつもりらしいし、国会議員の4割が将来の核兵器装備を望んでいるのである。なにしろNPT体制脱退という北朝鮮並みにDQNな国防を、“普通の国家”に相応しいと考えている連中なのである(あるいは国民も?)。“効率が悪い”という理由で徴兵制がありえない、というのは理想主義的でいささか現実離れしているように思う(中略)もし徴兵制によってどっかのバカが金儲けできる可能性があるのなら、そ
の動機の説得力を否定できる人が今の日本社会に存在するのだろうか?」
 一理も二理もある反論だと思うけれど、道路や防衛という、すでに国にその“システム”が存在し、その上に乗っかることで利益が懐に転がり込む仕組みと、敗戦とその後の50年にわたる平和絶対主義によりシステムそのものが消失し、いま、また新たにそれを立ち上げねばならない徴兵制度とを横並びにして論じることは意味がないだろう。道路族・防衛族が政治の世界で強いのは、そのシステムがかつての戦後日本の国是を背景にがっちりと形作られ、その上に楽にあぐらをかくことが可能だからである。一方で、外交というそれまでなかった場所に集金システムを一から立ち上げようと独創性を発揮した鈴木宗男の野望はアッサリと潰えている。出来たての足場が弱いところというのは攻撃を受けやすいのである。ましてや“徴兵〜軍事国家へ”という、世界じゅうから目の敵にされるような物騒なシステムに手を出して大やけどを負う危険をあえて犯すような“悪徳”政治家は存在しえないと言い切ってもいい。悪党は用心深いから悪党足り得るのである。石原、小泉、石破と、いま徴兵制度を復活させたがっている(小泉サンはどうかしらないが)政治家たちを見てみるがいい。金儲けの巧そうなヤツは一人もいない。彼らを動かしているのは純粋な信念と理念だ。純粋というのは現在の政治の世界ではバカと同義語である。バカだから、実現も不可能 なようなことを旗印に上げ続けているのである。人はついてこない。

 原稿アゲてから一旦外出、書店で資料などあさる。少し時間を食って、今日の7時半の待ち合わせに、家に帰ってトンボ返りで出なければいけなくなる。マンションのドアの前に行ったら、いま仕事場から帰ったK子が出るところだった。丁度いいので一緒に行くことにする。タクシー拾い、乗ったK子が“新宿の紀伊国屋本店前まで”と言う。今日の食事は仙台のあのつくん、パイデザ平塚夫妻と『鳥源』でであった。何食わぬ顔をしていたが、実は今日の食事は『くりくり』で、だとカン違いをしていた。K子と出会わなければ参宮橋の方へ行っていたところである。内心、胸を撫でお ろした。

 鳥源はメニューいつもの。すなわち鶏刺し、鶏わさ、つくね、若鶏、もつ焼き、それにウズラ。あとは水炊き。雑談いろいろ。新中野の内覧会に行ったとき、受付でK子が“×××号と○○○号のカラサワです”と名乗ったら、二部屋同時購入のお客さま、というので急に係員たちの態度が変わり、下にもおかぬ扱いになったこととか、あのつくんの知り合いが農家で出る生ゴミの処理に大型ディスポーザーを備えたが、粉砕したゴミから発する悪臭がひどくてひどくて、とても使えない代物であること、地方都市から東京へ帰ってくる某氏の帰京祝いをしなければならないのだが、失職して帰るわけだから、お祝いと言っていいのかどうか、ということなど。なんだかんだ で10時半頃までワイワイ。

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