裏モノ日記

裏モノ採集は一見平凡で怠惰なる日常の積み重ねの成果である。

13日

水曜日

トマス・焼きナス

 喪中につきシャレは他所からの借り物(某国営放送局Yくんの日記から)。朝6時目を覚ます。すでに母は片付けなどしている。どころか、なんと2時に起きて(いつもこの時間に起きてパパの様子を見ていたので習慣になっちゃっているのよ、とのこと)一旦からさわ薬局に行き、葬儀中に送らねばならないクスリ類の手配をしてきたそうである。火事場のバカ力的ハイテンションであろう。なをき夫婦と朝食とって、タクシー呼んでもらい、札幌駅へ。スカイライナーで新千歳空港まで40分。空港でコンテンツ・ファンド出演者へのオミヤゲを買い、よしこさんがザウルスで予約してくれた航空券を買い、スタジオで食べる昼飯の弁当を買う。弁当はウニ飯。1100円のと1150円のとがあり、50円の差はいずこに、とためつすがめつ見ていたら売り子のお姉ちゃんが“つけ合わせの貝がホタテかツブかの違いです”と教えてくれた。ホタテのを買う。

 JAS機内、いくら疲れているとはいえ、飛行機の中ってのはなかなか眠れないんだよなあ、などとなをきと話していて、フと気がつくと目の前に“お休みでしたのでサービスは遠慮させていただきました”というシールが三枚並んで貼られていた。飛行機に乗っていて落ちた、はエンギでもない。空港で明日の待ち合わせ時間を確認してなをき夫婦と別れ、タクシーで渋谷まで。とりあえずメール等確認しようと思い、パソコンにつなごうとしたが、ニフティの番号変更のためつながらず。平塚くんに電話して、やり方教えてもらって変更。その間に仕事がらみの電話数本。自宅にいる時間を教えたわけではないのに、よくまあこうピッタリと電話してくるものである。結局、15日の井上デザイン事務所のパーティには出られないことになってしまったので、声だけでも挨拶をしようと、テープに吹き込む。

 そのテープを速達で出して、タクシーで芝公園スタジオ、1時45分入り。打ち合わせになんとか間にあう。FABコミュニケーションのTさん、ブレーン仲間の西山さん、鈴木さん、福岡沙耶歌ちゃん、司会の押田恵さん等に、北海道限定バージョンリカちゃん(トラピストの修道院姿、ヨサコイソーラン祭、エア・ドゥスッチー服など)ミニ人形をプレゼント。打ち合わせしながらウニ弁を食う。さすが高いだけあっ てうまかった。

 今日はコンテンツファンド、三本撮りである。一回二本撮り基本でやっているのだが、何回かに一回、放映回数をあわせるために三本撮りになるそうだ。ブレーンの女の子は最初が福岡沙耶歌、それから内藤陽子、秋山実希と入れ代わる。岡田さんはいつもの通り本番からスタジオ入り。結局、昨日のCS撮影は眠田さんと世間話だったそうだ。親父が死ぬとおふくろがかえって元気になるという話。“ウチの母親なんか余命3年と言われて今年で3年目なのにピンピンしてますよ”。談之助師匠のところも開田画伯の家もみんなそうらしい。女は強いね。

 本日のクリエイターさんはそういうわけで全部で9組。いずれもデザイン力、アイデアにはいいものがあると思う。しかしながら、メダマとなるような人がいない。たぶん、ランプも黄色が一つか二つつけばいい方、という感じなのである。なぜかというと、アイデアを絵にしました、という段階でとどまっているものがほとんどで、具体的に売り物になるまでの出来(完成度、という意味ではない。購買意欲を起こすためのフックが完備されているということである)にまで達していないんである。イケイケドンドンの時代でない、こういう不景気の御時世では、バイヤーの意識は、できるだけリスクの少ない、見た目で商品価値が判断できるもの、使い道のはっきりしているもの、に向かいがちである。海のものとも山のものともわからないようなクリエイターに金を出す企業はあまりない。そういう市場の状況など、ちょっと耳を働かせればいくらでも情報が入ってくるだろう。コンテスト番組とは違い、こういう売り込みの場では、そのような状況判断が出来ているかどうか、が大きな別れ道となる。

