裏モノ日記

裏モノ採集は一見平凡で怠惰なる日常の積み重ねの成果である。

24日

火曜日

さよならチビ太ー

 君は〜とても〜小さくて〜♪ 朝、最悪のコンディションで起床。鼻はグズグズ、頭は痛い。首の両脇のリンパも腫れていて触ると痛い。朝食作っているうちにだいぶ楽にはなった。オートミール作って食べる。それとポンカン。オートミールは塩を入れすぎてしょっぱくなったが、それはそれでおいしい。鼻をかむと、黄色い色の洟が出る。急性の副鼻腔炎を起こしているらしい。久々の正統派の風邪である。頭の中がぼーっとする感覚に、一瞬、小学生時代に意識がタイムスリップする。あの頃は本当 にしょっちゅう、風邪をひいていた。

 日記書き、メールやりとりし、それやこれやで午前中は過ぎる。寝転がって東洋文庫『幽明録』などぼんやりした頭で読む。もう何べんも読み返した六朝時代の志怪ものだが、こういう状態で読むには適した読み物である。私が好きなのは、『貧乏性』という題のエピソードで、京口(江蘇省)で川岸に流れ着いた枝を拾って生活していた、徐郎という貧乏な男の話。あるとき、いつものように川岸に出ると、川一面を覆うほどの船団がやってきて碇をおろし、そこから使者が徐郎のもとにやってくると、
「このたび天女が徐どのの妻となられることになった」
 と言った。仰天した徐は家に逃げ込んだまま、隅にかくれて出てこなかったが、母や兄妹がむりやりすすめて連れだし、船に乗せた。そして天女の待つ船室に連れて行かれたが、徐は恐懼するばかりで、寝台のはしに膝を揃えて座ったまま、夜になっても夫婦の交わりをしようともしない。天女は怒って徐を追い返した。家族はせっかくのチャンスを、とくやしがってせめたてたので、徐はくよくよとふさぎこんで、それきり死んでしまった、という話。これまで、似たような引っ込み思案で人生のチャンスを棒にふった連中を何人も知っているので、読むたびに、彼らの顔がこの徐という男の顔に重なって見えてイラつくが、しかしまた、この徐、どうしても憎めないので ある。

 しばらく休んで、体調はやや回復。昼はパックごはんでお茶漬けで流し込んですます。さて、仕事も片付けないと、と、まず遅れきっているWeb現代にかかる。ところが不思議や、書きだしてみると、こんな状態にもかかわらずスイスイと筆がすすんで、3時半までに11枚を書き上げて完成、この調子なら、と続けて『Memo・男の部屋』もやると、これも1時間かからずに4枚完成、いきおいこんででは、と、廣済堂出版に渡す原稿のうちの一本6枚半も書き上げてしまった。通常に勝るペースである。要はとにかく書き出す、そのテンションなんだなあ、と思う。で、その書き出 しテンションは、別にそう高くなくてもいいのだ。ひとつ学んだ気がする。

 しかし、肩は凝ってますます重くなる。今夜は中野武蔵野ホールでトークもあり、風邪のときにどうかと思ったが、電話をかけて、マッサージしてもらうことにする。サウナで汗をかいておけば、鼻水も垂れないだろうと思ったのである。脱衣場で体重を測ったら、2キロ減っていた。風邪のおかげでダイエットできたか。1時間、揉みほぐしてもらって、かなり楽になった。そこから、タクシーで中野。クリスマスイブで、武蔵野ホールに入る小路の入り口のところのコージーコーナーなど、ケーキを買う客でごったがえしている。今の若者もやはり、クリスマスにはケーキという定番は 疑わないで実行するのか。じゃあ、正月にはお供えも飾るのか?

 武蔵野ホールで会場を待つ客の中に、廣済堂のIくんがいたので、原稿と、フロッピー渡す。それから、中田雅喜さんがいた。KRT(後のTBS)の資料室から借り出して来たという、当時の番組の資料を見せてもらう。快楽亭とのトークが終わったら映画を観るつもりだったが、終わったら飲みましょう、と言うので、K子に電話し て、待ち合わせの時間を決める(携帯を忘れて出てしまった)。

 トークは15分なので、さほど面白いことも言えず。観客は20人ほど。ホールのIさん曰く、“いや、去年のイブよりずっといい”とのこと。終わって、近くの路地の奥のバー『ブリック』でKさん、快楽亭と。この店は以前、松村克也監督の『オールナイトロング』レイトショーのときに、やはり武蔵野ホールでトークをやり、その打ち上げに使った店だったと記憶しているが、入ったらボーイに、帽子を脱ぐようにと言われた。レストランならともかく、バーで帽子取らなくてもいいじゃないか。松村くんとの飲み会ではそんなこと言われた記憶はなかったが、違う店だったか?

 K子も来て、しばらく四方山の映画ばなし。角川大映のこととか、円谷プロの話とか。Iさん、私が小野栄一の甥と聞いて驚いていた。今年の春、末広亭で伯父を見ているそうである。懐かしかったなあ、と言っていた。店を出て11時。K子と『とらじ』で食事。焼きものは塩カルビと、風邪対策のニンニクホイル焼きのみ。あとはレバ刺しにテールスープ、冷麺。アルコールもよしてウーロン茶にする。私にしては珍しい。満席の状況だったが、奥の方に、やたら大きい声で英語で話す女性がいた。顔を見ると、斎藤由貴の顔をちょっと小さくしたような美人だったが、まず、純粋な日本人である。相手の男も日本人らしいが、何語で話しているかはわからない。と、言うより、普通なら会話が聞こえるような距離ではない。彼女の声がデカすぎるのだ。何で英語で話しているのか不明だが、またその彼女の英語が、流暢ではあるが、所謂NOVA英語である。一語々々が妙に明白すぎて、しかも声が大きい。習った英語というのは何故か、相手に向かって説得したり教授したりという感じの口調になりがちである。注文は日本語でしたのかな。

 店の支払いは今日のギャランティ(あの程度の仕事でいただくのは申し訳なし)でまかなう。タクシー拾うべく通りに出たが、急に寒気が襲ってくる。風が冷たいこともあるが、メシを食って血液が胃の方に行ってしまったせいもあるか。ゾクゾクというよりガクガク、という感じでふるえが全身に走る。マラリアに罹ったような気分であった。しばらくじっとしているうちにおさまって、ホッとする。渋谷について外に出たが、風ははるかに温かい。同じ東京でも違うものだ、と感心。鼻炎の薬と救心をのんで、温かくして寝る。

Copyright 2006 Shunichi Karasawa