 たまたま今日、機内で読んでいた週刊文春(6月14日号)に、島田紳介の談話が載っていた。あの漫才ブームの狂乱の中で、この不良少年あがりの男はきっちりと自分の商品価値と、その後の方向性を見定める努力をしている。
「“やすし・きよし”師匠や“巨人・阪神”さんは正統派漫才で、僕らは障害レースやから、分野が違うんですね。だから正直言うて、その時マークしてたのは“(大平サブロー・シロー”ですわ。普通のコンビは力合わせても百にならんけど、この二人が協力したら百点満点になるんです。それが脅威やった。けど幸い最後までそれはなくて(笑)、二人は百を超えてショートしたんです」
「漫才ブームの後に“ピン”(単独で仕事をする)の時代が来る、その時どうするか僕はそればっかり考えてました。(中略)僕、たけしさんはどうするのかなと思ってました。役者ではないだろうと。そしたら、たけしさんが“役者はいけねぇよな”ってボソッと。僕が“いけませんよね”。後年、(片岡)鶴ちゃんと当時の話をしたら彼は“司会は紳介さんに敵わないから自分は役者でいこうと思った”って。残る人は考えてますよ。流されてない」
「さんまは長島茂雄。鋭いオチがあるわけやないのに華がある。何でもないサードゴロを華麗に取るんです(笑)。あの明るさには敵いません。(中略)僕はむしろ『わくわく動物ランド』の方に力入れてました。これを機にお茶の間に入らないかんと」
 もちろん、この番組に出場するクリエイターたちは、まだ漫才ブーム以前の、なんとか世に出ようとあがいている時代の紳介だろう。しかし、その年齢で紳介は、テレビの漫才コンクールで優秀賞を取ったB&Bの島田洋七を見て、これから認められる 笑いというのはこういうものではないか、と直感し、自分の青春を
「この人を倒すことに賭けてみよう」
 と決心し、洋七の師匠である島田洋介のもとへ弟子入りするのである。これを計算高すぎるとか、芸人らしくないとか批評できるのは、“芸人がすでに芸だけで食べていかれる時代ではない”ことをわかっていない人である。自らの才能がどの方向に向いているか、は人それぞれだろう。だが、その才能でメシを食いたいと思ったら、世間がどれくらい自分の才能を欲しているかを計算し、世間に自分の才能をどうやって認めさせるか、その最適な方法を判断し、世間の認めるカタチにその才能をパッケージングする努力が必要なのだ。いいものを作ればわかってくれる、と単純に言えるほど、世の中は甘くない。自己プロデュース能力のない連中は消えていくしかないのである。

 今回、そういう意味でサジェスチョンしたのは#15に登場の、don(ドン)さんという女性のオリジナルキャラクター。自分のキャラクターをデザインしたTシャツやジュエリースタンド、携帯ホルダーなどのアイデアを持ってきたが、無名のデザイナーのキャラクターが、そのまま商品になる可能性は極めて低い。まず、そのキャラクターを世間に認知させて、シカルノチにそれが商品化される、というのが通常のパターンである。幸い、イマっぽい感覚で女の子が描ける人だと見たので、“最初はこのキャラクターを主人公にしたマンガを発表すべき。もし何だったら、編集部を紹介してもいいです”と言った。結局、彼女に黄色の交渉ランプをつけた二つのうち一社はソニー・マガジンで、ウチの雑誌に描いてもらいたいという話。ねらった通りになったようでうれしかった。

 もちろん、才能というのは計算通り花が咲くだけのものではない。“バケる”やつというのが必ず全体の数パーセントはいる(ただし、数パーの確率に自分を賭けるのはバカのやることである。あくまで、これは例外的な天賦の才の持ち主だけに許されたことだ)。今回のクリエイターで、御本人のキャラが面白かったのは、バクチ好きで、マカオでカジノにハマり、もう一度そこへ行く旅費が欲しいので応募した、という濱中久美子さん(#17)、作品が興味深かったのはちょっと今の日本のカワイイ路線からはずれた絵柄のキャラを描く綿貫香代美さん(同)。いずれもランプ全く無しだったが、何か今後バケるんじゃないか、という可能性を感じる。

 そして、私が一オシだったのがデザイン・フェスなどによく出品しているという、イツジヒロツグ氏(本職はテレビの大道具などだとか)の、キャストフィギュア『緊縛ストラップ』(#16)。要するにSM縛り人形の携帯ストラップである。造型は見事、SMという目のつけどころも抜群、ユーモアとインパクトをあわせもっているセンスのシロモノだ。司会の勝村政信さんが大喜び、私も大喜び。こういうのはダメな岡田斗司夫が頭を抱えて“コレは勝村さんと唐沢さんにおまかせですから”とナゲた。ちゃんと勝村、岡田、唐沢、押田、それに西村各キャラの緊縛人形まで作ってきている凝り方。大感心大喜悦であるが、しかし、このセンスを許容する企業が果してあるか、ひょっとするとバイヤーさんたち個人が面白がってしまってオワリ、なのではないか、ということも感じた。その危惧を正直に話すと、イツジ氏もわかっているようで、プレゼンテーションはただ、“カミングアウトを期待します”の一言のみ。そして、さてフタを開けた結果はというと。後は番組を見てのお楽しみ。

 岡田さんもフィギュア王のバンジー・ジャンプ取材でくたびれ果てていると見え、休息時間、控え室でゲームやっている最中にオチたそうである。私は気力でテンションをアゲていたが、さすがに三本撮りはキツく、三本目はかなり不機嫌になり、最後のデザイナー・チーム『3CUE』のキャラデザインに関し、“ビデオで紹介された個々人の絵はオモシロイのに、チームで作った絵が一番ツマラナイ”と放り投げ、岡田さんが彼らに“ここをこうすれば(ト、彼らに具体的な指示あって)、カラサワさんも、あんな投げやりな態度とらなくなる”などとフォローする。岡田斗司夫にフォローされた経験のある人というのも珍しいかもしれない。どうもすいません。

 収録そのものはサクサク終わり、8時30分前にアガり。岡田さんは娘さんを迎えに行く約束がある、と、自分の出番終わったあたりで先に帰る。前回西山さんを誘ったので、今回は鈴木さんも入れて、などと思っていたのだが、事情が事情。かんべんしてもらって帰宅。日記つけ、電話数本受け、食べるものが何もないので、冷蔵庫の中のクサヤの干物とエビセンベイでビール飲み、空港で買ったJALの機内食『らーめんDEスカイ』を食べて寝る。とにかくクタビレた。親父にはすまないが悲しむのは明日以降ってことで。

Copyright 2006 Shunichi Karasawa